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話は戻って、喜一 15歳 春
喜一は、家への帰路に遠回りしながら、頭の中でつぶやく。
「あー、勉強したくない。明日テストだけど、スマホで可愛い女の子チェックして寝よっと」
喜一、頭は賢くない。賢くないというよりは馬鹿寄りである。
日課は女の子チェック。だが話しかけられる勇気はない。ただ観察する。自分ではバレてないと思っているが、しっかりバレていた。
周囲からは「エロイチ」だの「ゲスイチ」だのと陰で言われている。
本人は「気にしていない」と自分に言い聞かせていた。
「そういえば委員長の鞄にジャラジャラと付けてあるキーホルダーの一匹変わってたな、後で調べてみよう」
喜一は女の子に対してのみ観察力が優れていた。それが役に立ったことは一度もなかった。
ちなみに、男はどうでもいい。
「ただいまー」
家に着くと、母が出迎えてくれる。
母の年齢は30代後半だが、20代のように若々しい。
「おかえり、夕飯ハンバーグでいいわよね?」
「ちょうど肉の口」
「なら良かった。あと入学後テスト明日でしょ?勉強しなさいよ」
喜一は勉強などする気はないが、家族仲は良いので返答はする。
「勉強なんかしないよ。勉強して頭が良くなりたいとか思っちゃったら、研究者コース一直線のガチガチ人生確定だよ?俺は遊び人人生がいい!」
この世界では、ただ強く「賢くなりたい」と欲を持っただけで、人は無意識にその方向へと進む特性を得てしまい、それは変わることはない。
「はぁ……なんて、適当な欲なのかしら…」
母は息子の宣言に頭を抱える。
「みんな60点くらいの平均点とれればいいの。欲を持ったらそのレールに進むしかない欲落ちしちゃうだろ?」
ただ勉強をしたくないだけだが、しれっと嘘をつく。
喜一は、真面目に解いても35点取れればいい方である。
「あらそう、でも赤点は取らないでよ。それと、三欲落ちだけはしないでよ」
『三欲落ち』
この世界では、食欲、睡眠欲、性欲の三代欲求に落ちた者が混乱をもたらしたとされており、少しばかりか軽蔑される。
「しない、しない。大丈夫。任せとけぃ」
喜一は階段に登るすれ違いざまに適当に返し、自室のある2階に上がる。
自室に入り、勉強する気はさらさらないので、委員長のキーホルダーをスマホで調べながら一人つぶやく。
「三欲落ちなんてするかよって、農地直送か寝てるだけのやつら」
「俺が落ちるとしたら性欲だろ?わりかしエロい欲求あるのに。なんで性欲落ちしないんだろ?落ちたらモテるようになるかもしれないが、営業マン直行だし、俺には向いてないから助かるわぁ…俺は可愛い子見て想像できれば、それで満足」
「俺は自由に生きられればそれでいいの」
「やっぱ、ダンジョンの冒険者か?就職するなら」
この世界では、欲をコントロールしてダンジョンで生計を立てるものたちがいる。
まだ未成年で『無欲』の喜一には関係のない話だった。
ベッドに横になりながら委員長のキーホルダーについて調べている喜一
「あった、これだ、なんだこれ?南米の3部のサッカーチームのマスコットキャラクター?変なもん持ってるな、なんでこんな物持ってるんだろう、今は国境が制限されてるのに」
日本と世界の国境は制限されている。
言語がわからない相手を知りたいと強く思ってしまい、本来なら研究者や開発者になれる人材がその国の言語学者になるケースが頻発したこともあるが。
日本に存在するダンジョンから生み出される貴重品の独占的利益を守るためでもある。
「これを機に委員長に声をかけて仲良く……いや、ダメだ、マニアックなキーホルダーを調べて話しかけるなんて気持ちが悪いだろう。そこに気づくなんて頭良いところもあるなっ!ナイス俺!」
そのとき、2階に上がってくる足音がした。
「柚子か、足音でわかる。柚子の足音だ」
スリッパをパカパカしながら上がってくる足音に喜一は確信した。
妹の柚子は1つ下の中学3年生。
見た目はTHE・妹のような感じだ。黒髪ツインテール 生意気 猫のようなクリっとした目が幼さを感じさせる。
頭も良いんだろう。しっかり平均点を取ってくる。
喜一の部屋のドアが適当に押し開けられた。
「きーちゃん お小遣いちょうだい」
妹は俺を"きーちゃん"と呼ぶ。生意気だが、そこはちょっと可愛い。ただその後のセリフがな。
「5月まで待てよ、勝手に入ってくるな、金なら親父に貰え」
親父は妹にデレデレである。
「この前もらったのもう使っちゃった」
「何にそんな使ってんだ?」
「走り回ってたら、靴すぐ壊れちゃうの」
妹は走り回るのが好きだ。犬のように走り回って喜んでいる妹を見て、喜一は「アホなのかな?この子」と常々思っていた。
「高校入ってから、雛お姉ちゃんと隼人くん以外に仲良い人増えた?どうせ、余ってるんだからちょうだいよ」
隼人はもう一人の幼馴染だ。俺とは違って運動神経が良くて女子にモテる。
なかなか触れられたくないことを言ってくる妹にイラつきながらも、喜一は気になっていたことをぶつけた。
「お前、見た目良くなってるみたいだけど」
「そのー、性欲?落ちしてるの?」
最低な質問をした。
当然妹は怒った。
「はぁー、そんなんだからさ、エロイチなんて言われるんだよ?
それにこれはナチュラル、性欲落ちする女の子なんて数万人に1人だよ」
「失礼な質問。お小遣いじゃなくてペナルティとして1000円ね」
喜一はそそくさと1000円を差し出す。
ぴょんぴょんと跳ねるように喜びながら、「ありがとう!」と嬉しそうに言い、パタンとドアを閉めていった。
「友達が簡単にできたら苦労しないっての!話してたら、すぐにエロい話に持ってこうとしちまって、みんな離れてくんだよ!」
三欲落ちの世界で喜一の友達作りはハードモードだった。




