呼び声
「やっと…辿り着いた…。」
芳正は領主の前にいた。
「君の奥方には手を焼かされたよ。なにせ、短刀まで使って襲いかかってきたのだから。」
領主が含み笑いをする。
「でも、娘を見せた途端大人しくなったなぁ。君も見るかい?」
そう言って領主が連れてきたのは正気を失ったと思われる目の焦点が会わない娘の姿だった。
「あ……あぁ……、」
「やはり君もこうなるか。実に楽しかったよ、君の娘は。最初は『父様!父様!!』などと叫んでいたが今やこんなにも従順だ。」
領主が薄ら笑いを浮かべたまま刀を振り上げる。
「さらばだ!芳正!君の家族は実に退屈させないおもちゃだったよ!!」
バキッ
次の瞬間、守が到着し刀を叩き折った。
「ボサッとしてんじゃねえ!!」
「…守。」
守が領主を睨む。それでも、領主は折れた刀で守に襲いかかった。
「この子になにをした…!!」
「刀の原材料になってもらった。呪いに必要なものは強い絶望と生きた魂。そのために攫い、嬲り、あらゆる苦痛を与えた。この娘は実験台だったのだよ!」
思伝が感知するまでもなく、自分の中の怒りが増していくのを感じた。
「…もういい、その薄汚い口を二度と開くな。」
ほぼ真っ黒に染まりつつある思伝で領主を真っ二つにする。人を斬るという罪悪感は怒りに呑まれて感じなかった。
「…終わったぞ、芳正。」
「…なあ、守。一つ頼みがあるんだ。」
「なんだ?」
「俺ごとこの子を斬ってくれ。」
「……っ!」
「これ以上、この子に辛い思いをして欲しくない。それにこの子を1人で逝かせるわけにはいかないしな。」
「でも…」
「頼む…!この子を…救ってくれ…!!」
「…う、ぁぁぁああぁ……!」
守が芳正ごと娘を斬った。
「…父様、ありがとう……。」
娘の声が聞こえた気がした。
「俺は今…なにを斬ったんだ…?」
「なんで…なんで俺を斬らなかった?…守!」
「…!…斬ったさ。斬ったはずなんだ…」
「…そうか。もしかすると娘が俺に生きろと言っていたのかもな。」
娘の亡骸は城の内部に埋葬した。
「…以上が今回の顛末だ。」
「なるほど、お前が今回発動させた幾つかの不思議な力はおそらく…思伝の力が正の方向に働いた結果だろう。」
イクシズが深く考えに浸っていた。ただ、守の能力についてだけでなく他のことについて考えてるように思った。そこにヨミが入ってくる。
「あの刀の解析が終わったよ。やっぱり、あれは呪いだった。強い絶望と生きた魂を必要とするかなり悪質なやつね。」
守と芳正が暗い顔をする。
「あ、でも良いこともあるわよ。魂が残っていたから私とリブラの力を使って意識の修復をしたよ。」
と、ヨミが刀を呼び寄せる。
「会いたかったです、父様。」
「刀が…喋った?いやいや、驚く所はそこじゃないな。そんなことが出来るのか…。」
「あ…あぁ…」
「その刀はお前のものだ、芳正。呪いは解いてあるから暴走することもないだろう。それと、この城の城主をお前がやれ。」
「え?…あ…おう。でも、なんで?」
「俺たちはもうすぐこの世界から消えるからな。お前になら任せて行ける。」
「わかった、深くは詮索しないでおこう。」
「それじゃあ…」
<…イクシズ!>
「どうした?リブラ。」
<…今すぐ次の世界へ飛ぶぞ、詳しくはわからないが、何かがお前を呼んでる…。>
「…あぁ、わかった。…すまないが俺たちに関する記憶を消させてもらう、芳正。お前は少し知りすぎた。娘はまぁ…何かの妖術で意識だけ助かったことになってるだろう。」
「おい、ちょっと待っ…」
「じゃあな。」
その言葉を最後に彼らがこの世界にいた痕跡は消えてしまった。
ここからは前作とリンクして少し話が急展開します。急展開はいつものことですが(笑)




