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箱庭世界の壁魔法使い  作者: 白鯨
二章 箱庭の発展と神の敵対者
29/33

3.ラプタス領主


 箱庭視察の翌日、冒険者ギルドのギルマス。

 ロジャーに呼び出された。


 薬草の納品量が制限され、毎日冒険者ギルドに行かなくてもよくなった為、箱庭で“私の家”を作ったり、視察したりしていたのだが、わざわざカルーア工房に人を寄越してまで呼び出してきたのだ。

 きっとろくな用事じゃない。

 またミスリル鉱床の件みたいにこき使われなければいいけど。


「ギルマス。トンボさんをお連れしました」


 そしていつも通り、エルに案内されてギルマスの部屋に。


「入れ」

「では、トンボさんどうぞ中へ。私はこれで……」

「え? おいっ……なんなんだ?」


 なんだかロジャーの口調がいつもの軽い感じじゃない。

 それに、エルは扉も開けずそそくさと一階に降りていった。


 正直嫌な予感しかしないけど、入るしかないか。


「…………邪魔するぞ」


 私は意を決して扉を開けて中に入った。

 

 中には応接用のソファーに座るロジャーと、ガタイの良い見知らぬ男の姿があった。

 ボリュームたっぷりだが整えられた髪と髭、冒険者のように筋肉質だが身なりの良さそうな服を着た男だ。

 

「座ってくれ」


 男が気になりつつ、言われるままロジャーの対面に座る。

 ちなみに応接用のソファーはコの字に置かれており、男は一人用のソファー、所謂上座に座っている。


 しかも、テーブルの上に出されているのは、私には出された事の無いようなお茶菓子と紅茶だった。

 私の時もこれ出せよ。


 だが、これで嫌でもわかってしまった。

 この男、間違いなくお偉いさんだ。


「ゴホン! えー、今日お前に来てもらったのは、こちらの方たっての願いでな」


 ロジャーがわざとらしく咳をしながら話はじめた。

 すると、興味深そうにこちらを見てくる男と目があった。


「お前がミスリルの鉱床を発見した冒険者のトンボか! 俺様がラプタス領領主、フィレオ・フォン・ラプタスだ! 王から辺境伯の位をいただいておる」

「げぇ! 領主……様かよ」

「……トンボ、相手は領主様だよ。“げぇ”はないんじゃない?」


 思わず私の口から漏れた言葉に、ロジャーが苦言を呈した。

 私も失言に気付き、手で口を押さる。

 不敬罪こえー!


 しかし、なんで領主様が私を呼びつけるんだよ。


「わっはっはっ! 構わん! それにロジャーもはじめは似たようなものだったぞ?」

「……今はちゃんと礼儀ってやつを身に付けましたよ。トンボと違って」


 まるで私が礼儀知らずみたいな言い方しやがって。


「トンボも無理に畏まる必要はない。喋りやすい話し方で構わんぞ。名前もフィレオでよい」

「んじゃあ、お言葉に甘えて。よろしくフィレオのおっさん」


 堅苦しい喋り方をしなくていいのはありがたい。

 噂通り話のわかる領主様でよかったよ。


「はぁ~、トンボ……」


 ロジャーが盛大にため息を吐き、呆れた視線を送ってきた。

 なんだよ、相手が構わないって言うんだからいいだろ。


「普通はそう言われても変えちゃダメなの!」

「くくくっ、良い良い! 今日は鉱床の件でロジャーと話をしにきたのだが、折角だから噂の冒険者を見ておこうと思って無理を言って呼び出してもらったのだ」

「話をするなら俺を呼び出してくださいよ。いきなり来られても困ります」


 ロジャーは畏まった話し方だけど、領主様と仲も良さそうだ。

 結構豪快で度量も広そうな領主様だな。

 

「また私なんか噂になってんのか?」

「うむ……ドラゴンテイマーが現れたとな。今日は噂の従魔を連れていないのか?」

「ああそれか。ちゃんといるさ、視線がうざったいからこっちに入って貰ってるけど……皆出てこーい」


 私がポーチを軽くノックすると、中からペット四匹が次々と出てくる。

 表向きには、スライムのピンにアースゴーレムのエメト、ストームウルフのコタロー、そしてフレイムドラゴンのカルデラだ。


『呼んだー?』『ーーん?』『なんでござるか?』『もうご飯っすか?』


 最近ジロジロと見られる事が多くなった。

 その原因がカルデラなのだが。


 冒険者ギルドに薬草納品しに行った時に、カルデラを連れていった所為で、ドラゴンの子どもをテイムしたという噂が広まり、カルデラを連れて外を歩くとチラチラどころかガン見されるようになった。


