p.52[煌く一閃]
分身と争うドラゴンを見て、まだ死なないのかと思った。
宙を絡み合うドラゴン。甲殻はほぼ全て剥がれ落ち、翼は折れ、角は曲がり、全身からは血が流れている。
なんでコレで死なないのか。
「どうやったら殺せるんだ?」
『首を絶てばいいんじゃないかな?』
流石にそこまでやれば死ぬか。
カゼノさんからアレース様の剣を受け取りドラゴンへと向かう。
「んじゃ援護よろしく」
『気を付けてね』
「死なない程度に頑張ってくださいね」
応援の言葉を背に空中を蹴る。
『我は神の御使い』のおかげで相手からの攻撃はある程度守ってくれるし、二人の援護もある。やってやれない事は無い。
「一気に行くぞ!『初めの一歩』」
ドラゴンとの距離を一気に詰める。体に掛かるGは魔法で打ち消しているので負担はかかって無い。魔法ってやっぱり便利だ。
俺に気付いたのだろう。ドラゴンは復体を胴体で叩き、距離を取ると口を天に向け力を貯め始めた。
これは恐らくブレスだ。魔力が集まっているのが分かる。正確には精霊なんだっけか。
俺の考えは当たっていたようで俺が接近しきる前にブレスが放たれる。ブレスを薙ぐ(な)。復体がブレスの熱量で消滅し、さらに俺を狙う。
[未来予測]で軌道は分かっているのでソレを直前で回避する。防御用に展開されている風を自分に巻き付け、半ば飛ばされるように回避する。軌道修正されると避けきれないのでコレはナイス判断かな?
飛ばされる風の勢いも合わせ更に接近。ブレスを避けられ危険だと思ったのか、追加で魔法を放ってきた。
発動したのは、火の玉の軍勢。一つ一つの魔法は小さいがそれが幾百もあれば話が変わってくる。
まず回避が出来ない。連鎖も怖いし、こちらから魔法を放っても数を減らしきるにはちと厳しい。
「[狂気の酒杯]。『水操作』」
『『風の悪戯』』
どうしたものかと考えていると支援が入った。
カゼノさんが[狂気の酒杯]を取り出し、杯から出た水を操作して俺の周りに球体を作る。風呂の下りで話した感じにかなり近い。
[狂気の酒杯]のせいで片腕を失ったので心配だったのだがソコはジズがカバーしてくれた。蒸発した空気をコントロールしてくれるなら俺が気にすることは何一つない。
突貫するのみ!
ボボボボボボボボボボボボボボボボ!!
オボボオボボボオッボオボオボボボ!!
水の球体を身に纏い火の玉へと自らぶつかる。
火の玉がぶつかるたびに炸裂音が俺へと届くがそれも進む度に頻度が少なくなっていった。
炎に包まれた視界を抜けるとドラゴンは目の前だった。
「さっさとくたばりやがれ!」
キュォォォォォォォォオオオオオオオォォン!!
