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箱庭世界の壁魔法使い  作者: 白鯨
一章 箱庭の神様見習い
16/33

16.鍛冶ギルド


 ラプタスの冒険者ギルドに戻ってきた。


 なんだかギルドの中が騒がしい気がするけど、気のせいかな?

 疑問に思いながらも空いている受付にエルの姿を見つけ、とりあえずそこに向かうことに。


 なんか何時もエルの受付が空いているけど、ひょっとしてエルって受付嬢の中では人気ないのかな?

 確かに身体付きはちんちくりんだけど、元気だし愛想も良いから妹キャラとして人気出そうなものだけど。


「誰がちんちくりんですか! トンボさんも似たようなものでしょ!」


 声に出ていたらしくエルが、私の胸を見て反論してきた。

 失礼な! 私のは未来に飛翔する為に力を溜めている段階なんですぅ! まだまだ伸び代残されてますぅ!

 

「ふふっ、三年後も同じ台詞を言えればいいですね……」


 不吉な事を言いはじめたエル。

 ちなみにエルは十八歳だ。


「それに先程まで冒険者の帰還ラッシュでいっぱいでしたよ、ようやく一段落した所です」


 薬草納品だけしていた私は、他の冒険者と活動している時間が違うので、今までかち合うことはなかったが、大体今の時間の少し前に冒険者が戻ってくるらしい。

 そのまま依頼達成の報酬で、ギルド併設の酒場で食事と酒盛りするんだとか。

 成る程、だからギルドの中がいつもより騒がしかったのか。


「……それよりトンボさん、ガンボ村への出発は明日になったんですか?」


 エルが急に真面目な顔を向けて聞いてきた。


 そういえば普通に行けば今頃ガンボ村に着いているのか。

 私はコタロー便で時間短縮したけど。


「依頼はもう終わった。コボルトは無事殲滅。村長さんからのサインも貰ったぞ。それよりギルマスに取り次いでもらいたいんだけど?」


 私は村長さんのサイン入り依頼票をヒラヒラ見せつけながらエルにお願いした。


「えっ! いくらなんでも早すぎますよ!」

「そこら辺の事情も一緒に話すから、ギルマスにトンボが“ギルドにお得な話を持ってきた”って伝えてくれ」

「わ、わかりました」


 エルは色々聞きたそうにしていたが、今朝私がギルマスに呼び出された事もあって、すんなりと確認に行ってくれた。


 ギルマスへの話は当然、ミスリルの鉱床についてだ。

 ラプタス支部のギルドマスターなら、当然ラプタスの領主様への伝手ぐらい持っているだろうから、そこからガンボ村の現状を知らせる。

 そうすれば領主様もさっさと動いてくれるだろう。


「トンボさん、ギルマスがお会いになるそうです。こちらへどうぞ」


 そうして本日二度目のギルマスの執務室へと通された。

 今朝と同じくソファーに座り対面する。


「よう、今朝ぶりー。あんなに平穏が一番って言った直後に、コボルトの討伐依頼受けたんだって? エルから聞いたよ」


 エルがお茶を淹れてくれるのを待ち、ギルマスが意地の悪い顔でそう言った。

 

 その顔にイラっときて、仕事だとわかっていてもチクったエルの方を一睨みしてから顔を背けた。


「ふんっ、ランクが上がったから記念にCランク依頼を受けただけだ」

「そうかい? おじさんはトンボが枯れてなくて嬉しいけどねぇ」


 ムカつく顔でニヤニヤするギルマス。

 あの顔凄く殴りたい。


「冗談だ悪かった、だからそんな睨むなよ。おじさんの可愛いお茶目だろ……で、“お得な話し”ってのは何? 必要なら人払いもするけど?」


 全く可愛くない笑顔で両手を上げて降参ポーズをするギルマス。

 しかし、本題に入った途端に真面目な顔に変わり、後ろに立っているエルの方をチラリと見た。


「エルも一緒で大丈夫だ。依頼の報告も兼ねてるからな」


 だから私も頭を切り替えて話しはじめた。


 コボルトの中にコボルトアルケミストが居たこと。

 ミスリルをコバルトに変えていたこと。

 ミスリルの鉱床を発見したこと。

 未発掘のミスリル鉱がまだあるかもしれないということ。


 なるべくガンボ村の現状が伝わるように言葉を重ねた。


「トンボ……それを証明できる物はあるのか?」


 話しを聞いたギルマスの第一声がそれだった。

 組織の長としては当然の対応だろう。


「これを村長からもらってきた」

 

 なので、私はガンボ村でもらってきたミスリル鉱石をポーチから取り出し、テーブルの上に置いた。

 

「エル」

「はい、失礼します」


 エルはテーブルの側まで移動すると、ミスリル鉱石を手に取り調べはじめた。

 叩いたり魔力を流したりしている。


「間違いありませんミスリル鉱石です。それも付着している岩の断面を見る限り、採掘してから三日も経っていませんね。品質は採掘後の処理が甘いため少し低いですが、この大きさなら金貨10枚って所ですね」

「ミスリル高っ!」


 思わず声を上げてしまったが、これだけのミスリルで神様貯金の十分の一だ。

 しかもこれで品質は低めなんだろ?

