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「魔王に物理攻撃が通るわけないだろう。」
(…いや、その格好で言う? いろいろ追いついてないけど、朝から何してるんだよ親父)
親父は「スリープ」「バインド」と呟き、気絶させた襲撃者を何か見えない糸のようなもので拘束する。
そのまま、普段使っている軽トラの荷台に、そいつを隠すように無造作に積み込む。
「こいつは本部に連れてくとして……」
「喜一、話がある。俺が風呂済ませるまで、リビングで待ってろ」
「あっ、目が痛いっ、泡が目に入った!」
(シャンプーの泡は、魔王にもダメージ入るのか)
目を指で擦っている親父を見ていると、柚子が玄関から出てくる。
「お母さん行ってきまーす!」
柚子は、頭は泡まみれでパンイチの親父に気づく。
「あっお父さんっ!学校行ってくるね!……あと近所の目もあるから、そんな格好で外に出ないでよね!」
「柚子ちゃん…気をつけて行ってくるんだぞ……」
親父は目をしばしばさせながら、なんとか送り出す。
(急に魔王感なくなったな、この人)
親父は見送った後、急いで風呂場へ帰っていく。
「展開、急すぎて、どうすればいいかわからねぇよ……」
風呂場へ向かう親父の後ろ姿を見ながら呟いた。
ひとまずは親父の言うとおりにリビングで待っていることにする。
俺も家に入り、玄関の鍵を閉めた。
「襲撃者は起きてきたりはしないよな?」
少し不安を抱えながらリビングに入ると朝食を作り終えた母がいた。
「きーちゃん、はやく食べちゃいなさい」
いつもと変わりない朝の光景に急に引き戻さる。
席につき、朝食を食べながら、俺は疑問を母に聞く。
「親父の仕事は害虫駆除で合ってる?」
「あら、襲撃者でも見ちゃった? うーん、仕方ないか、実は真男さんの仕事、本当はダンジョンの管理人なのよ」
「秘密にしてたのは、絶対あなたダンジョンに行きたいって言い出すじゃない。
真男さんが『あんなの害虫と一緒だ』って言ってたから害虫駆除で通すことにしたの」
「朝から情報多すぎるだろっ!」
心の中でツッコんでいると、親父がタオルで頭を拭きながらリビングに入ってくる。
もう魔王感はない、今はただの風呂上がりのおっさんだ。
「ステータス見れたってことは、何か欲に目覚めたんだろ?」
親父の話は大体本題から始まる。
「うん、人のステータス見れるようになった」
「あー、鑑定系か、需要はあるんだがなぁ…ダンジョンを潜るのには微妙だな」
「えっ!?このスキル、ハズレ枠だったの!?」
「鑑定系はな……心理学者とかがよく持ってるやつだな
ステータス鑑定で飯は食えるけど、スキル発展は地味なんだよ、地味。」
「お前だけ欲落ち遅くてな、いつ欲落ちするか期待してたが、鑑定系か……」
「子どもの頃から【欲望を持ってはいけない】って教え込まれてきたんだけど、あれは何だったんだ?」
「お前が5歳の時、いわゆる第一世代の大人達が欲望の暴走を起こしてな、あの時、多くの犠牲者が出て、日本は大混乱に陥ったんだ」
「だから、子どもたちには、欲望を持ってはいけないと刷り込むようになった。危険な欲望を少しでも減らすためにな」
「それでも、中学生くらいになると、どうしても何かしら小さな欲望を抱くもんだ。特に性欲は自然なものだから、ほとんどの男はそこで落ちる」
「お前は性欲落ちになると思ってたんだが、まさか鑑定系とはな…。」
俺のことを見下ろすような目で言われて、胸の奥にカチッと何かが引っかかった。
(ハズレ枠扱い…?)
イラッときた俺は親父に声を荒げてツッコむ。
「親父の魔王欲ってなんだよ!それに種族:魔王ってどういうこと!?」
「お前、ステータス以外も覗けるのか!?」
親父は目を見開いた。
「えっ?見れるけど…。」
「言ってはいけないことだったか?」
俺は今から誤魔化そうか迷ったが、家族だし、「まぁ大丈夫だろう」と思い素直に話す。
「俺が見れるのは、えーっと…年齢、身長、体重、種族、欲落ちの種類、現在の欲、好感度、レベル、HP、MP、スキルだったか?
その他のステータスはスキルがレベルアップすると見れるようになるって」
親父は真剣な目で俺に話す。
「そのスキルは私たち以外に話すなよ」
「そのスキルは鑑定系の域を超えている。他人に知られたら、利用目的で拉致されることもあり得る」
「普通の鑑定系はレベルと基本ステータスくらいしか見れないんだ」
親父は真剣だが、俺は内心浮かれていた。
「やっぱ俺のスキルすげぇんじゃん!俺の時代きたぁぁあ!」
しかし今、馬鹿みたいに喜んだら怒られそうなので、俺も真剣な顔を無理やり作り返答した。
「わかった」
しばしの沈黙のあと親父が口を開いた。真剣な顔だ。
「俺の種族は何だ?」
「魔王だよ」
「欲の種類は何だ?」
「魔王欲だよ」
「鑑定でそう見えたのか?本当か?」
「正確には魔王欲 レベル60だよ」
目を閉じて、しばし沈黙する親父。
「いよっしゃぁぁぁぁあ!魔王になれたぁぁぁあ!」
家の外にまで聞こえそうな声で親父は叫ぶ。
「えっ、親父、魔王の自覚なかったの!?」
「よかったわね、真男さん。魔王になるのが夢って言ってたものね」
母さんは隣で手をパチパチと叩いている。
「ちなみに母さん魔族ね」
「あらやだ、母さん魔族だったの」
母さんは自分の種族にあまり興味ないらしい。
両親の種族を聞いた時のテンションが両極端だった。
「母さん魔族!?俺の四天王が魔族とか熱いぞ!」
親父はまだテンションが高い。
「四天王って、俺ら家族のことか!?妹の柚子入れても三人で一人足りないじゃねーか!」
「喜一は種族なんだった!?」
「俺は普通に人間だったよ」
「チッ!」
親父は舌打ちした。