それはこれまで聞いたどの方向よりも力づよいものだった。
だが残念。相手は俺だけじゃないんだ。
咆哮が終わると同時にジズが横からドラゴンの首を鷲掴みにした。
ドラゴンが叫ぼうとする度に、足の爪で掴んだ首?の部分を伸ばすように引っ張ったり、振り回して大人しくさせる。
ドラゴンが一瞬グッタリした瞬間、風の刃が引き伸ばされた首に血飛沫を上げさせた。カゼノさんの魔法か。
「俺の番だな!...『振動剣』!!」
振動剣。SFなんかでは結構見たことがあるかもしれない。
高周波発生器を武器に取り付け、刀身を超振動する事で絶大な威力を発揮する。
この世界にそんな便利な機械は無いが魔法ならある。原理を知っていれば出来ない事は無い。
カゼノさんが放った風の刃が切り裂いた部分と重ねる様に剣を振る。
刀身が短くて切断しきるには物足りないが、一回で切断しろと言う訳では無い。何度も剣を振るう。
返り血で紅い飛沫が舞う中、肉を断つ感触を何度も味わった。
ドラゴンも何度も抵抗するがその全てはカゼノさんとジズによって防がれた。
「コレで終わりだ―――!」
おそらく最後の一刀。その感覚を胸に剣を振り切ればドラゴンは二つに分かれその命を散らした。
ジズがドラゴンを掴んでいた足を離し、俺を背に乗せる。その背には先約が居たようで、カゼノさんに寄りかかる様に身を預ける。
「...お疲れ様でした。ツバサさん」
「ありがと...あぁ、白と茶色の毛をした犬が見える」
「そのうち天使が降りて来るかもしれませんね」
カゼノさんと軽口を聞きながらドラゴンが地に落ちた音を聞いた。
『生き物は近くには居ないようだね』
「あー、王が居たんだっけなそういえば」
「気を抜きすぎです。仕方ありませんが」
ジズの背に乗って地上に降りた。
そこには頭部と長い胴体とに分けられたドラゴンだった物が転がっていた。
「頭部だけ残して後は焼くか」
『ツバサの魔力が無いようだったら私が焼いておこうか?』
「頼んだ」
完全な火葬とは行かないがコレで許してほしい。目に見る証拠は何よりも大切なものなんだ。
炎の道を見ていているようなドラゴンの火葬を終わらせアビーさんの元へと戻った。
そこでは歓声がまき起こっていた。俺達三人がドラゴンの首を持ってやって来たのだから。
ジズをドラゴン形態のままで戻るようなヘマをするなんて事も無かった。カゼノさんに関しては諦めてもらった。こればかりは我慢してもらおう。
王は魔法使いを連れてやって来ていたみたいだが、無事、兵士達に捕縛されていた。
王都の魔法使い全てを連れてきたみたいだが、兵士達の物量には勝てなかったようだ。魔法使いに関しては俺とカゼノさん、ジズの姿を見るなり全員が泡を吹いて倒れた。強大な魔力に耐えられなかったのと本物の使徒に喧嘩を売り、事の大きさに気付いた事が原因だそうだ。
王の処分についてだが、名目上は俺の手助けと言う形で落ち着いた。大人の都合があるのである。
我に返った魔法使いの人達に土下座されて、王都の監視は私たちが責任を持って行うから神罰を下さないでくれ、と泣きつかれてしまったので命を懸けて守ってくれるだろう。ついでに魔道具の生成方法を教えておいた。コレで生活は豊かになっていく事だろう。
街に帰ると凱旋が行われた。もちろん俺が主役だ。何ともこそばゆい物だった。
屋敷に戻るとアリシアに抱き疲れたのには驚いたが、片腕という物足りなさを感じながら抱きしめ返した。
オースティンさんやメイドの皆さん方には貴族の在り方というものを寝る魔も惜しんで教え込まれた。キツイ物だったがアリシアの夫になるには仕方ない。そう思って頑張った。
アネモイ様の神殿入口には俺とカゼノさんの像が立ち、広場の真ん中にはドラゴン形態のジズの像が建てられた。コレでドラゴンが狩られる事は無くなるだろう。
「お疲れ様でした」
気付けば俺が死んでから初めて目にした光景がそこには広がっていた。
そう、アネモイ様の空間だ。
「ありがとうございます」
アネモイ様は嬉しそうに笑っていた。
「一つお願いがあるのですが...」
「聞くだけ聞いてみましょう」
「カゼノさんを生き返らせられないでしょうか」
「流石に厳しいです...ですが、今回だけですからね?」
アネモイ様のその一言によって腰の魔導書ホルダーから、重みが消えた。
「ジズとかいうドラゴンの元に送っておきましたよ」
「ありがとうございました」
こうして俺は異世界で助けてくれた相棒と別れたのだった。
カゼノさんとジズは上手くいくだろうか...人とドラゴンだしなぁー。
いやいや、俺もアリシアにきちんとした結婚申し込みをしないと...。
私の駄文を最後まで読んで頂きありがとうございました。
とんでもないミスを平然とやらかしてしまう私ですが無事、最後まで書き終る事が出来て嬉しく思います。
後日談は私自身があまり好きでは無いのと、気力が持たないので書く事は無いと思います。
読んでくださった皆様方。本当にありがとうございました。




