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p.34[街の喧騒の中で]

ちょっとキリが悪いですが許してください。

アビーさんの屋敷を出て、カメーリアさんと並んで街道を歩く。


「カメーリアさんは今日も神殿に泊まるんですか?」

「そうですけど、それがどうかしましたか?」

「いえ、ちょっと、付き合って欲しいところがあってですね...。ネストさんに会ってからになるんですけど」

「えぇ、私で良ければご一緒します」


彼女に言いたいことが出来たので、同行を一緒にさせてもらいたいと申し出たのだが、案外アッサリと許可を貰うことが出来た。





「...え、と。ここかな」


手元の魔道書と目の前の宿屋の看板とを見比べる。俺は住所なんて渡されても分からないのでカゼノナビゲーション(俺命名)便りだ。

カメーリアさんには宿の外で待ってもらい、宿に間違いが無いか確認してから戸を開けた。


宿の受付嬢が近付いてきたので、事情を説明し、ネストさんに取り次いでもらう。

因みに、宿に入る前に本の留め具は装着済みだ。もちろん、魔道書——カゼノさんも中に収まっている。


「こんな所まで...わざわざありがとうございます」

「いえいえ、お礼の挨拶が遅れてしまって申し訳ありません」

「それで、どうですかな?着けてみた時の具合とか」


そう言って俺の腰周りを見つめるネストさん。

男に見られる趣味は無いんだけどな...。いや、具合が気になるんだろう、文句は言うまい。


「取り敢えずは大丈夫そうですね。何か問題があれば教えてください。明日の早朝までは居ると思いますから」

「分かりました。丁寧にありがとうございます。それで、お代なんですけど…」

「その件に関してはウィリディヌス様から頂いておりますから」


ウィリディヌス——アビーさんがお代を払ってくれたようだ。申し訳ないな、明日にでも払っておこう。ブレンダンから貰った金もあるしな。


「ありがとうございました」


お礼を言ってネストさんの部屋を後にした。

この宿は食事処も提供しているようで ワイワイガヤガヤ と酒が入ったお客さんが場を沸かす。

いくつかの喧騒が自然と耳に入ってきた。


「、山…宝石…」

「…表に美人」

「……魔法…来た…」


こういう喧騒を聞くのはカゼノさんとロッホ亭に泊まった以来かな?

カメーリアさんを待たせるのも悪いしさっさと表に出るか。


表に出たは良いが、そこでは予想外の展開が巻き起こっていた。


「ねぇちゃ〜ん、おれらと遊ぼぉぜェ」

「...申し訳ありません、人を待っておりますので」

「つれないこと言ってねぇでよぉ、楽しぃ事しよ〜ぜェ」


カメーリアさんが絡まれていたのである。

絡んでいる連中は顔を真っ赤にさせて足取りも覚束無いようだ。

確かにカメーリアさんは、銀髪を結った美しい人物だ。

彼女が帯剣している事からも分かるように、程よく鍛えられた四肢はスラッとしていて男を魅力する事だろう。


「ですから、人を待っていると...」

「こんな美人を、待たせてるんだァ、ろくなやつじゃねぇ〜だろぉ」

「そうだよなぁ〜」


それまで適当に連中をあしらっていたカメーリアさんだったが、連中の言葉を聞いているうちに眉間に皺が寄ってきた。

何か怒るような事でもあったのか?彼女ならそのままあしらう事も出来たはずだが…。


彼女が剣の柄に手を置いたのを見て、流石にヤバイと思い仲介に入る。


「いやー、すいませんねぇ。彼女、私の連れなんですけど何か御用ですか?」


相手を軽く睨みつけて彼らに近づいて行く。地球ではよく目が笑って無いと言われたが、こういう場面では役に立つ。

カメーリアさんの右側に位置取り、腰に手を回して柄に添えられた手を自分の手で覆って剣を抜けない様に抑える。


「っ!ツバサ様」

「ぁあん?誰だァ、オメェ」


カメーリアさんが俺の姿を見て驚くが、その表情は直ぐに安堵のものへと変化した。

逆に、酔っている連中は標的を俺に変更したようで、俺の方へと体ごと視線を向ける。


「行こうか、カメーリアさん」

「え、はい」


捕まる前に逃げ出そうと、カメーリアさんの手を取って逃げ出そう——


「ですよね〜。ったく」


——とするが、俺達を回り込むように何人かが動いた。


俺達を狙うより他の人を狙った方がいいと思うんだけどなぁ。

そんな事が脳裏をよぎるが、まずはコイツらをどうにかしないといけない、と考えを巡らす。


「おいおぃ〜、どこに行こーってんだぁ?」


俺達の正面に回った男が下品な笑みを浮かべる。


あー、面倒臭い。さっさとお帰り願おうか。

腰に留めてある魔道書に手をかざすと、魔道書に描かれていた鎌を持ったカエルが消え、光となって俺の掌に集まった。

集まった光は鎌を形取る。大地神クロノス様の鎌だ。


「すいません。……これ以上絡むと両脚が無くなると思えよ?」

「ヒッ!?」

「ヒャー!」


途中から声のトーンを一つ落とし、具現化した鎌を相手の眼前へと突き出す。

空気を裂くような乾いた音が聞こえた事で相手も正気に戻ったのか、鎌を見て悲鳴をあげた。


「それじゃあ行こうか」

「え、あ、はい」


このスキに逃げようとカメーリアさんに声を掛けるが、彼女も驚いていたので手を引いて半ば強引にこの場を後にする。

鎌を見た通りすがりの人達も騒ぎを聞きつけて人数が集まってきているので、そろそろ引くべきだろう。


人混みを掻き分けるにも鎌が邪魔だ。

鎌を戻そうと念じれば、光となった鎌の感触が手から消え魔道書の絵の一つに戻った。





「ここまで来れば良いだろう」


表から一つ横の路地に抜けた。

家屋の屋根に月が隠れているせいで視界は狭いが、落ち着くまで隠れておく分には問題ないだろう。


「大丈夫でしたか?」

「...すいません」


カメーリアさんに声を掛けたは良いが彼女は顔を俯かせたままだった。


「私が彼らの言葉に反応してしまったせいで...」

「気にしないで下さい、些事ですよ」

「そんな!ツバサ様は使徒なのですよ!?それなのに彼らは碌でもないって!!」


何だそんな事か。

カメーリアさんが尚もいい募ろうとするのに口を挟む。


「残念ながら私はカメーリアさんが思っている程高貴な人間では無いんですよ?使徒に成る前は普通のそこら辺を何も考えずに歩いてる様な、そんな平凡な村人だったんです」

「ですが!!それでもツバサ様は、」

「カメーリアさんが私の為に怒ってくれたというのは嬉しいですが、それで貴女の身に何かあったらどうするんですか?私の為を想うのなら貴女の身の安全も考えてください」


カメーリアさんが落ち着くまで会話は難しいかな?

そう思ったのだが案外早くカメーリアさんが声を上げた。


「...すいませんでした」

「分かってくれればいいんですよ」


彼女の口から出てきた謝罪の言葉は、彼女が本当に反省している様に聞こえた。


「私達は神に同じ使命を託された筈なのに、私の方が器が小さいんですね...」


今の言葉に俺を見下しているようなセリフがあったような気がしたが、器が大きい俺はソコを指摘したりはしない。

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