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10―ロリ魔女王とショタ賢者、次の目的地決定―

 

 面倒な出来事から一夜明け――

 眠らされていたアプリーレは朝日の眩しさに目を覚ました。あたしの隣で眠るマーリンの寝相の悪さにイラッとしつつ、寝惚けた眼で違う部屋の天井に驚いているのか何度も瞬きをしている。



「起きた?」

「!」



 声を掛けるとパッとこっちを向いた。



「モーガンちゃん!? こ、此処は……」

「あたしとマーリンが泊まってる部屋だよ」

「私確か昨日……」



 自身の身に起きた災難を思い出せないのは無理もない。アプリーレは眠らされただけなのだから。

 で、眠っている間にあたしが全部片付けた。

 何が起きたかをアプリーレに説明していると大きな欠伸をしながらマーリンが目覚めた。



「ふわあ~……むにゃ……おお、おはようアプリーレ。いい朝だのう」

「お、おはようマーリン君」

「さっきの説明で理解出来たかい?」

「……うん。自分が情けないよ」



 落ち込むアプリーレの深緑色の瞳が翳る。



「そうショックを受けるでない。誰にだってこういった状況は起こる。どんな強い者でも、な」

「マーリンの言う通りだ。アプリーレ、運も実力の内という言葉があるだろう? あれは強ち間違いではない。強者であればある程、そいつの強運はより強くなる。若いのにフェニックスのB級魔術師になれたんだ。あんたは十分強者側の奴だ」

「そうそう。何たってモーガンという幸運を呼び寄せたのだからの」

「モーガンちゃん……マーリン君……」



 もっと上手に慰める方法は幾らでもある。が、取り繕った言葉ばかり吐いたって無駄だ。アプリーレに言った事は全て事実。魔術師のパラメーターには強運度もある。強運度が強ければ強い程、絶体絶命の窮地を幾度も潜り抜けられる。

 瞳に生気が戻ったアプリーレは春の陽光を思わせる笑顔を見せてくれた。




 ――1時間後。

 何時までもベッドの中に潜ったままもあれなので眠そうなマーリンの目を覚まさせ、起床したアプリーレが自身が泊まっている部屋から持ってきた鞄を貸したベッドに置いた。

 中から水晶玉を取り出すとあたし達へ振り向いた。



「実は昨日、マスターに仕事の成果を報告する前に眠らされたからまだしてないの。通信しても大丈夫かな?」

「うむ。その間我輩は顔を洗ってくるぞい」

「あたしも外に出てちょっくら散歩してくるよ」

「?」



 部屋から逃げる様に動き出したあたしとマーリンを訝しげに見つめつつ、アプリーレが通信用魔水晶(クリスタル)に魔力を込めた瞬間――



「あ、マス〈大丈夫かアプリーレー!!!〉きゃあ!?」



 魔水晶が粉砕するんじゃ? と錯覚してしまう程の大声を上げた主に吃驚してアプリーレは尻餅をついた。

 部屋からの逃亡を企てていたあたしとマーリンも、久しぶりな大声の耐性が消えていたせいで驚いて転んでしまった。



〈連絡を入れた形跡はあったがその後お前から何も応答がなかったから心配したぞ!! 一体何があったんだ!?〉

「ご、ごめんなさいマスター。トラブルに巻き込まれて……。でも心配しないで。モーガンちゃんが助けてくれたから」

〈モーガンちゃん?〉



 ば、馬鹿アプリーレ!! あたしの名前を出したら……!!

 尻餅をついた位置からは魔水晶を真ん中から見上げられる。つまり、魔水晶越しのコロネロとはバッチリ顔を見られた。

 全ての毛根が死滅した輝く坊主頭にサングラス、厳つい顔に筋肉隆々な2メートル超えの大男。

 サングラスを掛けているので奴の表情は伺えないが驚愕に染まっているだろう。

 口を震わせ、怪訝にマスターと呼ぶアプリーレに構う余裕もない。



〈ま……まさか……あのモーガンなのか? 実はモーガンそっくりなマーリンとの子供というオチ〉

「あるか! そんなオチ!」



 何でそういう思考になる!



