家族が増えるという事実はやはり何物にも代えがたい幸福の1つである。
・・・え?だれ?
ちょっと待って、ユリアは確か黒髪だったよね?
レイラの容姿に近いという理由で拉致されたんだよな?
なのに、銀髪だと話は変わる、というかそもそも別人になるから攫われるはずないのに・・・。
ユリアと思わしき少女は一度グスタフ公爵に頭を下げた後、剣を胸に抱きながらヨスミの元へと走ってきた。
一度、ヨスミの前で立ち止まり、剣を背中に背負い直すとそのままヨスミの下半身に抱き着いた。
遠くでわからなかったが、まるで軽く日焼けした程度の薄い褐色の肌・・・。
「ヨスミお兄ちゃーん!!」
「えと・・・、ユリアでいいんだよね?」
「はい!合ってますよ!」
しかも口調もかなり変わってるよね。元気ハツラツ!というか。
最初はあんなにオドオド・・・、あそうか。
状況が状況なだけに、怯えてたもんな・・・。
となるとこれが素のユリアってことか。
「それにしても最初にあったときは黒髪だったよね?どうして銀髪に・・・」
「多分それはこの子がダークエルフだからですわね。きっとご両親の方に容姿を偽る幻惑魔法でも掛けていただいたと思いますわ。」
ダークエルフ・・・!?
御定番種族キャラ来たわ・・・、さすが異世界ファンタジー。
遠くからはよく見えなかったからわからなかったが、ユリアの耳をよく見ると確かに先っぽは尖って若干伸びてるな。
てっきり髪の毛だと勘違いしていた・・・。
でも、そうなるとますますわからないな。
どうしてダークエルフのユリアが、レイラの容姿に近いって理由で拉致されたのか。
幾つか考えられるとしたら、
1、ダークエルフという種族は忌み嫌われている。
まあ”ダーク”なんて言葉もついてるし、人は本能的に闇という単語には敬遠を覚える存在だし。
2,希少価値が高い種族のため、人攫いや奴隷狩りの対象。
よくある定番として高値で売れる奴隷になるために拉致されたりとか、貴族なんかはそういった希少価値のある物を手元に置きたがる習性を持つからな。
3、エルフの上位種、または王族のような高貴な存在。
お忍びで村とかを見て回ったり、あるいは派閥争いから逃げるために本人が知らぬうちに第3者から容姿を偽る魔法みたいなものを掛けられ、それで今までずっと過ごしてきたとか。
まあ、3はありえないな。
そうなるとユリアを守るための護衛が1人か2人は必ずいるはずだ。
例え、そういったいざこざから逃げたとしても監視、または忠義の厚い者が傍にいるはず。
2に関しては、可能性としては高いがこの世界に奴隷という存在は未だに見たことが無い。
この国では奴隷というものを禁止している可能性もあるが・・・。
いや、皇国の奴らは必要にレイラを狙っている辺り、奴隷という存在自体は高い可能性がある。
そして1だが、これは更に小分割され、忌み嫌われている対象が”人間”からなのか、それとも”エルフ”からなのか、最悪この”世界”からなのかになる。
人間であるならば、奴隷として利用されるはずもないから違う。
後はエルフなのか、世界なのか。
そこはまあ、気にしないところではあるな。
ただ一番最悪なパターンなのがエルフ、又は世界に忌み嫌われ、逃げ込んだ人間の住む国ではその存在価値の高さ故に貴族に狙われ、奴隷狩りされているっていうものだ。
もし、この子がこの容姿であの建物からここまで来たのであれば、誰かしらに目を付けられている可能性がありそうだ。
もしかしたらここに、ほんのわずかではあるがレイラ拉致事件の攻略の手がかりを掴めるかもしれん。
人間とは欲深い存在だ。
レイラに加え、この子まで狙うとなると相手方の尻尾を掴めるかもな・・・。
