ふとした瞬間に過る記憶ほど不安要素が高い物はない
「セバス、おるか?」
「はい、ここに。」
どこからともなく執事風のモノクルを掛けた老紳士が姿を現した。
「書類は?」
「こちらに・・・。」
お盆の上に置かれた数枚の書類と羽ペンをグスタフ公爵へと差し出した。
それを手に取り、下の方へと何かを書き終えるとそれをユリアへと差し出した。
「さあ、ここにお主の名前を書け。字は書けるか?」
「は、はい・・・。ママに教えてもらいましたから・・・。」
そういって、羽ペンを受け取り、示された場所にすらすらと自らの名前を書く。
その字を見て、グスタフ公爵の繭が一瞬ピクッと動いたような気がした。
「・・・あ、エルフ語でも大丈夫ですか?」
「うむ。自分の名前を魔力が込められたこの羊皮紙に書けばよい。それだけで我の養女として成立する。」
「はい・・・!」
そういって嬉しそうに名前を書き記した。
書き終えた途端に文字全てが蒼白く光り始め、その直後に羊皮紙が青い炎が上がり、一瞬にして消し炭になった。
そしてユリアの胸辺りにヴァレンタイン公爵の紋章が浮かび上がるとすぐに何事もなかったかのように消失した。
本当にファンタジーな光景だったな。
そう、まるで優里と共に見たハ〇ー・〇ッターのようだった・・・。
「おめでとう、これで君は我らの家族だ。」
「は、はい・・・!これから宜しくお願いします、パパ!レイラお姉様!そしてヨスミお兄ちゃん!」
「・・・パパか、良い響きだ。」
「そうね、こんな可愛い妹も悪くないですわ・・・!」
「妹、か・・・。」
ふとノイズだらけの記憶が過る。
幼い僕と一緒に遊ぶ小さな少女の姿・・・。
少年の手に持つは赤いドラゴンの人形、そして少女の手には妖精のような小柄な人形を手に持っていた。
少女は言う。
―――妖精さんはね、ドラゴンさんと大のお友達なのー!
嬉しそうにそう話す少女の姿を見て、少年もまた嬉しそうに笑う。
その直後、無数の血飛沫が飛び散ると大きなヒビが入り、
―――パリィィインッ!
と音と共に砕け散ち、その記憶に大きな穴が開く。
その中で、何かが蠢いているのに気が付き、それがなんなのか意識すると無数の瞳がひしめき合った巨大な目が見開いた。
・・・ああ、この瞳を僕は知っている。
懐かしいな、お前たちは・・・。何度も見てきたお前たちのその瞳を、僕が忘れるはずがないだろう・・・?
お前たちを忘れるという事は、君たちの犠牲で成し得た偉業を貶すことになるからな。
安心してくれ・・・、お前たちが僕を見てくれる限り、僕はいつまでもお前たちを見ているよ。
「・・・あなた?」
「息子よ、呆けておるがどうした?」
「ヨスミお兄ちゃん・・・?」
名前を呼ばれ、はっと我に返る。
「ああ、ごめん。可愛い妹が出来て考え込んでしまったみたいだ。」
「へ?あ、う・・・。」
「確かにこんなに可愛い妹が出来たのなら、嬉しくなっちゃいますわよね!」
「うむ。それには同意だな。さあ、無事、養女として迎えられたところで、稽古の続きをしようか。」
そういうとグスタフ公爵は稽古場へと戻っていく。
その後ろを”はい!”と元気よく答え、
「それじゃあ、またね!レイラお姉様、ヨスミお兄ちゃん!」
「ええ。またね、ユリア!」
「稽古、頑張ってな。」
そう言いながら、レイラはユリアの銀髪を撫でる様に頭をさする。
そしてヨスミの方にも歩み寄り、何かを待つ犬かのように笑顔でヨスミを見上げる。
仕方なさそうに苦笑し、ユリアの頭を優しく撫でる。
嬉しそうに撫でられた後、グスタフ公爵の元へと走っていった。
その後ろ姿を見送り、立ち上がるとレイラへと手を差し出した。
「さあ、僕たちも行こうか。」
「・・・ええ、あなた。城下の案内はわたくしもお任せくださいな!」
レイラはその手を取り、立ち上がるとそのまま腕を組む。
ああ、腕に柔らかな感触がぁ・・・。
くっそ、ここでも青年の精神的思考に引っ張られる・・・!!
でも、柔らかい・・・。
「あなた?」
「い、いや!なんでもないよ!さ、さあ行こう・・・!」
「・・・なんだかわたくしを意識してくれているみたいですわね。うふふ、嬉しいですわ!」
こうしてヨスミとレイラは訓練所を後にした。
「へぇ~、ここが城下町か。」
エフェストルほどではないが、行き交う人間たちに紛れて幾人かの獣人たちが町を歩いていた。
とても活気あふれているようで、町の至る所に鍛冶屋がいくつも建ち並んでいた。
色々な武器の標本みたいなものが表通りに並べられており、冒険者たちや兵士の恰好をした者は並べられた武器を眺めたり、手に取ったりしていた。
「ここは主に様々な武具を生産している地区で、名を鍛冶神の高炉と呼ばれておりますわ。精巧な鍛冶師のみが集められ、日々様々な武具が作られ、己の技術を切磋琢磨しながら高め合っているのですわ。今ではオリハルコン鉱石による武具の成功確率2割と安定してくるほどですの。そしてアダマンタイト鉱石による武具に挑戦できる日が数十年の内にくるとまで言われておりますわ。」
アダマンタイト鉱石・・・、以前聞いた時には出なかった鉱石だったな。
オリハルコンの武具は確か最高峰って言ってなかったっけ?
なのに、それを上回る鉱石と・・・。
まあ、一般的に使われている鉱石は~って感じだったし、僕のまだ見知らぬ鉱石があるってことか。
「まあその分料金とかも跳ね上がっているんだろうね。」
「そうですわね。今市場で売られている武具のほとんどがミスリル鉱石や白銀鉱石による魔武具ですからね。成功確率が7割になってきたとは言え、それでも制作難度は非常に高く、使用される鉱石もなかなかに希少ですから。」
「なるほどね・・・。7割ってことはあのステウラン村の鍛冶師はすごかったって事か?」
「ええ。あのダン様は元はこの首都で鍛冶王の火槌にまで上り詰めた、いわば伝説とまで呼ばれた鍛冶師様なのですわ。」
ほー、そこまでの人物だったとは。
出会った当初としては只モノならぬ雰囲気は出してはいたけど・・・。
まさか伝説とまで称されていたとは。
「何か気になる武具はありましたの?」
「・・・いや、この武器だけで十分だ。」
正直、武器すらも必要ないと思うけどね。
でもせっかくレイラに紹介してもらった鍛冶屋で作ってもらった武器だからね。
「それじゃあ次に行きましょう!」
「ああ。次はどこに連れて行ってくれるんだ?」
「次は・・・」
と、後方で何か強力な何かが衝突した衝撃音が響く。
ヨスミはすぐにレイラの手を握り、近くの屋根の上に転移した。
高台から周囲の状況を確認する。
どうやら、何者かが鍛冶屋から吹き飛ばされ、向かいの壁に積まれていた木箱へと叩きつけられたようだった。
鍛冶屋から出てきたのは、何名かの冒険者たちのようだった。
となると・・・
「吹き飛ばされたのは鍛冶師の方なのか。一体・・・」
「・・・まさか、アナベラ!?」
舞い上がる土煙から現れたのは赤毛が目立つ小さな少女だった。