 ミスリル性の武器防具が高い訳だよ。


「ここから一番近いミスリル鉱山は確か、一月掛けて二つ隣の領に行かなければ無かったはず……つまり本物かぁ~。確かに“お得な話し”だが、話の運びかた次第では爆弾になりかねないぞコリャ」


 額に手を当ててギルマスが天を仰いだ。

 私が思っていた以上に大事になりそうだ。


「領主様に報告する前に、鉱床がどの程度のものか調べる必要があるな……トンボこれから暇? 暇だよねよし」

「勝手に決めんな。夕食の用意しないといけないから暇じゃないぞ」

「わかった。用事が終わったらギルドの酒場でおじさんが飯を奢ってあげよう」

「家にもう一人いるんだけど?」

「もちろん二人分」


 まぁ、それならいいかな?

 思えば外食はまだしたことがなかったし、どんな料理が出るか興味はある。


「わかった。で、何するんだ?」

「鉱物の専門家の所。つまり鍛冶ギルドに行く」


 周りも巻き込もうぜ。

 

 そんな心の声が聞こえてきそうな笑顔を浮かべるギルマス。

 鍛冶ギルドってどんな所だ?



ーーー



 鍛冶ギルドとは。


 名前にこそ“鍛冶”がつくが、鍛冶師に限らず錬金術師や細工師など物作りを生業にする者が多く所属するギルドだ。

 鉱石の取引を代行して買い占めを防いだり、薄利多売をしないように価格の設定をしたり、果ては特許のようなものも発行しているらしい。


 道すがらギルマスが教えてくれた。

 エルは私の報告を聞き、報酬の用意をすべくお留守番だ。


「冒険者ギルドマスターのロジャーだ。モヒートはいる?」


 鍛冶ギルドの受付は冒険者ギルドと違って二つしかなかった。

 企業ビルの受付を想像するとわかりやすいか。


「これはロジャー様、ようこそ鍛冶ギルドへ。ギルドマスターなら今は工房にいるかと思いますが……部屋を用意しますか?」

「いや、こっちから出向くよ。どうせいつもの工房だろう」


 ギルマスは馴れたように受付嬢と話すと、ずんずん奥へと進んでいく。

 何度も来ているのか、勝手知ったる他人のギルドって感じだ。

 

「邪魔するよモヒート。話があってきた」


 目的の部屋まで来るとギルマスはノックもせずに扉を開けた。

 デリカシーというかマナーが無さすぎる。

 それともギルマス同士仲が良いのか?


「なんじゃロジャーか。見ての通りいま来客中じゃ、少し待っとれ」


 部屋の内装はセヨンの工房に似ていた。

 工房内には二人の人物が椅子に座って話をしていた。

 一人はギルマスに気安く言葉を返した、髭もじゃの小さいおっさんだ。

 しかも小さいのに筋肉モリモリ。


 そしてもう一人が。


「セヨン?」

「トンボ? なんで冒険者ギルドんギルマスと一緒に鍛冶ギルドに来とーったい?」


 来客とはセヨンの事だったらしい。

 そういえばセヨンは鍛冶ギルドに所属しているんだったか。


「私はギルマスの付き添いだよ」

「ギルマスん……一体何ばやらかしたんや?」


 何故やらかした前提で話を進めるのか。


「なんじゃ、セヨンの知り合いか?」

「ほら、こん前マーダーグリズリーから助けてくれた恩人ん話ばしたっちゃろ。彼女がそん恩人で、今はうちん家に泊まっとー冒険者んトンボや」

「おお、あの!」


 セヨンが鍛冶ギルドのギルマスに私を紹介すると、鍛冶ギルドのギルマスはこちらに近いて見定める様な視線を向けてきた。


「ふーむ、テイマー兼凄腕の魔法使いには見えんの……と、悪かった、ワシは鍛冶ギルドのギルマスをしとるモヒート・キュラソーじゃ!」

「冒険者のトンボっす。よろしくですモヒートさん」


 モヒートさんと握手する。

 凄い力でゴツゴツした硬い、正に鍛冶師って感じの手だ。 

 それにファミリーネーム。

 モヒートさんはドワーフなんだろう。

 見た目まんまだし。


 さすがにこの顔で貴族はないよな?


