p.12[木の陰からオッサン]
「加速する鼓動」
魔法を掛けると体温が上がって来たのか体が熱くなってきた。
魔法は発動してる、よな?一旦運んでみるか。
「・・・せーの、よっと」
なんか、簡単に持ち上げれたな。拍子抜けっていうか、魔法が万能すぎてヤバイ。
周りの人達は驚いているのか、俺へと視線が突き刺さる。
一人で持ち上げたのが悪かったのか?確かに重いがさっさと運んでしまおうか。
台車があれば運ぶの楽なのにな~。そんな事を考えつつも勝手口から広場に向かって鍋を運んでいく。
広場は芝が敷かれていて木もチラホラ生えているのが見える。先に鍋を運んでいた人たちの後を追って行くと、すでに炊き出しが始まっているのか、人だかりが出来ていた。
「ちゃんと並んでくださーい!急がなくても沢山ありますからー!」
「一列ですよー!一列!」
鍋を運んでいくと神殿のシスター達は驚いた表情になったが、すぐに引き締め炊き出しの列を整理し始めた。
厨房でもそうだが、なんでそんなに驚いた表情になるのか教えてほしいな。
「この鍋一人で運んだんですか?」
「ん?あ、そうですが」
一人のシスターがそう聞いて来た。
「すいません。予定よりも炊き出しを貰いに来た人達が多くて早めに始めたんですけど、運ぶのが間に合ってなくて・・・」
「まあ、重いですしね。この鍋」
「それで、出来るだけ急いで持って来て欲しいんですけど」
「大丈夫ですよ」
俺は魔法を使ってズルして運んでいるが、この鍋って二人で運ぶものじゃないだろうか。厨房でも女性が殆んどだったし力仕事は厳しいんだろうな。
急いで持って来てくれとの事だったので、厨房へ走って戻る。
「あれ?走るの速くなってる・・・魔法の作用かな」
踏み出す歩幅は普段より大きいし、風を切る感覚も今まで以上に強い気がする。魔法の効果かな?
「すいません。鍋、急いで持って来て欲しいそうなんですけど、今度はどれを運びましょうか」
「!、コレを持ってってくれ」
厨房に戻るとまた驚かれた。やっぱりそんなハイスペースで運べるものじゃないんだろうか。
今気づいたが魔法の副作用が気になるな。体を無理に動かしているんだからそれなりに副作用があるはずだ。早めに運び終わらないと。
そんなこんなで何往復かし終わると鍋は全部運び終わってしまったようだ。厨房から広場へと人が歩いて来たので話を聞いてみると今日の分は作り終えた。と言っていた。
「それじゃ、魔法も解除するか」
魔法の解除なんてどうするんだ?と一瞬焦ったが任意で魔法を切ることが出来た。魔法を解くと呼吸が遅くなった気がする。
困ったのはその後で、心臓と肺が急に痛くなり始めた。
「、ッ!・・・これは、キツイな・・・・・・!」
ヨロヨロ歩きながら人だかりから少し離れ木の根元に腰を下ろして動悸が収まるのを待つ。
「ハァ、ハァ。・・・はー、ハァハァ。これは長時間使うもんじゃないな・・・」
まさかここまで副作用がひどいとは思わなかったな。これからは自分に魔法を掛ける時は実験してみてからだな、戦闘中にぶっ倒れるとか洒落にならんしな。
「ツバサ様?あぁ、やっぱりツバサ様ではないですか」
「あれ?アリシアさん?」
頭上から聞いた事のあるような声が聞こえてきた。
頭がまだそんなに回って無いから人違いじゃないかと思ったがどうやらアリシアさんのようだ。
「って言うか呼び方・・・」
「私たちは夫婦になるのでしょう?ならばそれなりの呼び方で無いと不審に思われてしまいますから」
「そういう事ね・・・」
「お疲れのようですが何かございましたか?」
傍目から見ても一発で分かるくらい酷いんだろうか?
「炊き出しの鍋運んでたんだけど調子に乗って魔法で身体強化したら反動で動けなくなった」
「シスター達が言っていた凄いスピードで鍋を運ぶ人っていうのはツバサ様だったんですね」
いつの間にかそんな風に呼ばれてたんだ。運ぶのに必死で気が付かなかったな
「そうだ、炊き出しの手伝いに戻らないと」
「そうですね。もう少しで一段落着くと思いますし頑張りましょう」
「あれ?アリシアさんも炊き出し手伝ってるの?」
「一応は枢機卿の娘ですし、手伝わない訳にはいかないんです」
はあー、大変だな。
それに、あんなこと言った俺とも普通に話してるし凄い娘だな。
「今は敬語をお使いにならないんですね」
「あ、魔法の反動でそれどころじゃ無かったから忘れてた・・・。直した方がいいか?」
「もう遅いですし、大丈夫ですよ」
何故か彼女は楽しそうだ。何かいいことでもあったのかな?
「楽しそうだけど何かあった?」
「昨日の言葉は嘘じゃ無かったのだな、と思っただけです」
「昨日は酷い事しか言って無いだろ?俺は」
「私が出て行った後誰かと話していた事ですよ。俺なりに彼女に配慮したつもりだ。って仰ってたじゃ無いですか」
なんで、そんな事知ってるんだよ。部屋から出て行ったじゃん。
「盗み聞きは関心しないな」
「それはすいませんでした。ところで誰と話していたんですか?女性の声だった気がしたんですけど」
「ただの独り言だよ」
カゼノさんの声を聞かれてのか、困ったな。あの部屋には俺の他には誰も居ないはずだから俺以外の声が聞こえるのはおかしいと気づいてるんだろうか。
とりあえずは炊き出しの仕事を終わらせるかな。人も結構少なくなったし、後は空になった鍋を運ぶのと食器を洗うぐらいか?
「あ、いたいた。お鍋運ぶのお疲れさま!はい、これ!」
「これは?」
「これは炊き出しを手伝ってもらった人に配っているんですよ」
「アリシア様も!はい」
「ありがとうございます」
元気な女の子が器を二つ持って俺たちの方にやって来た。
コレが赤髪の娘が言ってた賄いなのかな?二食しか食べないからなのかとてもボリュームがあった。
「お二人は恋人なんですか?」
「ブッーーーー!」
「ええ、そうですよ」
唐突にこの娘は何を言い出すんだ、食べ物がもったいないじゃないか。
周りの大人たちもなんか暖かい視線を送ってくるな!クッ、オースティンさんが周りの人間に結婚するぞ。と知らせるためにこんな事してるんじゃないだろうな?
周囲を見渡してみると木の陰から体を半分だけだしたオースティンさんがグッ!と握りこぶしの親指を立てているのが見えた。
「あのオッサン、マジかよ・・・」
こうして俺とアリシアの仲が噂となって街に広がるのだった。