 それが嫌で、わざわざポーチを壁魔法で改造して、従魔が過ごしやすいように中を広げて入ってもらっているのだ。

 今ではカルデラなんてポーチ内にクッションを持ち込み、くつろぎ空間を充実させている。


「おお! 本当にドラゴンをテイムしておるな!」

「そのポーチ、ただのマジックバッグじゃないの?」


 フィレオのおっさんはカルデラに興味津々で、ロジャーは私のポーチをガン見していた。


「マジックバッグに従魔限定のマジックハウスを入れてるだけだよ」


 という体で通す。

 マジックハウスってのは、マジックバッグの生き物版だ。

 制限なしのマジックハウスは国宝級らしいが、従魔限定や、魚限定など、指定制限があるものはそれなりに出回っているらしい。

 もちろんセヨン情報だ。


「トンボはそんなものまで持ってるの?」

「セヨンから貰ったんだよ」

「ああ、カルーア工房のお嬢さんなら持ってても不思議じゃないか」


 セヨンが魔道具の研究しているのは、この街じゃ有名らしい。


『このお菓子美味いっす!』

「おお見ろ! ドラゴンが俺様の手からエサを食ったぞ!」


 私とロジャーが話ている間に、カルデラがフィレオのおっさんからお茶菓子を貰って食べていた。


「お前も食うか?」

『ありがとうでござる!』


 ちゃっかりコタローも貰っている。

 

「お前ら……知らないおっさんから菓子を貰うんじゃありません!」

「領主様だって言ってるよね?! ハラハラするからトンボはもう黙ろう?!」

「わっはっはっ! 人懐っこい従魔である!」


 ロジャーが苦労しているが、ロジャーの不幸は蜜の味だ。

 私は構わない。


「それで……フィレオのおっさんは私を見に来ただけなのか?」

「いや、実はトンボに依頼があってな」

「断る」

「早いよ! せめて話は聞いて!」

「ロジャーから危険な依頼を嫌うと聞いていたからな……危険な依頼ではないから安心しろ」

「でも断「最後まで聞こうね! そうしようね!」」


 ロジャーがうるさい。

 悪いけど貴族と関わるのはリスク大き過ぎる。


「実は俺様の愛娘が噂のベビードラゴンに会いたい言っているのだ!」

「貴族令嬢のわがままに付き合う気はない」


 貴族の娘だからってわがままが全て通るとは思わないこった。

 フィレオのおっさんはいい奴だが、娘までいい奴かはわからない。

 もしかしたら「このドラゴン欲しいですわ!」みたいな事言い出すかもしれないし。


「領主様のご息女リリーナ様はまだ五歳だし、そんな喋り方しないよ」

「うむ! リリーは可愛いものに目が無くてな! 普段わがままを言わないリリーが「ドラゴンさん見てみたいです」とポツリと漏らしたのだ! 父親としては叶えてやりたいだろう!」


 ぐっ! コイツら私の情に訴える気か!

 

「リリーはもうすぐ誕生日でなぁ。是非ともドラゴンに会わせたかったのになぁ」

「心中お察しします」


 チラチラとこちらを見ながら話すオヤジ共。

 なんだこの茶番は。


「受けねぇもんは受けねぇからな」

「……トンボ。おじさんは領主様に後ろ楯になって貰った方がいいと思うよ?」

「……なんでだよ」

「トンボは気付いてないだろうけど、今トンボはこの街の有力者の間じゃ有名だからね。トンボがミスリル鉱床の発見者だってのは、もうかなり知られてるし、今度はドラゴンテイマーだ。それに……」

「それに……?」

「いや、それは後で話そう。とにかく、面倒事を避けたいなら、大きな後ろ楯があった方がいいよ。正直冒険者ギルドだけだと守りきれないからね?」


 そんなに有名になっていたとは。

 それにしても、ロジャーに私を守る気があったとは驚きだ。

 まぁ、悪い奴ではないからな。


「その為に依頼を受けろって?」

「領主様と繋がりがあれば、ラプタス領の中の事なら力になって貰えるかもよ? 今回のガンボ村だって、トンボが直訴できたかもしれない」


 そう言われるとそんな気もしてきたな。

 揺らぐ心にフィレオのおっさんが追い討ちをかけるように口を開く。

 

「うむ! 俺様の目が届きにくい民を見守り、ガンボ村のように何かあった時報告してくれる伝手は、多いに越したことはない。その目が善良であるのなら、守るのもやぶさかではない」

「ん~……仕方ない、わかった依頼を受ける。だけどその娘が無茶言うようなら速効で帰るからな!」

「リリーは良い子だから心配ないぞ! 明日にでも来るがいい! 歓迎しよう!」

「わかった、なら明日お邪魔するわ」


 うーん、貴族と関わりを持ってしまったが、表面上は仲良くして、あまり深入りしないようにしとこう。


「話は纏まりましたね。ならこっちの話をしてもいいですか?」

「うむ! 構わん!」

「さっき言いかけたやつか?」

「そうそう、トンボってダンジョン攻略したんらしいじゃん。モヒートから聞いたよ」


 ミスリル鉱床の件にダンジョンも含まれてるなら、当然ロジャーとフィレオのおっさんにも報告してるよな。


「確かに攻略したな。滅茶苦茶大変だったけど」

「本当なんだ……ダンジョンコアはまだ持ってる?」

「ああ、あるぞ。真っ二つだけど」

「それが本物なら褒賞金が出るよ。あと冒険者ランクも上げないとね」


 そういえばダンジョンを攻略したら褒賞金が出るんだっけ?


