異変の終わりと、不穏な予兆
もう少し用意周到だと思っていたけど、あからさますぎたおかげかあっという間に展開は終息を迎えた。
簡単すぎる。
確かにアイツは腐っても貴族なのだろう。
本来ならもう少しは粘りに粘ってから、事件の根幹に触れていくようなもののはず。
「・・・つまり、あなたはあの貴族は捨て駒だとおっしゃりたいわけですね?」
「ああ。多分、アイツを捨て駒にして、今調べている内容は全てアイツがやったような捏造された証拠がでてくるはずだ。誓ってもいい。」
「確かに貴族であるからには対面を気にし、感情は仮面を被って使い分け、言葉も全て遠回しに捻って伝えるような高貴な存在ですから。」
「かといって今さら同行しようにも・・・」
「この者らが来た時点ですでに遅い、ということですわね・・・。」
はあ・・・、まだそうと決まったわけじゃないからなんとも言えないが、これ以上の進展はないという確信が何故か胸の中で芽生えていたのだった。
予想通り、ここで起きた事件は全てあの自称貴族冒険者がやったという書類が出てきた。
またその書類の中には、冒険者狩りが反応しない結晶についての詳しい秘密は何も書かれていなかった。
つまり、僕の予想通りにこの事件にかかわった不可解なことについての進展は一切なく、ただ村で起きた毒霧と水の汚染の原因、そして原因である水堕蛇の討伐。それだけだった。
冒険者狩りと懲罰者、結晶の変化、水を汚染させた禍石の出どころ、水堕蛇を狙った理由。
水堕蛇の素材を欲しがった貴族が冒険者を雇い、再生能力を封じるために毒を用いる必要があったために再生能力を封じる毒の霧と湖に逃げ込んだ際の罠として禍石を投げ込んだ。それがこの近くにあるツーリン村に及ぼす被害は関係ない。貴族であるがゆえにそれは必要な犠牲な事なのだと。
それ以上でも、それ以下でもない。
これで、この事件は終わったのだ。
「わかったわ・・・。後はヴァレンタイン公爵家の方で運用している情報ギルドも動員しますわ。」
『すまないな・・・、私個人でも詳しく調べてみるつもりだ。何かあれば、この番号を使用するように。・・・幸せにな、レイラ嬢。』
「はいっ!」
通信を終え、レイラは抱き抱えている卵を見る。
本来の目的はこの卵だった。
あの貴族が言った、この卵の利用価値・・・。
この卵事態にあるのか、それとも生まれてくる子供にあるのか。・・・もしかしてその子の血?
わからない。わからないがために、この子を守る方法がわからない。
どう守ればいいのか、誰から守ればいいのか。
「情報が足りなさすぎますわ・・・。」
この子はヨスミ様とわたくしで共に育てるなら、わたくしたちの大事な子であることに変わりありませんわ。
大事な、大事な我が子・・・。
それが人でなくとも、そんなのは関係ない。
あの人と共に育てるということがとても重要なのですわ。
「たとえそれが小さな犬でも猫でも、なんなら虫だって・・・!なんだってヨスミ様との子供なのですわぁあ!!」
「どうしたんだ?そんなに声を荒げて。」
「へぇあ!?あ、あなた様!?い、いつから・・・」
「いや、ついさっきだよ。大声が聞こえたから何事かと思って。」
「なななななな、なんでもないのですわ!?」
「そう?ならいいんだけど。もし何かあったら遠慮なく言うんだよ?」
「は、はいぃ・・・!」
そういってヨスミは頬に手を添え、優しくはにかんだ後、その場を移動した。
「ひう・・・!? あれは反則ですのよぉ・・・・」
その場にへたり込み、顔を真っ赤にして惚けた。
ツーリン村に寄って2日目が経ち、毒素が完全に抜けきり、全員の体調は回復した。
村人たちへの支援と復興作業も進み、8割の村人たちは回復した。
また薬師も回復し、フィリオラから教えてもらった解毒薬を調合し、それも無事に調合に成功したため、後は薬師に任せることで、この村を出る決心をする。
ツーリン村を訪れて計5日ほど過ぎ、最期にはネネとククから、あの湖の奥に落ちている珍しい石を貰い、
「お兄ちゃんたち・・・本当にありがとう・・・!」
「また、遊びにきてねぇ・・・!」
「ああ、その時はまた釣りでもしような。」
「またね、ネネちゃん。元気に過ごすんですのよ!」
「薬師さん、後は宜しく頼むわね。」
「みんな、元気、で・・・。」
『体に気を付けろよ、人の子らよ。森はいつでもお前たちを見守っている。』
そして僕たちは村人たちと別れ出発した。
「・・・予定通り、ゲスデ男爵が奴らに捕まりました。」
「ただの男爵風情が我らと同じ席になろうなど、片腹痛いわ。」
どこかの酒場、その隅にある暗い一室に4人の黒いローブで身を包む人物たちの姿。
ただそこで食事を取るわけでもなく、お酒を飲みに来たわけでもない。
ただ、互いが向かい合い、目も合わさず、淡々と話を続けている。
「ふん、堕落した竜卵が入手できなかったのは大きな痛手となったが、まだ取り返すチャンスはある。」
「だが、あの竜母フィリオラが動いているという話を聞きました。損失は大きいですが、堕落した竜卵は諦めるべきでは?」
「いや、あれが無ければ我らの計画に大きな遅れが出てしまう。長年かけてようやっと見つけ、多大な犠牲を払い、そしてついに作り出したのだ。」
「あの冒険者たちの意向をまずは知るべきではないか?あの竜卵の使い道を知り、どう扱うか次第で我らの仲間に引き入れてしまうというのは?」
「言っただろう?そこには竜母フィリオラがいる。」
話は難航しているようで、これといった結論が出ないまま、時間だけが過ぎていく。
「・・・仕方がない。カーインデルトでの計画を前倒しにする必要があるようだ。」
「まさか、いやしかし時期尚早ではないか?」
「いや、あの冒険者たちもカーインデルトへと向かっているらしい。あの冒険者パーティーの中に、ヴァレンタイン公爵令嬢のレイラ公女がいるという情報を手に入れた。」
「ほほー、そうなればにっくきグスタフ公爵を絶望に陥れられそうですなぁ・・・」
「ああ、レイラ公女を攫い、グスタフ公爵の目の前で堕落させて殺し、絶望に染まったグスタフ公爵を利用して・・・。」
「運が良ければ、そのまま竜卵を奪うことで、我らは更なる力を付けることができる・・・!」
どうやら話がまとまったようで、先ほどとは違って落ち着いて話を続けていく。
「ならば、レイラ公女はわたくしめにお任せを。以前、レイラ公女を奴隷だったころにたっぷり可愛がってやりましたが、途中でグスタフ公爵に奪われ・・・ですが今は十分に成長したはずです。もっともっとワシを楽しませてくれそうだあ・・・」
「ほんと貴殿の趣味が悪いものですねえ・・・。小さいうちに暴力でいう事を聞かせ、大きくなったら娼館に売り飛ばしつつも自分が一番の顧客となり楽しむなんてねえ・・・。」
「ではお前にこの計画を任せるとする。しっかり絶望に染め上げろ。」
「ええ、お任せを・・・。」
小太りの黒ローブは深く頭を下げ、醜い笑顔を浮かべた。