「そういや、トンボはカルーア工房と関わりがあるってエルが言ってたね。家に泊まっていたのかい?」

「そうだよ。ギルマスはセヨンと知り合いなのか?」

「知り合いもなにも、冒険者ギルドにはギルドカード関連の魔道具が多いからね、カルーア工房には定期的なメンテナンスを頼んでるんだよ」

「冒険者ギルドはウチんお得意様ばい? ギルマスそん後受付ん魔道具ん調子はどげんね?」

「おかげさんですっかり元通りだよ」


 うーん私以外全員知り合いだったとは、意外な繋がりがあるものだ。

 

「それより、話があってきたんやろう? うちは後でよかけん先に話してよかぞ」

「おっいいのかい? ならお先に……」

「ああ、じゃあうちはロビーにでもおるけん、終わったら呼んでくれ」

「ちょっと待った。セヨンも一緒に聞いてくれ」


 セヨンは部屋を出ようとしたが、私がそれを引き止めた。

 どうせ話をしたら鍛冶ギルドと関わりを得るんだから、鍛冶ギルドに所属している、セヨンに間に入ってもらった方がスムーズに話が進むだろう。


 決して心細いからではない。


「セヨンなら信用できるし、一緒に聞いてもらおう。鍛冶ギルドに所属している奴で、私が一番信頼しているのがセヨンだ」

「うーん、まぁトンボが持ってきた話だしね。だけどこれ以上は無しだ。広まり過ぎれば必ずどこかから漏れるからね」

「わかった。ありがとうギルマス」


 釘は刺されたが私のわがままを聞いてくれたギルマス。

 以外と良いところあるじゃん。


「で、話とはなんじゃ? トンボの嬢ちゃんが関係しているのだろう?」

 

 セヨンにも部屋に残ってもらい、全員で椅子に座る。

 そしてモヒートさんに促されながら、私は冒険者ギルドで話した事を聞かせた。


 話を聞いたモヒートさんは唸るような声を出して腕を組んだ。


「う~む、それが本当なら領の一大事業になるやもしれぬ。そのミスリルの現物と、コボルトの作ったコバルト製の武器は持っとるか?」

「ミスリルはあるけどコバルトの武器?」

「ワシら熟練の鍛冶師ならその二つを見れば、同じミスリルを使ったかわかる。トンボのお嬢ちゃんを信じぬ訳ではないが、コボルトがミスリルを採掘していたという証拠が欲しいんじゃ」


 モヒートさん曰く、鉱石にも採掘した場所によって質が変わり、錬金術によって変質しても、元の鉱石と見比べれば判別できるらしい。

 熟練の鍛冶師凄いな。


 しかし、武器なんて持って帰ってきていない。

 私は使わないし邪魔なので、全部ガンボ村に寄付してきたのだ。

 こんなことなら一本位持って帰ってくればよかったな。


 いや、ミスリルをコバルトにした物ならもう一つあったじゃないか。


「武器じゃなくてもいいんすか?」

「ん? 防具でも構わんぞ。要はミスリルをコバルトにしたものを確認できればいいんじゃ」


 なら。と私はポーチから工房の一角にそれを出した。

 ズンと鈍い音を立て、天井ギリギリの大きさのコバルトゴーレムの残骸が転がり出た。

 ここが工房でよかった。

 執務室とかなら床が抜けかねない。

 

「んなっ?! なんじゃコリャ!」

「ちょ! おじさんビックリしたんですけど!」


 親父組がいきなり現れた塊に、椅子を倒しながら立ち上がった。

 

 セヨンはそんな二人を気に止めず、コバルトゴーレムの残骸に近づくとペタペタと触りはじめた。


「むー……こりゃコバルトゴーレムか?」

「凄いなセヨン、よくわかったな」


 原型を留めていない残骸なのに、セヨンは一発でその正体を当てて見せた。

 さすがピンとエメトの生みの親。


「コバルトゴーレム?! これがか?!」

「何をしたらコバルトゴーレムがこんなボコボコのベコベコになるんだよ。冒険者時代にハンマーで倒していた奴はいたが、それでも原型は留めていたよ……」

「何をしたって、殴って振り回して叩きつけただけだよ」


 エメトが。

 巻き込まれたコボルトアルケミストが挽き肉になる程の力でね。

 あれは酷かった。

 

