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第0楽章 番外編 亮太

引き戸を開けると、

油と酒の匂いが一気に流れ込んできた。


「お、来た来た!」


すでに出来上がりかけている声が飛ぶ。


亮太だ。


「お前早すぎだろ……」


駿は呆れながら席に向かう。


テーブルには、

空になりかけのジョッキが二つ。


「浩平もさっき来てさ——」


「よう」


軽く手を上げる浩平

もう、つまみを食べてる。


「……で、他は?」


「そのうち来るって」


亮太は気にした様子もなく笑う。


「とりあえず飲めって!」


「まだ始まってもねぇだろ」


「もう始まってるって!」


何がだよ、と思いながら

駿はジョッキを受け取る。


泡が、やけに荒い。


「でさ」


亮太が身を乗り出す。


「俺らのオーケストラの話なんだけど——」


駿は”俺らのオーケストラ”という言い方に苦笑する。


その時がみんな来る。


「おっ!もう始まってるのか⁈」

と圭一が入って来る。


そのあとから

ゆり子といずみが続く


亮太

「こっち!こっち!」手を振ってる


遅れて


和馬と仁が来る。


和馬

「早いな」


駿

「亮太が早いんだよ」


仁

「あー見えて時間に正確だからな」


亮太みんなにビールを渡しながら


「みんな会ったことがあるだろうから挨拶は抜きな」


亮太がビールグラスをあげる。


「乾杯!」


「まだ早い!」


全員即答。


「で、何か決めてるのか?」

和馬が場を戻す。


ニコニコ顔で亮太。

「名前なんだけど

旅するオーケストラだから

トラベリングオーケストラって名前にしたんだ」


圭一

「は?名前が先かよ!」


和馬

「で、旅するってなんだよ?」


亮太

「色んなところへ行って

音楽を届けたいんだ!音の花を咲かせに」


それぞれ、言葉にはしない。


けれど——

ほんの少しだけ、何かが引っかかった。


浩平

「でも、あちこちいくってどうするんだよ?」


亮太

「依頼を受ける!」


全員

「は?」


亮太

「ホールとかでやるのもいいだよなぁ…気持ちいいしさ…」

「けど、なんか違うなって思ってさ…」


ビールを一口飲むと亮太は続ける。


「音楽ってもっと自由で楽しいもんだろ?そういうのをやりたいんだ」


ゆり子

「そういうことね」


いずみ

「楽しそう」


駿

「……っていうかお前、楽器は?」


亮太

「やめた」


全員

「は?」


「なんかつまんねぇなって思ってさ」


あっさり言う。


でも、その言い方が妙に引っかかる。


圭一

「……じゃあなんでオーケストラなんだよ」


亮太は少しだけ笑って、


「だからだよ」


グラスを軽く持ち上げる。


「つまんねぇ音、やりたくねぇから」


——沈黙。


誰も、すぐには何も言わなかった。


浩平が、ふっと笑う。


「亮太に、はめられたか?」


仁

「……じゃあ、乾杯だな」


静かにグラスを持ち上げる。


亮太

「よし!」


一瞬だけ、全員を見渡して。


「トラベリングオーケストラ!!」


グラスが、ぶつかる。

小さく、乾いた音。


まだ何も始まっていないはずなのに


どこかで、確かに


“何か”が動き出していた。


完

お読みいただきありがとうございました。

これにて完結です。

……なのですが。

亮太が「終わり!」と言わないので、

たぶん終わりじゃない気がしています。


今日もどこかで音が鳴り、

今日もどこかで花が咲く。


そんな願いを込めて。

本当にありがとうございました。

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