p.50[奇襲]
遅れてしまい申し訳ありません
魔道書を片手に空を飛ぶ。
速度を出し過ぎると塵やら何やらが飛んできて痛いので、軽く風の壁を張っている。
スキルの[旅人の記憶]で目的地までの道のりはだいたい分かる。方向音痴では無くなったぜ!やったぜ!
どうやら目的地がハッキリしていればスキルが発動するようだった。
カゼノさんに連れられてジズに会いに行く時には発動しなかったから、この推測で合ってるはずだ。
途中で人間化したジズと合流して目的地に向かう。ジズが本来の姿で現れたら兵士が混乱するので人間の姿で来てもらった。
よく考えてみたら、人間、魔導書、ドラゴン、この組み合わせは変なもんだなと思う。
そんな事を考えながら飛んでいると、眼前、と言うか下に何台もの馬車が止まっていた。兵士の姿も見えるので、ここら辺に陣を敷くんだろう。
「見ろ!人間どもがゴミのようだ!」
「だね~」
ネタが分からないジズを余所に地上に降り立つ。
その隊の隊長と思われる人がやって来て俺とジズを本陣の所まで案内してくれた。
本陣と言っても、片方はドラゴン、もう一方は王と魔法部隊という板挟み状態なので最奥にあるとかそんな事も無かった。
「お待ちしていましたツバサ様。お隣の方が...」
「そうですね。彼の名前はジズと言います」
「よろしく頼むよ」
本陣で待っていたのはアビーさんだった。もちろん隣にはセバスチャンが控えている。
ジズが戦闘に参加する一人だと説明する。
ちなみにオースティンさんは他の神殿の枢機卿の方々と街に居残りだそうだ。
「三人と仰らていましたけどもう御一人はどうされたのでしょうか」
俺とジズの二人しかいないので不安だったのだろうか。アビーさんが尋ねてきた。
魔導書片手に「コイツです」とか言う訳にもいかないのでカゼノさんに出てきてほしかっただが、彼女が拒否したので適当に濁しておいた。
警備の状況や兵の配置などを教えて貰い、大まかな戦闘範囲を決める。
その後は大勢の兵士達に囲まれ、鉱山へと見送られた。
「『鉄粉』。『風の悪戯』」
ドラゴンが冬眠している洞窟の入り口に到着した。結構奥まった所にあった上に、魔法によって遮蔽されていた。コレのおかげで見つからなかったのだろう。
土魔法で酸化していない金属の粉を出し、洞窟内部に行きわたる様に飛ばす。
まだドラゴンにバレてないかな?少し急ごう。
「『着火』」
魔法名を言った瞬間洞窟内を炎が走った。小さな火種は周囲に散った鉄粉に着火していき、その勢いを増していく。
炎の勢いが治まるころには、パラパラと天井部分から土が降っていた。
「崩れませn」
「『断空』」
ガガッガガッガガガガガガガガガガッ ———————!
ガガガガガガガガガガガガガガガガガ ———————!
「何か言った?」
「いいえ何も」
山が盛大な音を立てて崩れ落ちていく。一部陥没したと思えばその穴は範囲を増していき、崩れ落ちる。
カゼノさんが何かいいたげな視線を向けて来るが知らないフリをする。
ちなみに今使った魔法は一定空間を真空にする魔法である。粉塵爆発と同じ様に限られた空間内では無類の強さを発揮するのでは無いだろうか。どちらも窒息させているのは同じなのだが、粉塵爆発は火傷なんかもするから一概にどちらが強いとも言えない。
「やったのかい?」
「ジズ、それはフラグだ...」
山が崩れ落ちると同時にジズが放った一言に鳥肌が立った。
全く何してくれるんだよ。
ジズが建てたフラグを折る前に変化があった。
崩れ落ちた山から巨大な火柱が立ち上がったのだ。
とっさにジズとカゼノさんで障壁を張り、火柱から距離を取る。
融解した石や岩などが火山弾の様に四方八方に飛散し、そのいくつかは二人が張った障壁へと当たり、砕け散った。
火柱が消えると地面には穴が開いていた。
魔力が見える今なら分かるが、穴の周囲には呼吸するかのように光る部分——魔力——が街で見たのとは大違いなほどに多くあった。
魔力が濃いのか?精霊が多いのか?火柱が治まる前には無かった現象の正体は俺には分からない。
「魔力が多すぎないか?分からないがこんなものなのか?」
ジズかカゼノさんなら何か知ってるかと思い、顔を向ければいつもの無表情を更に険しくしたカゼノさんと怒りで魔法が溶けかかっているのかドラゴンと人間の中間の様な姿をしたジズが居た。
「ツバサ、アレはダメだ。殺そう」
「ソレは勿論そのつもりだがどうかしたのか」
「今の魔法は精霊を殺して魔力を奪って使ったものだ。そんな事許されない」
カゼノさんから魔法について教えて貰ったことを少し思い出していた。
この世界には精霊が居る。マジックミラーの様な物に遮られていて、こちらからは姿を確認する事は出来ないが精霊からは見ることが出来る。
精霊は情が湧きやすく、情に厚い。人間がその場所に何十年も篭っているだけで情が湧き、魔法を使う力を貸してくれる。
ならばドラゴンはどうか。このドラゴンの冬眠の長さは五百年ほどとアネモイ様は言っていた。
人間を十年とすればドラゴンはその五十倍だ。ましてやドラゴンは魔法を創った種族。魔法には誰よりも精通していると言えるだろう。
精霊の助力を得て魔法を使う精霊魔法も、自力で使う属性魔法も扱えて当然だ。
だが、これはどれでも無い。
精霊から魔力だけを取り込んで自分の魔法として使う。精霊を魔力タンクとして使っているのだ。
『『我は風の化身』』
「...『我は神の御使い』」
ジズが本来の姿に戻り、魔法を唱えるのを聞いて思考の海から意識を引っ張り出す。
俺の考えが正しいなら相手の魔力はほぼ無限。出し惜しみなんてしていられない。
我は神の御使いをカゼノさんが人間状態のときに使ったことは無かったので今知ったのだが、この魔法の効果は彼女にも効果を発揮していた。
アネモイ様の紋章が足元に浮かんでいることもそうだが、俺と同類だど思わせる何かがあった。この感覚はカメーリアさんに会った時よりも強くハッキリとしたものだった。
...そうか、使徒同士だと感覚的にそれとなく分かるようになっているのか。
考える事をやめられない。今になって思いつくことが多すぎる。




