恋の色 陸
怖い。
怖くて、
怖くて、たまらなくて。
誰も私を見てくれないのに、
助けるはずの王子様も大好きな友達にあげちゃった。
そんな私を誰が助けるというのだろう
インターホンを押しても鈴の家からは物音ひとつ聞こえず、私は体をぶるりと震わせ悠里を押しのけると、ドアノブに手をかけぐるりと回す。
「開いてる…嘘でしょ?」
「開けちまえよ、優奈。」
「はぁ!?ありえない、そんなんしたら私達泥棒だよ!」
「でも、開いてるってことは理由があるに決まってんじゃんか。」
「…分かった。」
「ダメだったら俺が責任は取ってやる!」
「いいよ、そんなことしなくたってさぁーw」
「ま、もしもの事があっからなー」
そのまま引っ張ると、ガチャリと大きな音がしてドアが開き、中の様子が目に飛び込んできて、私はおもわず目を閉じかけた。…だって、あったのは赤い、血のような液体。それが玄関から奥に続くリビングに向かって大量に繋がっているのだ。
「ひっ…」
「優奈?…怖いんだったら、外。出ててもいいぜ。」
「ううん…あの子が、鈴がなに思ってるか分かるまで私は帰らない。」
「…じゃ、行くか。」
「う、うん。」
私は、恐る恐る足を前へと伸ばす。ぷるぷると腕が震えて、鳥肌がたった。顔が絶対に真っ青だ。これは今までのどれよりも自信がある。
「す、鈴ー?居ます、かー?」
「…?なんか聞こえなかったか?」
「へ!?え、聞こえなかった、けど。」
私がビビりまくってカチンコチンに固まっている間に、悠里が颯々と声が聞こえたらしい部屋に行くから、私は声を大にして、待て!と言ってやりたいくらいだった。だけど、弱音は言ってられないし…腹くくっていくこう。
「!?…鈴。」
「鈴!?」
「ぁ…ゅ、り…く、ん…それ、に…ゅ、な…?」
「なに!?どうしたの、その傷っ!?」
「鈴、なにがあったんだ?」
「ぁ、こ…れ、ぉか…ぁ、さん…」
妙に冷静な悠里に反して、私は焦りまくって傷だらけな鈴に走り寄った。本当は血の匂いとか、消毒液みたいな鼻に付く匂いが吐き気を催して近づくなんてもっての外って感じだったのに、頭の命令を聞かずに体は勝手に動いた。
「鈴、鈴っ!!!」
「優奈、落ち着け。」
「落ち着けない!鈴がこんなになってんのに!」
「落ち着け。」
「なんで悠里は涼しい顔してんの!?フった女だから?そうな訳?」
「優奈っ!!」
「っ…」
「そんな事、思ってるわけねぇだろっ!」
バチッと音が響いて、頬が熱いことが分かってやっと叩かれたんだとわかった。悠里が私にごめんと焦ったように言ったけど、今のは完全に私が悪い…やだなぁ、本当に…悪いことばっかだ…
「ゆ、な…ちゃ、ありが、と…」
「どうした、の、鈴…私、何にもしてないよ、何にもっ、出来てないのにっ…ありがとうなんて、やめてよ…」
「わ…たしの、た、めに…泣ぃ、てくれ、てる…」
「…っゔ、鈴っ…!」
「鈴、俺、フったのに、ほんとこんなこと言うの、馬鹿みたいだし、イラつくと思う…でも、聞いてくれるか?」
「ぅ、ん…きく、よ…」
「俺、前にお前にすげぇ酷いこと言ったよな…あれ、訂正させてくれ。お前、すっげぇ頑張ってたんだな…こんなにキツイ環境で、可愛い自分ってのを必死に作って…」
「…ごめ、んっ…もう、きけ、ない。かも…泣き、そ…うっ、ひっく…」
ポタポタと鈴の涙がフローリングに落ちるのを見て、愕然とした。鈴の思ってたことって、私みたいなバカじゃ到底理解できるわけがない、海みたいに深い、深くて静かな悲しみ…バカみたいだ、私…
「優奈、救急車呼んでくれるか?」
「う、うん。」
「ごめ、ん…ね。ゆう、な…ちゃ、ん…ほんとは私、理夢、ちゃ、んがうらやま、しくて…」
「鈴、もう喋らないほうがいい。」
「私、ほんと、バカだ、ね…だっ、て…あーゆうこと、する、意外、に、何にも…思いつかなかっ、たから…」
「悠里、電話したよ。」
「あぁ…」
「ダメ、だよ、ゆ、りくん…君、…理。夢にやくそ、くしたんでしょ…泣いちゃ、ダメだよ…」
二人が交わっているあの空間だけ、少しの時間を許された神域の様で何もできない私は場違いの場所に来た様な気がする…恥ずかしいことだ。助けられるのは結局私じゃなくて悠里だった。…まぁ、期待なんかしてなかったけれど…
「悠里、救急車のサイレンが聞こえる…行こう。」
「そうだな…鈴、立てるか?」
「ごめ…むり、かも…」
「じゃあ、おぶるから首に腕回してくれ。」
「あり、がと。」
「ドア、開けるね…」
ガチャリと音が嫌に耳に響いた。…ダメだ。どうして私ってこんなに最悪なんだろう…鈴が悠里にこんなことされてるかと思うと、嫉妬でどうにかなっちゃいそうだよ…私が、私が爆発しなかったのは理夢がいたからなのに…
「あ、あなたが電話をくれた方でしょうか?」
「は、はい!えっと、あの子が…」
「はい、あの女の子ですね…お二人は怪我などはございませんか?」
「ぁ…はい、ない、です。」
「すみません、容体がよろしいとは言えませんので直ぐに病院に行くのですが、お二人は行きますか?」
「ぇっと…あの「はい、行きます。」
「はい、分かりました。患者さんの車に乗っていただけますか?」
「は、はい。」
「行くぞ、優奈。」
怖いよ…私だけひとりぼっちみたいだ。悠里がまるで別人みたいで、怖いよ。…理夢。理夢…帰ってきてほしいよ、アレは嘘だったんだよって笑って抱きしめてほしいよ…それを、それを叶えてくれるなら、私はどうなってもいいのに、ねぇ…




