EP54 留置場へようこそ
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「辻獅堂、君を逮捕する」
その声と共に獅堂の手に手錠がかけられる。
「午前8時25分」
隣の刑事が時間確認を行う。
獅堂は頭が真っ白になる。
前触れなく、いきなり逮捕されてしまった。
〈どこで、しくじったのか?〉
考えてもわからない。
確実なのは、自分が敗北してしまったことだ。
家の前に停まっていたのはパトカーではなかった。
黒いスカイラインが2台、並んでいる。
警察が通常捜査に使っているものだ。
獅堂は後方座席に乗せられ、警察署に送られた。
手錠をかけられた手首にはバスタオルが掛けられている。
獅堂を載せた車は警察署の裏側に停められた。
両脇に2人の刑事が付き添い、裏口から建物に入っていく。
関係者用のエレベーターで3階に上がる。
扉が開き、まっすぐ進むと、鉄格子の入口がある。
留置場だ。
中にはベージュ色の制服を着た職員が待機している。
重厚な鍵が開けられ、獅堂は中の通路へと導かれた。
刑事2人が言う。
「よろしくお願いします」
ベージュ服の職員がうなずき、仕事を引き継ぐ。
獅堂は職員に付き添われ、廊下をさらに奥に進んでいく。
通路の両側には、鉄格子で覆われた小さな部屋が並んでいる。
人が入っている部屋も、入っていない部屋もある。
ひとつの部屋の前で、職員が止まった。
「中に入れ」
獅堂は言われるまま、足を進める。
職員は鉄格子を締め、大きなカギを回して施錠した。
そのまま廊下を去っていく。
一人きりになった。
狭いスぺ-スに、畳が3枚敷いてある。
部屋にはかすかに臭い匂いが漂っている。
奥を見ると、洋式トイレが丸裸で備え付けられている。
窓はなく、一面、白い壁だ。
獅堂は腰に手を当てたまま立ち尽くしていた。
しかしやがて、大きなため息をついて、畳に腰を下ろした。
「これが、いわゆる牢獄か…」
逮捕されたとなれば、間違いなく退学だろう。
今後の社会生活も、ちょっと想像がつかない。
前科がついたら、様々な不便が生じることもあるだろう。
両手で頭を抱える獅堂。
向かいの部屋にも客人がいた。
白髪混じりのボサボサの髪。
白なのか灰色なのかわからないくらいに汚れたポロシャツ。
染みだらけのチノパン。
やせ細った身体に、目だけはギラつかせ、獅堂を睨んでいる。
何かをブツブツとつぶやいているが小声で聞こえない。
おそらく前は大声を出していたのだろう。
留置場では厳しい叱責を浴び、小声になったのに違いない。
彼も、こうなりたいと思ってここに来たわけではないだろう。
〈目の前の男は将来の自分かもしれない〉
獅堂は彼が他人のような気がしない。
引き続きどうぞ、よろしくお願いいたします。




