本気でやったら世界が滅びそうだー・・・。
ルーフェルースは再度自らを回転させて自らを動く竜巻と化し、連続してスライム群へと突撃していく。
それに合わせて黒雷を落とし、取りこぼしたスライムはアリスとレイラが狩っていく。
それはまるで一種の嵐、台風の様な災害にも似た、まさしく”攻撃の嵐”に湧き出るスライムの増殖を遥かに上回る速度で殲滅していく。
スライムたちは腐食酸を噴射していくが、ルーフェルースの竜巻による風圧で軌道が逸れ、レイラたちに当たることはなかった。
ある程度減ったところで、上空で力を溜めていたフィリオラの準備が整ったようだ。
「みんな、離れて!」
その一言を受け、攻撃の手を止めて一斉にその場から離れる。
フィリオラの口が大きく裂け、口の前に溜めていたエネルギー球はまるで花の蕾のようで、それはゆっくりと形を変え、まるで花が咲くかのように広がり、いくつもの魔法陣が廃屋に向けて一直線上に真っすぐ並び、それは徐々に大きく広がっていく。
「巻き込まれないようにね! <白桃焔花>!!」
花から放たれた強力な炎のエネルギー光線は魔法陣を経由し、魔法陣を通過するたびにその炎線は圧縮され、細くなり、威力を増していく。
最後の魔法陣を通過した炎線は白く光り、まるで光線の如く、一本の線となって廃屋に当たる。
高濃度に圧縮されたそれは一瞬にして大地を熱し、溶かし、外気に触れて急激に冷やされ、チカチカと火花が弾け始め、それが火種となって小さな爆発を生み、それが連鎖していく。
幾つもの爆発が重なり、やがてそれは巨大な爆発を生みだした。
強烈な爆風が同時に発生し、周囲をなぎ倒す様に吹き飛ばしていく。
レイラたちは気が付いたら巻き込まれないよう、吹き飛ばされないように安全な場所まで移動させられていたことに気付き、爆発の経過を見守る。
「・・・これはさすがにやりすぎじゃないんですの?」
「威力、たかす、ぎ・・・」
『うーむ・・・、だがこれぐらいしないと、地下の魔法陣ごと吹き飛ばせなかっただろうし、結果的によしなのだろう。』
「クウゥ・・・。」
巨大なクレーターが作られ、その中心はまるでガラスの様に地面の一部が輝いていた。
高温に熱せられた大地と大気がその場所に近寄ることを許さず、目に見えてその辺りは真っ赤に揺れており、その熱に周囲の草木が燃えだしていた。
フィリオラは上空から周囲を見渡し、生き残ったスライムがいるかどうかを確認する。
「・・・大丈夫そうね。みんなー、これでもう大丈夫よー。」
フィリオラのその一言で、スライムスタンピードの終了を意味していた。
「お、おわった・・・。」
『そのようだな。』
「・・・戻らないと!」
レイラは疾風の鎧を纏わせ、残してきたヨスミの方へ跳躍していった。
「わたし、たちは・・・町のみん、なを・・助け、に・・・」
「それなら必要ないわ。あっちはリンちゃん・・・、あの町の町長さんにお願いしたからね。それにヴィクトリアたちも合流したし、あの子たちの実力なら問題ないわ。それに、ヨスミも何やら手を貸しているみたいだし。もうそろそろ決着が付くと思うわよ?」
『ならば私たちはリーダーの、ヨスミの元へ向かおう。あの人の子は何度注意しても話を聞かず、目を話せばすぐに無理無茶ばかりするからな。』
「本当にね。あの子はそういう星の元にでも生まれてきたのかしらね・・・。ほんと、無茶ばっかり・・・。」
そう話すフィリオラは、どこか遠い目をしていた。
「さ、いくわよ。」
「・・・あなたっ!!」
地面に倒れているヨスミの姿が見え、焦ったレイラは圧縮させた空気を足場にし、それを力強く蹴ってヨスミの元へと跳躍する。
地面へ降り立ったレイラはヨスミの元へと駆け出していく。
