ハンマー?
続かないかも、続くかも?
第一打 レッツ・はんまー!!
◇セクター13 ドグマブロック 通称「13番のゴミ山」
「ちくしょう……。ここら全っ然、いい物なんて無いぜ。ロイの野郎、ガセ掴ませたんじゃねえかよ!」
男はそうぼやきながら、額に浮かぶ汗を拭う。大声と共に男の側に詰まれたガラクタの山からガラガラとゴミが転がり落ちる。
汗を吸って水気を含んだ袖が、顔にこびり付いた油を少しだけ拭い去る。着古した繕いがボロボロの上着に、同じく元の色合いすら解らないほどに洗われたジーンズ、つま先を本来の素材と違う布で乱暴に縫い合わされたスニーカー。
どれといわず年季に年季を重ねたそれらを身に纏うのは、服装に比べ“大変に”若造なようやく青年とも言えるような年齢の男であった。
「兄さん!口より、手!手!」
「ぐ……。でも、よぉ……」
「でも、じゃないです!このままだと3日連続でゲゼ婆のとこでフェイク・ミールのお世話になるんですよ?それでも、いいんですか?」
兄に向かいどうしようもない程の現実を突きつけた弟。
彼も兄と呼んだ青年と同様、ボロボロの上着に以下同文、といった服装であった。そしてまたしても同様に、その服装の年季に反比例するような少年である。
二人は兄弟らしく、確かによく似ていた。癖の強い黒髪に、少しつり気味の二重まぶた。そこに収まるのは薄い茶の瞳である。
さらに言うならば、二人ともがどこか人のよさそうなタイプの、どちらかというと室内犬を思い起こさせる顔のつくりをしていた。
ただ、残念なことに兄は美形とは言いがたく、男らしいがっしりとした顔でもない。弟は先にも述べたが、兄によく似ている。恐らく数年もすれば兄によく似た平凡な顔になるだろう事は間違いなかった。
「ゲゼ婆のメシかぁ……。さすがにこれ以上はキッついしなぁ。仕方ない。やるよ、やるよ」
「そうです。その地道な努力こそが今日のぼくらの焼き魚や、パンになるのです」
「魚かパンの2択なのかよ?肉じゃなくて?」
「フェイク・ミールも入りますから三択ですね。兄さんだって知ってるでしょ?パーツショップの買取、最近シブイんですよねぇ。セクター4のプラントが民生転換されて、生産始めちゃったから……」
「くそお……。俺らみたいなののことも考えてくれよなぁ。割り食ってんのビンボー人ばっかじゃんか」
久しく口にしていない合成肉の味を思い出したせいでキュルルと腹の音が周囲に響く。だが、周りにいるのは弟だけだ。別に恥ずかしがることも無い。腹が減るのはいつものことだ。
さすがに弟に注意されたせいか、手は止めない。今日食べるものがパンか、魚か、“ゲゼ婆のフェイク・ミール”になるかはこれからの成果次第なのだから。
ちなみにフェイク・ミールとは“一応”食い物に分類される。工場から出荷される合成食料であり、必要最低限の栄養価のみが添加されている。
それ以上の説明はいらない。あとはもうクソミソの文句以外は出てこないのだから。マズイ・クサイ・ナニその色味、と。
彼らの住処の近くに住むゲゼ婆は、それを何とか食える様にまで頑張って味を調えてくれる。なけなしの金を払い、そのご相伴に預かることで日々を生きている彼らからすればゲゼ婆には頭が上がらないのである。
しかしながら、“食える”と“美味い”の間には超えることの出来ないほどの高い高い壁があるのも事実であった。
「舐めんなよぉ……。肉ぅ……。待ってろよ!」
「いや、頑張ってもせいぜい魚どまりですよコウ兄さん」
「ばっ!バカ!シュウ、こういうのは気持ちなんだよ!?どうしてテンション下げるようなこと言うんだよ」
コウと呼ばれた兄は、せっかく盛り上げたテンションに水を差すどこまでも冷静な弟に食って掛かる。
「まあ、そうは言っても僕等だけじゃそこまでの稼ぎにはなりませんし」
「いつもより人気がないもんなぁ……。やっぱロイの口車になんか乗らずに大人しくセクター4の廃棄品を見繕いに行ったほうが良かったか?」
「ちりも積もればなんとやら、です。地道な努力が明日を開くんですよ、兄さん」
「エゲツねぇ程の真実だわな、それ。飯が食えなきゃ人間、死んじまうしな」
仕方なしに脇のガラクタにひだり手を伸ばす。
つかんだそれにプリントされた型番を確認。頭からそれから剥ぎとれるパーツの部位を思い出し、右手につかんだナイフで外装を外す。
カチャカチャとコードを引き出し、目当てのパーツを引き抜く。
焦げ目がついたそれを見てため息をつく。
外れだ。すでに死んでいるパーツをぽいと背に放る。
「当たり、少ないなぁ」
「ですねぇ。こんな日もありますよ」
「こんな日しかここのところないけどな」
「ロイさんの情報、ガセだったんでしょうか?」
「まあ、それもいつものことだろ?こないだの軍のやつらの演習でセクター13のはずれから旧時代のプラント跡が見つかった、てヤツ。だからここらのあたりにも何か影響が出てきてもおかしくない、だとよ」
「それで臨戦態勢のガーディアンが稼働したんですから、まあ全くの嘘でもないでしょう?しばらくはガーディアン生産に使われた廃材のごみがわんさか排出されますし、ここらがセクター13と繋がってるってうわさは昔からあったのは事実です。拠点防御の生産が続きますから。ここらの排出口にそのおこぼれが出てきてもいいかもしれない。そんな情報でしたね」
コウは掴んだ箱型の部品を見ることもなく、顔をシュウに向けてため息をつく。
「無理じゃね?結構探してるけど、プラントの稼動音どころか俺たち以外の音も聞こえないし、第一そんなオイシイ情報をロイの奴がこっちに渡すか?」
「渡しませんね、間違いなく」
「はははは……。じゃあなんでこっち行こうっていったんだよ!?」
「ロイさんたちが他のところに行ってくれるからですよ。あの人たちと一緒だと、売り上げは折半。全員で等分ですから……。たまには美味しい食事を独占したいじゃないですか?」
「すると、何か?俺はお前の博打に一緒くたにベットさせられて、お前はキッチリ博打に負けて、俺にもその負け分を支払わせようと?」
「兄弟は一蓮托生と法律で決まっています」
「決まってねえっ!!?」
「博打に勝ってたら魚が食べれたんですし、そこまで文句言う必要もないでしょうに……。人生一か八かに掛けてみるのも楽しい生き方ですよ?」
口では負けると身にしみて理解している兄は又もため息をつく。
「いーよ、もう。はぁ、このままじゃまたフェイク・ミールか」
「そうですね、もう夜も近いですから……。モンスターが出る前に帰りましょう」
「しかたないわな。帰るか……」
コウは脇に置かれていた剣を手に取る。
ずいぶんと使い込まれたその剣は、一部が細かく欠けているとはいえ、ベースの基幹部の鋼材には影響はない。よく研がれ、十分な殺傷能力を有していることは間違いなかった。
山と積まれた機械の山に、くたびれているとはいえ洋服にスニーカーといった格好をしている少年たち。
それとの無骨な剣とのアンバランスさは現代日本の感覚からすれば、疑問符が浮かぶことは間違いない。
「畜生っ。明日こそはっ!」
「その粋です。必ず魚をっ!!」
「いや、肉じゃないのかよっ!?」




