そう、我、求むは・・・竜人なりて!
こんにちわ、皆さま。
この物語の主人公であるヨスミ様の恋人、レイラ・フォン・ヴァレンタインですわ。
わたくしたちはツーリン村の異変を解決し、カーインデルトへと向けて出発して今日で10日目を迎えました。
わたくしたちの旅は順調そのもので、特にヨスミ様はこれまでの景色を十分に堪能しているご様子。
ありとあらゆるものが珍しいものに見え、特にドラゴンに対する執着にも感じるほどの愛は半端じゃありませんわ。
でも、ドラゴンへ向ける愛をわたくしにも向けてくれることに、とても光栄なことで、心が嬉しい気持ちで溢れてしまいますわ・・・。
それだけでわたくしは・・・
「うへ、うへへへぇぇぇ・・・・」
「まーた出たわ、レイラちゃんの発作が。」
「竜母様、こちらブラックコーヒーです。どうぞ。」
「もう慣れ、た・・・。」
『もはや我らの風物詩だな。』
こほんっ。
話が脱線致しましたが、わたくしたちはそれからカーインデルトまで後5日までの距離まできましたわ。
馬車に乗れば、本来の半分以下の日数で到着できましたが、こういう旅も悪くはないものですわね。
冒険者の依頼でさえわたくしはいつも馬車で移動していましたから、こうやって自らの足で歩いて旅を出るなんてわたくしとしても初めての経験ですわ。
ヨスミ様の初めての旅、そしてわたくしの馬車要らずの初めての旅・・・。
お互いの初めてを共有し合う仲・・・つまり・・・
「うへ、うへへぇぇぇ・・・・・・」
「ねえ、あれ今日で何度目?」
「はい竜母様。本日で27度目で御座います。」
「今日に、して・・は・・・少ない・・・。」
『普段は35回以上だからな・・・。』
こほん、こほんっ
さて、後5日という所まできたわたくしたちでは御座いますが、ここで立ち寄った初めての町”エフェストル”にきたところで、わたくしたちの新たなる冒険譚が始まることを・・・まあ、みんなわかっておりましたわ。
だって、ヨスミ様との旅は毎日が新たなる冒険の連続なんですもの!うふふ。
「ここがエフェストルか。ステウラン村の2倍ほどの大きさだろうか。」
「確かにここの町は大きいですけど、カーインデルトに来たらもっと驚くと思いますわ!」
「そこまで大きいものなのか、首都カーインデルトは。」
「町の規模というよりはカーインデルトに建てられているヴァレンタイン公爵家の城が、という意味で御座います。」
まあでも確かに、村というレベルではないほどの活気さ。
周囲は石レンガで出来た高い防壁に囲われてるし、各入口には自警団ではない本物の兵士が立っている。
行き交う商人たち、そして馬車、人、そして獣人たち。
・・・獣人かあ。
「ねえ、レイラ。一つ聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「なんなりとお聞きくださいな、あなた様。」
「獣人に属する者たちについて聞きたい。」
「そうですわね、では宿屋に付いたらまた詳しくお話致しますわ!」
獣人がいるのだ。
もしかしたらあの種族の者らがいてもおかしくはないはず・・・。
そう、我、求むは・・・竜人なりて!
角が生えただけ、翼が無く、尻尾が生えただけ、またはその逆、その3つを兼ね備えたもの、または鱗のみ、または全てを兼ね備えたもの、はたまたえくせとら・・・。
基本的にみられる竜人と呼ばれる存在は、人間の見た目が前提でそこに竜の要素を幾つか足しただけの存在として扱われる。
または普通の人間ではあるが、他の人間種よりも長命で頑丈、または指が多かったり少なかったりといった感じの存在もある。
逆に竜を人間として表現されている存在は、竜人ではなくリザードマンという魔物として扱われることが多い。
そう、僕の求む竜人という見た目は、リザードマンに限りなく近い存在で、翼も尻尾も角や牙、瞳でさえ完璧に竜として表現されているものだ。
それを一般的にドラゴニュートと呼ばれている。
まあ英名か和名かでの表現の違いでしかないが、少なくとも和名の方で表現されているドラゴニュートは人間形態が多く、英名はドラゴン形態が多いという認識で問題ないだろう。
唯一、僕が許している存在と言ってもいい。
ただそれはどこまで表現されているのかが問題だ。
ただの人間なのに、寿命やら竜としての力が使われるだけで竜人と扱われるのは解釈違いだ。
更には角、瞳、または尻尾や鱗などがある竜人であってもそれらの部位の能力を真面に扱いきれていなければただのお飾り・・・コスプレしている一般人とほとんど変わらない。
角は魔力の象徴、瞳は全てを見通し、翼は大空を掛け、尾は大地の如く。
それら全てが扱えるが故に、ドラゴンというのは全ての生物に置いて頂点に君臨するにふさわしい性のであり、竜人もまたありとあらゆる亜人種の中で最強とまで名高い種族であらねばならない・・・。
・・・まあ、これは全て僕が抱く竜への思いと願い、そして価値観だ。
他の者たちが抱く思考と度々ぶつかり合っては議論していた頃を思い出す・・・。
角であれば羊型か悪魔型、瞳はサイクロプス型、翼は鳥型など。
それぞれの思考なる種族思想を持つ者同士での議論は、中々に白熱したな・・・。
なぜ、こうして竜人について熱く語っているのか。
それはこのエフェストルという町は隣国である”タイレンペラー獣帝国”と国境が非常に近いためか、亜人種たちとの交流の場とも言われており、両国間での<絶対中立区域>に設定された特殊な町なのだ。
故に、個々には先ほどから人間以外の種族の者たちの姿が多く見受けられている。
そのためか、行き交う者たちには一切の統一感がなく、和服、洋服、ドレスなど、または和風ドレスやドレス風な着物などと言った様々な文化を取り入れた衣装を着ている者までいる。
「活気があるのは良い事だな。」
「ええ、そうでしょう?ヴァレンタイン公国はタイレンペラー獣帝国と同盟を結んでおりまして、互いに友好国として接しておるのですわ。双方の者たちの協力的な関係があってこの町はここまで発展できましたの。」
「すご、い・・・」
「一代でここまで気付き上げたのは素晴らしいな。さすがレイラの義父様だね。」
「えっへんっ」
お父さんのこと好きすぎだろうが・・・可愛すぎかよ・・・。
「とりあえず僕は宿屋へ行って部屋を取っておくよ。」
「ならわたくしも一緒に行きますわ。」
「・・・なら、部屋を取った後、一緒に町の中を案内してくれ。」
「わかりましたわ!あなた様、ハルネも一緒でも構いませんこと?」
「もちろんだ。」
「よろしい、のですか?明らかにそれは御2人のデートでは御座いませんか。」
「・・・あっ」
ヨスミの提案したことの意味を理解し、顔を真っ赤にしながら言葉を返す。
「わ、わたくしは問題ありませんわ!わたくし専属メイドなのですよ?」
「・・・ふふ、旦那様もよろしいのであればぜひ。」
「旦那様はまだ早いから普通に呼んでくれ・・・」
「まだ、でございますね?」
「・・・あっ」
ハルネに誘われ、自らが言った言葉の意味を察し、諦めたかのように顔を赤らめながら仰ぐ。
「ハルネ、君は本当に策士なんだな。」
「お褒めに与かり、光栄にございます。うふふ。」