一、虐殺(1)
東欧の山の多いとある国に住むマトゥーシュカ・ピッピは、金髪碧眼で愛くるしい顔をした十歳の少女だが、ある困った性癖があった。父親と二人暮らしだが、彼はアル中でことあるごとに娘に暴力をふるい、そのストレスに耐えきれなくなると、彼女は夕方家を抜け出して、近所の長い線路の手前に伸びる塀に身を潜める。時刻表は駅で手に入れている。そこは周りに民家もなく見られる心配はない。塀の割れ目から覗き、遠くから列車が近づいてくるのを食い入るように見つめて、念を送る。
(浮け! 跳ねろ! 飛べ! 飛び上がれ!)
数秒間で彼女の内に秘められた念動力は発動し、列車の一両目は突如鯨が海面で跳ねるように真上にびょんと上がり、二両目以降も天に昇るがごとく続く。だが、それで終わりではない。
(ねじれろ! 壊れろ! ゆがめ! ゆがめ!)
彼女が激しく念じるままに、鉄のボディはぐしゃりとひしゃげてねじ曲がり、中の乗客たちは外に聞こえぬ悲鳴をあげて押しつぶされる。マトゥーシュカはその大惨事を見ながら、口元を吊り上げて笑う。
しかし、これでも終わりではない。彼女は破壊される列車をガン見しながら、異常興奮のうちに股間に手をやり、自慰を始める。「はあ、はあ、はあ……」と息荒く恍惚の目で禁断の快感に浸り、轟音と共に爆発炎上した瞬間、エクスタシーに達する。
満足すると、這うようにして家に帰り、あとには瓦礫と化した車両たちがレール上に無残に横たわる。中には膨大な数のねじ切れた屍肉が詰まり、圧縮された通路は深紅の海と化して、ガラスのないひしゃげた窓からも、まっかな血が涙のように流れ出て地面に滴っていく。
数分後にはパトカーのサイレンが近づくが、今回も未解決に終わるだろう。事故の原因が誰にもまるでわからないからだ。ただし、一人を除いて。
これを引き起こした犯人である十歳の美少女、マトゥーシュカ・ピッピである。




