幕間 四つの返書
——正教国 イレーネの執務室 数日後
四通の書が——同じ日に届いた。
小大陸から。
イレーネが——ルナに持ってきた。
「アルバ教皇への返書です。四通全て。」
「読みます。」
◆ ◆ ◆
一通目。
アルタ正教国枢機卿——ハルド・クライン。
「アルバ教皇猊下。二百年間待ち続けた。私は今すぐにでも動ける。山岳の民は強く鍛えられている。指令さえあれば——明日にでも海を渡る。どうか一刻も早く命じてほしい。」
ルナは読み終えた。
「……熱いですね。」
「アルタ枢機卿は——最も長く待っていた家系です。三代前から準備していたと聞いています。」
「三代前から。」
「はい。」
「……受け取りました。」
◆ ◆ ◆
二通目。
マレン正教国枢機卿——エイラ・ソルベ。
「アルバ教皇猊下。指令を受け取りました。海路は確保しています。マレンの船団は——命令があればいつでも動けます。現在の大陸の状況を分析しています。最適な航路と上陸地点を計算中です。準備が整い次第、報告します。」
「……実務的ですね。」
「エイラ枢機卿は——元は船乗りだったと聞いています。計算が早い。」
「……頼りになりそうです。」
「はい。」
◆ ◆ ◆
三通目。
セルヴァ正教国枢機卿——ラウレ・ヴィンド。
「アルバ教皇猊下。初代教皇の言い伝えを——私たちは一日も忘れたことがありませんでした。森の中で、星の下で、何度も読み返してきました。その言い伝えの日が来たのだと——書を受け取った時、涙が止まりませんでした。指令通り、今は動きません。しかし準備します。初代教皇の墓を守ってきた私たちの誇りをもって。」
ルナは読み終えた。
少し間を置いた。
「……セルヴァ枢機卿は——感情が深い人ですね。」
「はい。ラウレ枢機卿は——正教会の歴史を誰より大切にしている人です。」
「……受け取りました。」
◆ ◆ ◆
四通目。
アリダ正教国枢機卿——カシム・ドゥラ。
「アルバ教皇猊下。指令は受け取った。しかし——二百年ぶりの教皇と称する者からの書に、即座に全てを委ねることは慎重に考える必要がある。本人確認の方法を教えてほしい。それが済めば——指令に従う。砂漠の民は慎重さで生き延びてきた。その慎重さをご理解いただきたい。」
ルナは読み終えた。
「……正直な人ですね。」
「カシム枢機卿は——疑り深いと言われていますが、一度信頼した相手には絶対に裏切りません。」
「……確認の方法は何ですか。」
「根源律を——小大陸で行使することです。感知できる者がいます。」
「……それを——返書に書いて送ってください。」
「はい。」
◆ ◆ ◆
ルナはノートを開いた。
「四通の返書を確認した。」
書いた。
「アルタ:即戦即決派・三代から準備。マレン:実務的・海路確保済み・計算中。セルヴァ:感動が深い・伝統重視・初代教皇の言い伝えを守ってきた。アリダ:慎重・本人確認を求めてきた。」
一行空けた。
「全員服従の意志あり。濃度と姿勢が異なる。」
「アリダへの返書:根源律の感知による本人確認を提案。」
もう一行。
「……四つの国が——動こうとしている。」
「二百年間待っていた人たちが——いる。」
「……その重さを——持っていく。」
ノートを閉じた。
正教国の空に——夕暮れが来ていた。
灰色の瞳が——静かに、小大陸の方角を見ていた。