〈……ということは、横にいるマーリンそっくりな坊主は……本物のマーリンか?〉

「うむ。そうじゃよコロネロ~。久しぶりじゃのう~。綺麗なつるつるじゃのう~」

〈くう……! おれよりジジイのくせにお前は永遠にふさふさだったなっ〉

「今もふさふさぞい。下はコロネロとお揃いだが。ぐふっ!」

「口閉じてな」



 可愛い顔をした美少年の姿になっても中身はマーリンのまま。平気で下品な話題を提供する。

 両手を叩いた。衝撃に挟まれたマーリンが潰れたカエルみたいな声を出して後ろに倒れた。魔水晶越しからコロネロと対峙した。



〈先程のアプリーレの話だがお前が助けてくれたんだってな。ギルドのマスターとして礼を言う〉

「ただの成り行きだ。あたしも、人の名前を勝手に使う不届き者をぶっ飛ばせたしね」

〈モーガンの名を? とんだ命知らずもいたものだ。お前の名を語るには、S級魔術師でも難しいだろう〉

「買い被り過ぎだ」

〈マーリンのその姿といい、お前のその姿といい、マーリンに関しては推測出来るがお前は出来んな〉

「何だっていいだろう」



 そろそろ長話も飽きてきたな。ここいらで中断するか。



「コロネロ。あたしとマーリンは今日『カシス街』を発つ。お喋りはこの辺りで終わらせるよ」

〈待て〉



 声色に圧力が格段に足された。アプリーレの顔色が一気に悪くなった。

 あたしも負けじと魔水晶越しから圧力を掛けた。



〈アプリーレを助けてもらった礼をしたい。どうせ魔導汽車に乗るのなら王都まで来い〉

「むう、それは我輩が遠慮したいんだが」



 復活したマーリンが間に口を挟んだ。行ける所は無理矢理にでも行くマーリンが乗り気じゃないのは珍しい。

 だが、それが王都『エレノア』なら話は別だ。

 話に置いて行かれているアプリーレがあたし達とコロネロを交互に見やる姿に申し訳なさを抱くだが詳しく説明をしている暇がない。



「コロネロ、お主も知っている筈ぞい。王都には()()の総本山がある。我輩がのこのこ行けば、蜂の巣に獲物が食べて下さいと言っているのと同じじゃ」

〈そんな事は分かっている。

 だからこそ――その為のモーガンだろう?〉



 今代の『賢者』の『守護者』はあたし。

 歴代最強の『守護者』らしいあたしの仕事は、卵になってしまったこの『賢者(ばか)』を命懸けで守る事。

 もしも連中がマーリンの存在に感付いた時にはあたしが始末したらいい。

 コロネロの挑発に乗るのも癪だが旧友に会いたいというのもまた事実。



「マーリン。あんたに付き合うよ」

「我輩に決定権を委ねるとは……。はは、まあ、コロネロからの熱い求愛じゃ。行こうではないか、王都『エレノア』に」

「だそうだ」

〈アプリーレもモーガンとマーリンと戻ってくるといい。マーリンは兎も角、モーガン程側にいて安心出来る魔術師はいない〉

「マスターとモーガンちゃん達ってどんな関係なんですか」



 会話のやり取りを聞いていたアプリーレは、ただの関係ではないと見抜いたのか。

 教える必要はまだないだろう。じゃあな、と魔水晶の通信を切ったコロネロ。アプリーレは慌てて魔水晶に呼び掛けるも応答はない。



「もう……」

「そう怒るな。モーガンの側にいれば安全だからのう。アプリーレ、お主とはもう暫く行動を共にせんとならんが異論はあるか?」

「マーリン君とモーガンちゃんの正体が知りたい!」

「正体も何も、見たまんだ。子供」

「普通の子供ではないのは、マスターと2人のやり取りから感じたわ。2人はどういった人なの?」

「秘密じゃよ」

「秘密だ。どうしても知りたいなら、ギルドに戻ってコロネロに聞いてみな。アプリーレになら教えてくれるだろうよ」



 納得がいかないと顔にありありと書いているアプリーレに苦笑をすると、時計に目をやった。時刻は朝食を取るに相応しい時間。

 聞きたそうにするアプリーレの話をやんわりと逸らしつつ『カシス街』最後になる朝食を頂く為に食堂へと向かった。



「今日はピザが食べたいのう! 12枚くらい食べたい!」

「え゛」

「朝食が済んだら魔導汽車に乗るんだ。5枚にしな」





読んで頂きありがとうございました!


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