「褒賞金は欲しいけど、ランクは今のままでいいんだけど」

「えっなんで?」


 まだDランクになって一月も経ってないのに、またランク上がってみろ。絶対に悪目立ちするだろ。


「冒険者ギルドとしてはダンジョンをソロ攻略できる冒険者にはもっとランク上げて欲しいんだけどねぇ」

「元々まともに冒険者してないんだから、私はランクはどうでもいいんだよ」

「討伐依頼に護衛依頼、それからダンジョン攻略。おじさんトンボは十分冒険者してると思うけど」

「くくっ、金はいるが名声はいらぬ……か、無欲なのかそうでないのか、面白い奴よ」


 金はたんまり持っている所から貰う分には気兼ねしないからな。


 依頼だって、最近のはどれも受けたくて受けた依頼じゃないから、しばらくは平穏な薬草採取だけでいいよ。

 箱庭の方も色々やりたい事があるし。


 問題は“追加”をどうするか、なんだよなぁ。


「とりあえずこれがダンジョンコアな」

「ほう! これがダンジョンコアか!」


 ポーチから二つに割られたダンジョンコアを取り出してテーブルに置くと、ダンジョンコアをはじめて見るのか、フィレオのおっさんが興味深そうに顔を近付ける。

 

「本物……だね。昔一度だけ見たことあったけど変わらない。それに流石“生きた魔石”、割れてなお強い魔力を帯びているよ」


 ロジャーは見たことあったらしい。

 エルに確認させることなく、ダンジョンコアだと断定していた。


「“生きた魔石”って?」

「昔一度だけダンジョンコアを壊さず持ち帰った冒険者がいたんだよ」


 ダンジョンコアを持ち出すのが可能なのは知っている。

 私もダンジョンの外でコアを破壊したからな。


「コアを破壊して強制転移せずに、危険な道のりをわざわざ戻ってね。コアは割れても高密度で巨大な魔石として超高額で取引されるから、割れていなければもっと高値が付くんじゃないかって考えたらしいけど」


 神様の権能の一部だから、そりゃ高密度の魔力の塊だわな。

 それにやっぱり高額なんだ。


「だけどね、その冒険者……コアを持ち帰ったその日に行方がわからなくなったんだって……」


 あれ、なんか怪談みたいな語り口になってないか?


「コアを狙った何者かに殺されたのでは? 遠い国にコアを売る伝手があったのでは? という根も葉もない噂が流れる中、遂にその冒険者が見つかったんだ」


 ゴクリ。

 私かフィレオのおっさんか、どちらかが唾を飲み下した。

 

「……ダンジョンの奥底で異形の姿となってね。愛用していた装備を身に付けていたから、辛うじてその冒険者だと判明したらしいけど……彼は新たなダンジョンマスターになってたんだ」


 怖っ! 動く骨より怪談の方がよっぽど怖いんですが!


「それ以降、ダンジョンマスターを選ぶのはコアだとされ、“生きた魔石”と言われるようなり、コアは壊して持ち帰るのが原則となったんだ……」


 神様なんでそんな仕様にしたんだよ!

 

「意思を持つように持ち主を選ぶ……だから“生きた魔石”か。恐ろしいものよ」

「という訳でこのコアは本物ですよ。ねぇトンボ、このダンジョンコア、片方だけでいいから冒険者ギルドに売ってよ。持ってたら危ないかも……怖いだろ? 今なら高値で買い取るからさ」


 いい笑顔でコアを売ってくれと言うロジャー。

 このクソマスター、端からそれが目的であんな話聞かせたのかよ!

 

「私の身を案じるなら、両方買い取るのが筋じゃないのかよ?」

「いや、それは……ウチにも予算ってのがあるからさぁ」

「まっ、売らないけどな」

「えー、他所に持ち込むなら冒険者ギルドに売ってよ」

「安心しろよ、誰にも売らないから。コアはカルーア工房で有効活用する」

「コアの研究でもするの? 確かにカルーア工房のお嬢さんなら喜びそうだね」

「そういう事だ」


 正確には私が実験するんだけどな。


「残念。なら売りたくなったら持って来てよ」

「機会があればな……話が終わりなら私はもう行くぞ? この後予定が入ってるんだ」

「ふむ! そうであったか! ならばトンボ、今日はご苦労であった! 明日を楽しみにしているぞ!」

「ういっす、また明日な」


 予期せぬ形であったが、無事ラプタス領主との顔合わせは終わった。

 仲良くはできそうだな。



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