本当に、貴族っていう奴はどこでも腐ってやがる。
あれからヨスミたちは村に戻り、教会で横になっている村人たちの治療に当たっていた。
ギルドで配られた冒険者の証となるこの結晶には通信機能があるようで、レイラがマジックバッグの中から球体のような物を取り出すと、球体に1から9まで書かれているボタンのようなものが浮かび、それを特定の順番に押してはめ込んだ後に魔力を流し始めた。
すると球体の上部分に装着されたガラスが光り、受付嬢のライヌの姿がそこに映る。
そこで、この村に起きた事件についての事の詳細を伝えるべく、ギルドマスターに変わり、詳しい話をしている様子だった。
最初は静かに聞いていた様子だったが、途中から怒声のような声が聞こえてきたのでおそらくどこかドラゴンの尾でも踏んでしまったのだろう。
「ハルネの話を聞いたヨスミ様がこう仰ってました。もしかしたら、生きたまま監禁されている冒険者がどこかにいる可能性が高いと。」
『なんと悍ましい事を・・・、あいわかった。その件についてはこちらの方で調査を進める。また詳しいことが分かり次第、3-4-2-7-5に連絡をくれ。』
話は終わり、後程このツーリン村に信頼できる冒険者を応援として送ることになった。
僕たちは今回、大した外傷は負うことはなかったが、僕を含めて何人かは毒霧でダウンしてしまったため、応援が来るまではここで休もうという事になった。
「とりあえずこれでひと段落ですわね。比較的被害の少ないアリスとシロルティアはこの村の周囲を散策して警戒を続けてくれてますわ。フィー様はここでハルネと村人の皆さんの治療をしておりますわ。」
「報告、ありがとう。ステウランの村を出発してすぐこんなことになるとは思わなかったね。」
「全くですの。でもこういうのが冒険の醍醐味だと思いますわ!」
「おねえちゃん!おにいちゃん!」
そこにネネとククがやってきた。
比較的毒の霧の影響は軽かったこともあり、回復もかなり早かったのかもう自由に動けるほど回復した。
「お父さんとお母さんと」
「この村の人みんなを助けてくれてありがとう!」
「それが冒険者としての務めですもの!」
「でもこれはどういったクエストの扱いになるんだ?」
「はい、それは恐らくE~D辺りの村の近辺調査、そしてAランクの”水堕蛇”討伐と2段階に分けられていたと思います。」
と、突然横になったままのハルネがいつもの調子で詳しく説明をしてくれた。
「ちょっとハルネ?そのまま眠っていなさいな。」
「大丈夫です、お嬢様。私めは戦いの後に気絶するようにぐっすり眠っていたので。」
「いや、それ普通に気絶してただけだから!もう少し休んでおきなさいよ!」
堪らず治療中のフィリオラがツッコんでしまった。
「ただ、これはギルドでの依頼として正式に受理されたものではないので、依頼失敗扱いにはなりませんが、依頼達成した際の報酬等も一切出ません。」
「いわゆるただ働きという奴か。」
「まあ、わたくしはあなた様との子供がこうして授けられたので文句の一つもありませんわ!うふふ!」
「深みのある言い方をしないの!まったくもう。」
とここで外で出回っていたアリスたちが教会内部へと戻ってきた。
どうやらギルドの応援に来た者たちがこの村の入口にいるらしい。
「貴殿が、この村の異変を解決した冒険者か?」
「ああ。お前たちはステウラン村から駆け付けた冒険者だと窺ったが・・・」
「そうだ。正確には私は冒険者ではなく貴族だ。他の冒険者たちと一緒にされては困る!それと、ちょうどこの付近で魔物の討伐をしていたのでね。連絡を受けて急いで駆けつけたのだ。」
確か、レイラの話から応援が来るのは少なくともあと3~4時間は掛かると言っていた。
なのに連絡を入れて30~50分ほどで来たこの冒険者たち。
首からぶら下がっている結晶は何事もない。
故にこいつらは冒険者狩り?とかいう連中ではない。
本当に応援を聞いて駆けつけて来てくれたお人よしの馬鹿か、
それとも・・・捕まってしまった仲間の別動隊か。
「そうだったのか。ちなみにどのような魔物を狩っていたんだ?」
「それは君たちには関係ない話だ。依頼内容の情報は原則守秘義務があるのでね。」
「・・・そうか、そうだよな。すまないな、少しピリピリしていて。」
「気にしないでくれ。まさか冒険者狩りに襲われるなんてな。」
・・・・。
「それで、討伐した水堕蛇はどこだ?それにあの女が抱き抱えている卵はなんだ?」
「・・・それを知ってどうする?」
「いや?ただ本当に水堕蛇が出現したのかな?と思ってな。卵に関してはただの興味本位だ。」
なるほど。
後方にいる仲間のあのきょろきょろと何かを探すような目、レイラやハルネたちを見る目。
すぅーっと感情が引いていくのがわかる。
「とりあえず私たちを水堕蛇の死骸に案内してくれ。奴の死骸を持ち帰り、素材を・・・」
「水堕蛇の死骸ならもうすでに処分しましたよ」
「な、なんだと!?あのクソ蛇の中には未成熟の卵があったはずだ!貴様、あの卵の価値を知らんのか!?」
「・・・なるほど。知っていたんだな、お前ら。」
「あ、まずい」
フィリオラが気づいた時にはもうすでに遅く、その高圧的な貴族の冒険者たちは全員地面に仰向けに倒されており、両手、両足にブラックリリーを打ち込まれた後だった。
「・・・へ?ひぎゃああああああああああ!?」
「ちょっとヨスミ!あなた・・・!」
「大丈夫ですわ、フィー様。ヨスミ様はまだぎりぎり理性を失ってはおりません。よく、我慢できましたね、あなた様。」
ヨスミの背中にそっと手を置き、慰めるように言葉を優しくかける。
「・・・腐っても貴族なのだろう?今ここで奴らを怒りに任せて殺したら、今後の旅に支障が出るかもしれないからな。さすがにそれぐらいの分別はできる・・・と思う。」
「偉いですわ。よしよし・・・」
「ふう、さすがね、レイラちゃん。貴女がいなかったら多分ヨスミの事だし、てっきり怒りに飲まれて彼らを殺すんじゃないかと思ったわ・・・。」
「そんなに僕は危なっかしいのか?」
「そうですわね。」
「ええ、そうよ。」
「その通りです。」
「・・・う、ん。」
『まあ・・・、そうだな。』
ほぼ一致されたヨスミへの信用の低さに、がっくしと頭を下げた。
まあいつものヨスミなら転移で頭を飛ばされるか、ブラックリリーを頭部か心臓に打ち込まれている。
ようはとっくに殺されていてもおかしくはなかった。
「とりあえず、冒険者たちが来るまではこのままにしよう。こいつはどうやら水堕蛇関連の親玉みたいだからな。僕があいつ等をこうして危害を加えたのに、僕の結晶はこうして青色を帯び、奴らは何も反応がない。」
そういって自らの結晶を手に取って見てみると、ヨスミの結晶は青い光を帯びていた。
今回、ハルネが話していたことの異様さ、その特徴が当てはまったのだ。
「本当に、貴族っていう奴はどこでも腐ってやがる。」