「あなた、しっかりしてくださいまし!」
気が付けば、戦闘の途中からあの人の支援が途切れていた。
アリスたちが合流してから、町の方への支援を集中してやっているのかと思っていた。
でもあの人がわたくしへの支援を途中でやめたなんてこと、わたくしの自惚れでなければ決してあり得ない・・・。
町の支援に合わせ、わたくしの動きにも対処して支援していたあの人が、アリスたちと合流してきたことぐらいで止めるはずがない。
きっとあの人に何かあったのではないか。
ずっとその不安が拭えなかった・・・。
そして急いで戻ってきたら、あの人は血だまりの中で倒れていた。
もし・・・、もしあの人が誰かに奇襲されて・・・・
「ん?ああ、戻ったか。」
「・・・へ?」
何事もなかったかのように体を起こし、目を閉じたままレイラの方へと顔を向けた。
「悪い悪い。これはただ極度の疲労と貧血、頭痛で横になっていただけだ。」
「え、でもこの血だまりは・・・。」
「ああ、これは・・・・あー、まあうん。そういうことだぁ~・・・」クラアッ
「あなた!・・・んもー、結局あなたが流した血じゃないですの!!」
足元がもつれ、倒れそうになったヨスミを急いで支える。
「あはは・・・、それでもう方は付いたのか?」
「ええ、あなたのおかげで一切の傷を受けることなくスライムたちを討伐し、魔法陣を破壊できたわ。」
「どれどれ・・・」
そういってヨスミは右目だけを開き、転移窓を展開した。
そこに映る、かつての廃屋があった地形とは思えないほどに原型を何一つ留めていない光景に言葉も出なかった。
開いた口が塞がらないまま口元がわなわなと震え、気持ちを落ち着かせるために一度深呼吸を挟む。
「スゥー、ハァー・・・・。んで、これは一体何があったの?」
「それは私がやったわ。」
「フィリオラ?あー、なるほど・・・。納得だ。」
上空からゆっくりと降りてきたフィリオラがヨスミの元へ腕を組みながらやってきた。
「あのいちげ、きは・・・すごか、った・・・。」
『そうだな。さすが竜母様ってところか。』
「あれでも2割程度に抑えたつもりだったんだけどね。」
「あの威力が2割・・・ですの・・・。」
「なるほどー、あれで2割かー・・・、本気でやったら世界が滅びそうだー・・・。」
「んー、考えたことはなかったけど、でも無理だと思うわよ。それが出来るのは白皇龍と・・・あとは魔王ぐらいだと思うわ。」
「魔王、ねえ。それに四皇龍の中では白皇龍だけか。他の皇龍たちはできないのか?」
「そうねー・・・、出来なくはないとは思うわ。多少時間は掛かるとは思うけどねー。でも白皇龍は他の皇龍とは違って、魔王からの寵愛をより強く受けているから他の皇龍以上の強さを持っていると思うわ。」
なるほど。魔王と白皇龍だけは規格外の強さって訳か。
それにしても・・・
「ずっと気になってはいたが、そういった情報はやけに詳しいんだな。」
「これでも私は長生きしているからこれまでの歴史や情勢を見てきたし、そして私は全ての竜を識る者であり、全ての竜の母だからね。まあ、それでも私でも知らないことはあるわよ。」
「そうなのか、意外だな。てっきり知らない事なんてないと思っていた。」
「私は神じゃないのよ?知らない事ももちろんあるわよ。」
そう言いながら、フィリオラは苦笑いを浮かべた。
神・・・、神か。
でもあの神でも知らないことがあったようだが・・・。
「そういえば、町の方はどうなっている?」
「あっちはリンちゃんたちに任せているからもうそろそろ終わるはずよ。」
「・・・なら、ハルネの元へ行こう。みんな、近づいてくれ。」
レイラたちはヨスミの元へと集まると、ハルネとハクアの元へ転移した。