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演算の魔女は祈らない 〜The Witch of Calculus Never Prays〜  作者: 玉響すばる


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幕間 四つの謁見

——正教国 謁見の間 数日後


四枢機卿が——正教国に集まった。


カシムは——すでに来ていた。


ハルドが——山から来た。

エイラが——海から来た。

ラウレが——森から来た。


「……全員——揃いましたね。」


イレーネが言った。


「はい。」


「……では——順番に。」


◆ ◆ ◆


——ハルド・クライン


最初に——ハルドが入ってきた。


大柄だった。


鎧を——纏っていた。


山岳の民の——装束だった。


私を見た。


しばらく——黙っていた。


「……十歳か。」


「はい。」


「……思ったより——小さい。」


「はい。」


「……でも——目が——違う。」


「どういう意味ですか。」


「……迷いがない。」


ハルドが——頭を下げた。


深く。


「……三代前の祖父が——「来た時は従え」と言っていました。」


「はい。」


「……来ました。」


「はい。」


「……従います。アルバ教皇猊下。」


「ありがとうございます。」


「一つだけ——聞いていいですか。」


「どうぞ。」


「……三旅団を——いつ動かしますか。」


「準備ができた時に——命じます。理由と共に。」


「……承知しました。」


ハルドが——また頭を下げた。


「……待ちます。でも——長くは待てません。山岳の民は——動くために生きています。」


「……分かりました。」


「……できるだけ——早く命じます。」


◆ ◆ ◆


——エイラ・ソルベ


次に——エイラが入ってきた。


細身だった。


海図を——手に持っていた。


私を見た。


「……グラウ・ルナ。」


「はい。」


「アルバ教皇と——呼ぶべきですか。」


「グラウ・ルナで——構いません。」


「……そうですか。」


エイラが——海図を広げた。


「先に——報告させてください。」


「どうぞ。」


「大陸東岸への上陸ルートを——三つ確保しました。補給の航路も——二つ。撤退の航路も——一つ。」


「……上陸前に——撤退ルートも確保した。」


「当然の計算です。」


「……ありがとうございます。」


「感謝は——要りません。」


エイラが——海図を閉じた。


「……一つだけ——聞いていいですか。」


「どうぞ。」


「……あなたは——計算する人ですか。」


「はい。」


「……私も——計算します。」


「はい。」


「……計算する者同士——無駄な言葉は要りません。命令を——明確に出してください。」


「承知しました。」


「……それだけです。」


エイラが——頭を下げた。


簡潔だった。


◆ ◆ ◆


——ラウレ・ヴィンド


三番目に——ラウレが入ってきた。


目が——少し赤かった。


泣いていたのかもしれない。


私を見た。


しばらく——何も言わなかった。


「……ラウレ枢機卿。」


「……はい。」


「……どうしましたか。」


「……失礼しました。」


ラウレが——少し深呼吸をした。


「……初代教皇の言い伝えを——毎年、聖堂で読んでいました。」


「はい。」


「「その者が来た時——根源律が広がる。灰色の目をして。静かに。」と。」


「はい。」


「……今——あなたを見て——」


「……そうだと——思いました。」


「……言い伝えに——合っていましたか。」


「……灰色の目をしています。静かです。根源律は——感じられましたか。」


「……感じました。」


「……よかったです。」


ラウレが——深く頭を下げた。


「……セルヴァの民を——代表して。」


「……二百年間守ってきた言い伝えを——今日、確かめることができました。」


「……ありがとうございます。」


「あなたたちが——守り続けてくれたから——今日がある。」


「……そんな。」


「事実です。」


ラウレが——また少し泣いた。


「……すみません。」


「泣いていいです。」


「……え。」


「感情は——大切な変数です。」


ラウレが——少し笑った。


泣きながら——笑った。


「……そういう言い方をする教皇が——来るとは思いませんでした。」


「……そうですか。」


「……でも——よかった。」


◆ ◆ ◆


——カシム・ドゥラ


最後に——カシムが入ってきた。


すでに——正教国に来ていた。


本人確認を——終えていた。


でも——今日は——四人が揃う場だった。


「……また来ましたね。カシム枢機卿。」


「はい。」


「……今日は——何か確認がありますか。」


「……一つだけ。」


「どうぞ。」


「……他の三人は——どうでしたか。」


私は少し間を置いた。


「ハルドは——迷いがないと言いました。エイラは——計算する者同士と言いました。ラウレは——泣きました。」


「……そうですか。」


「あなたはどう思いますか。」


カシムが——少し考えた。


「……三人とも——本物を見た時の反応をしていますね。」


「どういう意味ですか。」


「ハルドは——目で判断した。エイラは——論理で判断した。ラウレは——感情で判断した。」


「……はい。」


「……私は——全部で判断しました。本人確認の時に。」


「……目と論理と感情の全部で。」


「はい。」


「……だから——最初に来た。」


「……最も慎重な者が——最初に確かめに来た。」


「そうです。」


カシムが——頭を下げた。


「……改めて——アリダは服従します。」


「ありがとうございます。」


「……命令を——待っています。」


「はい。理由と共に——命じます。」


「……承知しました。」


◆ ◆ ◆


四人が——揃った。


「……全員に——一つだけ伝えます。」


私は言った。


四人が——私を見た。


「……三ヶ月以内に——終わらせます。」


「……三ヶ月。」


ハルドが言った。


「はい。長引かせません。長引けば——不可逆な損失が最大化します。」


「……承知しました。」


「それと——」


「はい。」


「……皆さんの家系が——初代教皇の血を引いていることを——知っています。」


四人が——少し動いた。


「……知っているのですか。」


「はい。初代教皇が——小大陸に渡り、息子たちが各地の民と結ばれた。それが——四国の起源だと。」


「……正確ですね。」


「……だから——皆さんは二百年間、言い伝えを守り続けられた。」


「……血の記憶、ということですか。」


「はい。」


四人が——静かに頷いた。


「……でも——」


私は言った。


「……血だけではなかったはずです。」


「……どういう意味ですか。」


「血は——動機になります。でも——二百年間守り続けるには——信念が必要です。血と信念が——両方あったから——今日がある。」


ラウレが——また少し泣いた。


ハルドが——目を細めた。


エイラが——静かに頷いた。


カシムが——少し間を置いた。


「……正確です。」


静かに言った。


◆ ◆ ◆


謁見が——終わった。


四人が——出ていった。


一人になった。


ノートを開いた。


「四枢機卿——謁見完了。」


書いた。


「ハルド:目で判断・迷いがない・三旅団準備完了。エイラ:論理で判断・航路三つ確保済み・無駄な言葉を嫌う。ラウレ:感情で判断・泣いた・言い伝えを確かめた。カシム:全部で判断・改めて服従を表明。」


一行空けた。


「……四人が——それぞれの方法で確かめた。」


「でも——全員が——同じ答えに着いた。」


「……「本物だ」という答えに。」


「……私は——本物かどうか——自分では判断できない。」


「でも——」


少し止まった。


「……四人が——そう言ったなら。」


「……受け取る。」


もう一行。


「初代教皇の血と信念——両方があったから今日がある。」


「……それは——記録しておく。」


ノートを閉じた。


正教国の夕暮れが——静かに広がっていた。


灰色の瞳が——静かに、四人の枢機卿が去った方向を見ていた。

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