ひと時の安らぎ
あれからヘルマン伯爵邸へと転移したヨスミたち。
ハルネがいる地下牢へ続く階段へ向かうレイラ、フィリオラはヨスミの傍で治癒魔法を掛け続けている。
アリスとシロルティアは正門へ向かっていった。
「ヨスミ、あなた次無理したら本当に死ぬわよ?」
「でもそう言ってもな・・・。大事な仲間と嫁のためなら喜んでやるつもりだ。それが死を迎えブッフーッ!?」
突然腹部に強烈な打撃を受け、痛みに昏倒する。
『オジナー!わたし、イイ子にしてたのー!だから遊んでー!』
「あ、あそ・・ぶぅ・・・ハク、ア・・たん・・・とぉ・・・」
「はあ・・・、私の代わりに活を入れてくれて助かったわ、ハクアちゃん。でももう少し手加減してあげて。一応オジナーの体は瀕死状態なんだから。」
『えっへへー!わかったのー!』
「うぅぅう・・・・」
気絶しかけているヨスミの表情はどこか愉悦のような笑みを浮かべていた。
それを見て再度ため息をつくフィリオラは、今度は回復魔法を掛け、ヨスミは悲鳴を上げた後に完全に気絶した。
「あ、あなた・・・!!」
と階段を上がってきたレイラがヨスミを見て急いで駆け寄ってきた。
その後ろを静かに歩いてくるハルミも心配そうな表情を向けていた。
「大丈夫よ。ただ無理のし過ぎで気絶しただけだから。」
「本当に無茶ばかりして・・・」
「レイラお嬢様、ヨスミ様をこちらに・・・。」
そういってどこから取り出したのかはわからないが、そこにはなぜか寝心地の良さそうなベッドが置かれていた。
ハクアはヨスミを軽々と持ち上げ、羽ばたくとベッドの方に運ぶ。
「しばらくはここでヨスミを休ませましょ。町の方はどうなったか、確認しに行ってくるわね。」
「わかりましたわ。わたくしはここでこの人を診ています。」
「私もここでレイラお嬢様とヨスミ様をお守りしております。」
「よろしくね。アリスちゃんと白ちゃんもいるから、何かあったらすぐに合図を送ってあげて。」
フィリオラは両翼を顕現させ、その場から飛び去って行った。
「そういえばハルネ。地下に捕えている者たちの様子は?」
「・・・誠に残念ながら、あの方々は皆さまがご到着する少し前に牢を破壊して逃げてしまいました。捕まえようとしたのですが・・・」
「ハルネに怪我がなければわたくしはそれでいいですわ。」
「レイラお嬢様・・・。」
『・・・なにかくるよー。』
そういってハクアは上空の方を見る。
それに釣られて、レイラとハルネも空の方を向くと、こっちに向かってくる1体の竜の姿が見えた。
ハルネとハクアは急いで警戒態勢を取るが、レイラがそれを治める。
「大丈夫ですわ、あの子はわたくしたちの味方ですわ。」
「味方、ですか?」
「がるぅー!」
それは途中で制止し、ヨスミの姿を見ると甲高い声を上げて地面へ降りてくると頭を擦りつけてくる。
「きゅるぅー!ぐるぅー!」
「この竜は・・・、疾蛇竜!?でも、どうしてこんなところに・・・それにヨスミ様へのこの懐きようは一体・・・」
『んとねー、友達ーって言ってるのー!』
「と、友達・・・。」
突然の事態に理解が追い付かないハルネは鎖斧を構え、敵意を向ける。
だがレイラはどこか納得しているかのような表情で、疾蛇竜・・・ルーフェルースの顔を撫でる。
「そう・・・、あなたはこの人の友人なのね。」
「がるぅ!」
レイラの撫でる手を嫌がることはせず、逆に気持ち良さそうに身を任せている。
「確かあなたはルーフェルース、だったかしら。わたくしの事も受け入れてくれるのね・・・、ありがとう。」
「きゅう!」
「お、お嬢様・・・それが何か知っているのですか?生ける災害と呼ばれている疾蛇竜なのですよ・・・?」
『だいじょうぶみたいだよー?この子は戦うつもりはないみたいなのー!』
「そうよ、この子はわたくしたちを助けてくれたの。だからこの子はわたくしたちの仲間。」
未だに警戒を解けぬハルネではあったが、レイラの向ける瞳を見て一度気を落ち着けると深く息を吐きながら武器を収めた。
「わかりました。ルーフェルース様、敵意と武器を向けてしまい、申し訳ございません。」
「きゅるぅ!」
『大丈夫だってー!』
「寛大な御心、誠に感謝いたします。」
きゅうっ!ときりっとした顔でハルネを見るルーフェルースに、どこか思う所があったのか、レイラは口元を抑えて笑う。
「このような魔物・・・生ける災害と恐れられているこの竜と絆を結ぶあなたは、一体何者なのでしょう・・・。このヴァレンタイン公国内で収める全ての領地、村々の様子を見回ってきたつもりでしたけど、あなたのような人は初めてでしたわ・・・。」
気絶して眠るヨスミの頬をなぞる。
「だからこそ、こんなにも愛しいと感じるのでしょうね・・・。本当に、とんでもない御方ですわ。」
「全くです・・・、このような御仁は私も初めてでございます。もしかしたら、以前仰られていた全ての竜に出会うこと、そして竜のための世界を作る事。もし本当ならこのお方なら成し遂げられるかもしれませんね。」
「・・・そうね。だって、わたくしの旦那様なんですから。」
そういってにっこりと笑うレイラに、昔初めて笑った時に見せた笑顔が重なって見え、ハルネは気が付けば涙を流していた。
そのことに気付かず、ハルネもつられて笑顔になる。
ああ、レイラお嬢様。
また一つ・・・数少ない幸せを手に入れられたのですね。
「それじゃあわたくしも寝ようかしら。」
そういうとヨスミの傍に横たわり、ヨスミの横顔をじっと見つめる。
「そのまま御眠りくださっても構いません。ここは私が見張っておりますので。それに、ルーフェルース様やハクア様も一緒に見てくださるようですから。」
「がるぅ♪」
『任せてなのー!』
「それじゃあお任せしますわね!」
ヨスミに抱き着くように傍まで近寄るとそのまま瞼を閉じる。
ああ、疲れたなあ・・・。
こうしてゆっくり休めるなんていつ以来かしら・・・。
しかもこうして旦那様と一緒に寝れるなんて、どれほど心地よいことか・・・。
でも、まさかわたくしがAランクのスライムをあんな数相手に討伐できるなんて・・・。
旦那様のおかげで、こうして・・・強く、なれた・・・。
もっと・・・強く・・・旦那、さま・・を・・・・おと、う・・さまを・・・み、んなを・・・・・・。