「殴って振り回したって……トンボの嬢ちゃんがか?」

「あっ……ほら、うちの子は優秀だから」


 いかん思わず本当の事を言ってしまった。

 魔法使ってやりましたって言えばよかった。

 そしていつもの常套句で誤魔化すことに。


 ポーチの中が気に入ったのか、アイテムボックスの発動に邪魔にならない様に、その中に入り続けているピンとエメトが、うちの子と言われ顔を出した。

 ちなみにコタローは走り疲れたらしく分身を消している。

 魔法生物のピンとエメトと違って、分身を操り意識を分割するのは神経を使うらしい。


 モヒートさんとギルマスの視線が二匹に注がれ、二匹が手を振ってそれに応える。


「まぁ、冒険者が手の内を隠すのはよくある事じゃな……」

「エルが言ってた“うちの子は優秀”ってこれのことか……」


 二人とも信じてはくれなかったが、納得はしたらしい。

 ただ、ピンとエメトが普通でない事を知っているセヨンの視線が痛かった。


「ばってんこれだけん大きさんコバルトゴーレムや。さぞ大量んミスリルが採掘できたんやろうな」

「確かにな。ミスリルも見せてくれ、ワシが確認しよう」


 モヒートさんにミスリル鉱石を渡すと、テレビの鑑定番組なんかで見るようなルーペを取り出して、ミスリル鉱石とコバルトゴーレムを確認しはじめる。

 

「ふむ、間違いない。このミスリルとコバルトは同じ場所で採掘した物のようじゃな」

「おお! なら鉱床の証明はできた訳だ!」


 鍛冶ギルドのギルマスからお墨付きを貰えた。

 実際に見てきたから嘘ではなかったけど、無事に認められて安堵した。


「あとはどれだけの量が残っているかじゃが、そればかりは実際に現場に行かねばわからんの」

「コボルトの巣にもなっていたからね。トンボは周りの罠はどうしたの?」

「罠はスルーしたから全部残ってるよ。見に行くなら斥候連れてしっかり解除よろしく」


 実際に行ってみる様なので、アドバイスしておく。

 よしよし、これでザトシさん達が解除する罠が減る訳だ。


「トンボはどうやってスルーしたの……?」

「…………うちの子は」

「あーハイハイ、優秀なんだったね?」


 策士気分を味わっていたら冷や水を浴びせられた。

 ギルマスのクセに生意気な。


「冒険者ギルドと鍛冶ギルドの共同で鉱床を確認したら領主様に報告だね」

「うむ、ミスリル採掘という一大事業がはじまれば、この街に仕事と人と物が増え、鍛冶ギルドにもミスリルが多く入ってくるわい!」

「護衛依頼が増えるだろうな! 当然ウチの冒険者が発見したんだから、ミスリル製の武器防具は優先して回してくれよ!」

「まぁ、それくらいなら構わんじゃろ!」

「わっはっはっ!」

「がっはっはっ!」


 親父組が皮算用して悪い笑みを浮かべている。

 まだ十分な採掘量が見込めるかわからないというのに。


 それに私は冒険者ギルドと鍛冶ギルドが儲かろうがどうでもいいのだ。


「ガンボ村はどうなる?」

「ああ、トンボが気にしてるのはそこか。安心しなよ、君から聞いた鉱床の場所なら必ずガンボ村が要になる。領主様だって同じ結論になるはずだよ」

「つまりちゃんと援助されるんだな?」

「人の流れが増えるから、確実に村は富むだろうな。騒がしくもなるけどね……」


 それでも死んでしまうよりはマシだ。

 ガンボ村はあんな壁ができても順応してたんだから、きっと大丈夫なはず。


 私の役目はとりあえず終わりだ。

 あとはギルマス達に任せよう。

 

「なに言ってんの。鍛冶ギルドの人間を連れて確認に行くのは君だよ」

「はぁ? なんで私が……」

「おじさん言っただろ? これ以上広めるのは無しだって……我が儘、聞いてあげたよね?」


 セヨンの同席を認めたのはこの為か!

 一度私の提案を受けて貰っただけに断りづらい。


「ぐっ! このクソ親父が……!」

「ほら、おじさん年季が違うから」


 悔しがる私に対し、本当にムカつくニヤケ面を向けるギルマス。

 何が年季が違うだ!

 たかだか《交渉術》のレベル差一だろうが!


「わーったよ! やればいいんだろ! やれば!」

 

 乗りかかった船だ。

 こうなりゃ行き着く所まで行ってやるさ!


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