p.51[三人寄れば文殊の魔法]
ジズを鳥型のドラゴンだとすると、目の前のアイツは蛇型だと言うべきか。
穴から出てきたドラゴンはそんな容姿だった。
細長くうねる蛇の体に二対の蝙蝠の翼。頭部にはカジキのような立派な角が生えていた。
だが、ソイツは満身創痍という言葉が似合っていた。
粉塵爆発によって剥がれた甲殻。異臭を放つ爛れた皮膚。根元から折れ、力無くブラ下がる翼。自慢の角でさえ少し湾曲しているように見えた。
それでいても宙に浮いているし、戦いをやめる気は無いようで鋭い眼光を俺達に向けた。
「この状態であの魔法の威力か...」
『どれだけの精霊を殺したのか...。全く、嘔吐が出るね』
キュァァァァァアアアーーーン!
キュッ、アァァァァーーーン!
『言葉さえ失ったか…同じドラゴンとして情けないね』
「それも仕方ありません。それだけの事があったのです」
耳が潰れそうな程の甲高い声を出して威嚇する。
破壊された体をくねらせて威嚇するその姿はとても痛々しかった。
「『風の抜け道』」
「『浮遊剣』」
先手必勝とばかりに魔法を唱える。
カゼノさんがソレを感じ取ったのか先んじて魔法の補助をしてくれた。
今回の戦闘でアビーさん、オースティンさんが俺の為に用意してくれた剣の数は百五十本。その全ての剣が俺の背後から姿を現す。運ぶのがめんどくさかったがソコは魔法で運んだ。
剣をドラゴンの頭上に運び、照準を合わせて発射。カゼノさんが作ってくれた『風の抜け道』を通り、その速度を加速させる。
だが、ドラゴンだって黙ってみている訳では無い。飛翔する剣を打ち落とそうと岩の砲弾を飛ばす。
いくつかの剣は打ち払われてしまったがそれでも大した問題では無い。
これは陽動なのだから。
『『韋駄天』』
剣に意識を向けている内にジズが魔法名を唱えた。
ジズの周囲の空間が歪んだかと思えば、ドラゴンへと一直線に風の槍が幾つも刺さっていたのである。
甲殻を砕き、肉を抉り、骨を断つ。
風の槍たちはドラゴンを昆虫標本の様に縫いとめて見せた。
『あまり拘束は出来ないよ』
ジズからの念話が届いた。
ソレを聞いた俺は再度剣をドラゴンへと向かわせる。
十分に勢いの付いたソレは、甲殻にぶち当たりながらも進行を止めない。
砕け散った甲殻と剣の刃がポロポロと地面に落ちていくが、肉へとその身をもぐらせる剣もあった。
その事を確認して魔法剣の方陣を発動。何本かの剣の刀身が赤く発熱し爆発した。
爆発は他の剣も巻き込み、砕けた剣の破片は新たな凶器としてドラゴンへと向かっていくのだった。
キュゥゥゥウッゥ――――ン!
その鳴き声を聞いたときは悲鳴でも上げているのかと思ったが、それは見当違いだった。
声が治まるとドラゴンの体を風が覆い尽くし、己の身に刺さった刃を破壊した。
それだけでは飽き足らず俺達を一瞥すると体を縮めて突撃体制を取る。
『散開!!』
ジズの声が聞こえると同時に体が勝手に動いた。食らえば一撃で死ぬ、と直感で反射を起こしたのかもしれない。
ジズが飛び立ち、俺とカゼノさんは空を蹴って範囲から逃れる。
と、同時 —— ゴウッ! —— と耳がやられたかと思うほどの勢いで何かが通り抜けて行った。
勿論ドラゴンであるのは分かるが目で追えない。溜めの行動をしていたからノーモーションで行えるとは思えないが注意するべきだ。
『我は神の御使い』の効果のおかげで助かった。『飛行』を唱えようとしていたら俺も仲良く抉れた地面の仲間入りをしていたことだろう。
突進の勢いのまま大きく旋回したドラゴンは的が大きいジズを目標にしたようだ。逃げ回るジズを追う様に身をくねらせる。
「ジズ!俺を乗せろ!」
その光景を見ていてある事を思いついた。
失敗すれば何も無いが、成功すれば相手に大きなダメージを与える事が出来る。
高速で動き回るジズに乗るには、なるべく同じ様な速度を出す必要があるが、スピードタイプのジズに合わせるのは無理なのでカゼノさんにドラゴンの動きを封じていてもらおう。
「『石壁』......『竜巻』。『砂塵』」
「今だ!」
カゼノさんがジズとドラゴンの中間地点へと大きな壁を出す。速度の乗ったドラゴンはその壁を避けようともせず追突。追い打ちを掛けるように砂交じりの竜巻がドラゴンを襲った。高速で当たる砂と甲殻とで摩擦熱が生じ、新たに甲殻を剥がし、その身に線を増やしていく。
「何で俺がやろうとしたことやるかな...」
俺も似たような事を考えていた。
ジズに乗ってドラゴンと追いかけっこをして、速度が乗ったところに砂を出す。摩擦熱と目つぶしを狙ったものだがカゼノさんが似たような事をしてしまったのでやる気がそがれた。
『何かやるのかい?』
「ああー、カゼノさんに先を越された」
仕方ないので加勢する事にしよう。
「...『復体』」
これは禁書の中に描かれていた魔法だ。ドラゴンに有効だったとかなんとか。
魔法を唱えると空中に水で作られた円が出来上がり、そこから砂嵐に巻き込まれているドラゴンと同じ形状のドラゴンが現れた。
偽物だと分かっているが恐ろしい物だ。
『さしぶりにその魔法を見たよ。彼が残していたんだね』
どうやら禁書を残した人物とジズは面識があるらしい。
それはさておき、ドラゴンが砂嵐を突破したようだ。
ドラゴンは目の前に移る己と同じ姿をしたドラゴンを見ると咆哮を一つ。襲い掛かった。
カジキの様な角が復体(ドッペルゲンガ―)に突き刺さるが何のダメージにはならない。互いにもつれあう様に動き地面へと追突した。
「『風の抜け道』」
カゼノさんに目を向けるとディアナ様の神具であると思われる銀の弓を持っていた。
弓をつがえる様に持てば、何もない空間から金属の矢が編み込まれ手元に収まる。
ヒュッン!! ズドンッ!!
カゼノさんの魔法によって加速するその矢は重い音を立て根元までドラゴンに突き刺さった。
『『黄金の羽』』
ジズが空を飛び、一つ羽ばたけば魔力によって硬化した黄金に輝く羽が、光の道を描きながらドラゴンへと突き刺さる。
表皮を引き裂き鮮血が舞い散る。その光景は銃によって蜂の巣にされたかのようだった。
「『死者の国』」
俺からはこの魔法。
エルフの細胞のように死を遠ざける物もあれば、逆に死へと導いていくものもある。コレはそういう魔法である。魔法と言うより呪いに近いかもしれない。
ドラゴンの真下へと浮かぶ魔法陣からはドス黒い煙が立ち上っており、ドラゴンの体内へと侵食している姿が見えた。
汚染された肉は黒く染まり、壊死してしまったかのようだ。文字通り、肉が泡立っていた。