「私、ヨスミお兄ちゃんに言われて決心したんです。ママには自分がダークエルフだって人間にバレちゃいけないよって何度も何度も言われてきました。色んな村を転々として逃げ、最後に逃げた村ではママもパパも死んじゃって・・・。私ももう駄目なんだと思ってました。でも、私は逃げたくない・・・。こんな狂った運命、ひっくり返すんだって!だから私、ヨスミお兄ちゃんには感謝してるんです。ずっと泣いてばっかりの私に、立ち上がれる勇気をくれたんですから・・・。」
「・・・いや、僕はただ示しただけだよ。君は立ち上がり、自分の意志でそれを選んだんだ。感謝するべきは僕じゃなく、立ち上がるための勇気を奮い立たせた君自身だよ。」
「ヨスミお兄ちゃん・・・!」」
だからといってなー、まさかグスタフ公爵に弟子入りするとは思わなかった。
「おお、我が息子よ。この子は君の差し金かね?」
ユリアとそんな会話をしていると、グスタフ公爵が剣を収めながら歩いてきた。
「ああ。でもまさかグスタ(ギロッ)・・・お義父様に弟子入りを果たすとは思わなかったけどな。」
「・・・この子は筋がいい。剣術はまだまだだが、魔力適性が非常に高い。さすがダークエルフといったところか。闇属性の適正も長けておる。我が娘は光属性に長け、そしてこの娘は闇に長けている。もしかしたら、新たな風が吹くやもしれんな・・・。よし、決めた。この子を養女に迎い入れよう」
「・・・は?養女って、本当の娘にするんですか?」
「ああ。言ったであろう?我がヴァレンタイン家は実力だけが全てであると。この子は戦賦の才を秘めている。魔術の扱い・・・特に闇属性魔法に関しては我を凌ぐかもしれんな。」
グスタフ公爵にそこまで言わせる逸材とは・・・。
「ということで、我が娘、我が宝、レイラよ。妹は欲しくないか?」
「そうですわね・・・。ならお父様?我がヴァレンタイン家当主の後継者を妹に譲っても問題ないですわよね?」
「ああ、もちろんだ。元々我が家系は貴族ではないゆえ、血筋などさほど重要じゃないからな。」
どうやら話を聞くと、元々はただの皇国で活動していた冒険者で、その才をメキメキと伸ばし、世界に2人目のSランク冒険者になった際、皇国が【魔物の氾濫】に飲まれかけたのを救ったことで公爵という爵位を授かったらしい。
一体何をどう救えば、全ての段位を吹っ飛ばして公爵なんて地位を授かることになったのか・・・。
その後、土地を与えられ、その地を収めている内に大規模な国として成り立つようになり、皇国の属国として認められたとかなんとか・・・。
そういった政治に関しては一切関わったことがないから詳しくは知らないが。
「血筋などどうでもよい。猛きもの、識るもの、視るものがこの地を収めるにふさわしい。小娘、名をユリアと言ったな。」
「は、はい。」
「どうだ。我が娘となり、己の運命に抗う力を欲するのなら、我が手を取るがよい。さすれば、我はお前の父となり、レイラの妹となり、息子の義妹となり、そして我らと家族となろう。強くなるために、我がお前を支えよう。」
そういうとグスタフ公爵はしゃがみ、ユリアと目を合わせるとそっと手を差し出す。
「わ、私の・・・パパになってくれるんですか・・・?」
「お前が望むなら、良き父となろう。」
「わたしの、お姉ちゃんに・・・な、なってくれるん・・・ですか?」
「あなたが望むなら、優しいお姉ちゃんになりますわ。」
「わ、わた、わたしの・・・お兄ちゃんに、なって・・くれるんですか・・・?」
「君が望むなら、誰にも恥じないような立派な兄に頑張ってなるよ」
最後に涙を貯めた瞳をヨスミへ向け、震える声を絞る様に言葉を紡ぐ。
「う、うぅ・・・わ、たしの・・・家族に・・・なって、くれるんですか・・・?」
その言葉を聞き、ほぼ三人同時に言葉が出る。
「「「もちろん」」」
堪えきれなくなった涙が流れ、声を上げて鳴きながらレイラはその手を取る。
泣きながら必死に言葉にならない呟きながら話すそれが何を意味するのかは、言わずともはっきりとわかった。
―――ありがとう