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雑記帳  作者: 勇寛
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生くるべく、生きて

 身体の芯から冷えるような寒さに、体を震わせながら床の上で束の間の眠りについていた男が目を覚ました。


「畜生、クソみてえに寒ぃ。……こりゃ、マジでやべえぞ。本格的に死ぬ、これは死ぬ」


 ありったけの蓆を簀子の上に敷いて、辛うじて地面から伝わる寒気を凌ぎ、かつ固い地面を固くないと錯覚できるだけのクッションを期待したのだが、そこまでの効果はなかった。

 上に乗せたぼろぼろの育苗用の断熱シートがかろうじて暖かさをうっすらと残している。

 蓆の細かなごみが自分の身体についているのをぱっぱと払落し、小さな薪ストーブの前へと体を移動する。

 ストーブの前に置かれた薪を1本ストーブの中へと放り込み、焚きつけ用にバトニングされた薪と乾いた草の塊を手に取り、徳用のマッチ箱から1本取り出し擦った。

 この雑多なものがあふれる納屋の中でおそらくもっとも価値のある品である薪ストーブ。

 それに火が入る。


「これだけは、本当に親父に感謝だな。もし回収業者に持ってかれてたりしてたら、確実に詰んでるところだ」


 今年の春先に95歳の大往生で亡くなった祖父。

 その遺産として残されたガラクタ満載のこの納屋の中で間違いなく、最も価値のあるこの薪ストーブ。

 残った家族の全員が廃棄を主張する中で、唯一父だけがその保存を訴えたのだ。

 確か“これを使ってピザを焼きたい”とのたまっていたわけだが、そこから今までその目的でストーブに火が入れられたことはない。

 外へとつながる配管の清掃代だけがかかったと母が愚痴っていたのだけを覚えていた。

 だが、そのおかげで今、自分は生き延びているのだから何が幸いするのかわからないものである。


「はぁ……暖かい。マジであったかぃ」


 火種から焚きつけの木に火が移り、そこから薪へと燃え移る。

 ストーブの下にある空気の調節コックを動かして火を大きく育てる。


「……煙出たから、多分きっと来るよな。はぁ……どうすんだよ、俺」


 ぱちぱちと音を発てて燃える薪を見ながら男が呟く。

 日本人的な凡庸な顔立ちに無精ひげ、くしゃくしゃの黒髪に寝た時のままの薄汚れたジーンズ。

 使い古したパーカーと首には近くの廃業した工場の記念タオルという風貌。

 いわゆる田舎にいる作業中のにーちゃんの格好である。


バンバン!


 鉄製のシャッターが叩かれる音を聞き、男がそちらを振り返る。

 薄暗い納屋の外と中を仕切るその頼りない一枚。

 おそらく外から叩かれる力でたわむ様を見て、男は仕方なく声を上げる。


「起きてる!起きてるから!!あんま叩かないで、ちょっと待つ!!」


 大声を上げると、途端にシャッターへのダイレクトアタックが止む。

立ち上がり、鼻緒が切れたサンダルをつっかけ、シャッターまで歩く。

急ぐ必要はないが、待たせすぎるとまたバンバンとシャッターがたわむことになるだろう。

 てくてくシャッターまで歩くと、その向こうに人の気配を感じて、男はため息を吐く。

 辛うじてこの納屋の中は、彼の知る日常の一コマと言えないこともない。

 だからこそ、この一人きりになれる時間を彼は大切に、大切に思っているのだ。


(わーってる。わーってるんだが、待ってくれねえだろうしなぁ)


 ダイヤル式の南京錠を外すと、シャッターの取っ手に手を掛ける。


がらがらがらっ!!!


 最初の勢いだけつけてやれば、後は一気にシャッターが開く。


「おはよう!!シューゴ!!」

「……おう、おはよう、アル」


 シャッター前で待ちかまえていたであろう訪問者に朝の挨拶をする。

 シャッターから入っている朝の光がまぶしい。


「ねえ、シューゴ。今日は何をすればいいの!?皆待っているよ!!」

「……はぁ。そんな期待しないでくれよ」


 まぶしさに慣れた目に、その光景が目に入る。

 ほんの少しだけ開けた土地の中に、小さな畑と、井戸。

 両の側頭部から角の生えた馬が小屋の中でブラッシングをされている。

 夜もあけたばかりで、空は冷たくそしてとても澄んでおり、何度か見た“2つの月”がまだ空には昇っている。


「クソが……。月は一つで充分だってんだよ」

「?シューゴ、なんか言った?」

「なんでもないよ、アル。みんなはどこにいるんだ?」

「んーと、ベイルさんの小屋の前だよ!呼んできてって頼まれたから!」

「わかった、すぐ行くよ」

「急いでね!!」


 アルと呼ばれている少年が駆け出していく。

 走る度に揺れる“虎縞のシッポ”、そして頭の上に生えた“ネコミミ”が駆け抜けていった。


「畜生、神様のバカタレが。呼ぶ人間を間違えちゃ駄目だろうがよ」


 この場にいない、あったこともない神様というあやふやな存在に盛大にブーイングをかます。


「だが、行かねえと。……時間がない」


 歩き出す。

 男は歩き出す。




 男の名前は鈴木修吾。

 日本で生活していた兼業農家のせがれで、御年30才、独身。

 何の因果かこの異世界へと飛ばされた不運な男。

 目的は魔王の討伐でも、帝国の打倒でもない。


 棄民となり、農耕なぞしたこのない雑多な獣人種、計43名。

 領主より一切の関与を拒否された土地の、さらにその下を行く見捨てられた寒村。

これが配られたカードだ。


 直近の目的はただ一つ。

 この夏半ばとは思えないほどの底冷えするほどの寒さを過ぎ、実りなど期待できない短い秋を越し、約5か月強続くという絶望の冬を生き延び、春まで生き残ること。

 その為に、彼は召喚された。

 本格的な冬が始まるまで、後4ヶ月弱。

 「勇者」でもなく、特段何かに秀でることもなく、チートなどありはせず、可愛らしい女の子も、絶望的な敵対者も存在せず、ただただ生きるだけを求められ。

 畑も、田も、木々の実りすらか細く、死に行くしかないこの集落を救うべく。


 日本人、鈴木修吾は「農作業小屋」1軒とともに10日前に召喚された。


 これは、異世界の1年後の夏至の日までを生き抜くべくあがく、現代人の物語である。

見てる人いないと思うけど、休み中に書いたので。


うん、なんとなくキーボードかたかたしただけでこの先はあんまり考えてない。

ただの自己満足で、続きは本当に気が向いたら、というやつですね、はい。


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