八話
「あれ?おい久しぶりだな」
僕と父がニート生活に甘んじて半月がすぎた頃、
いつものようにぶらぶら散歩をしていると、懐かしい人物に話かけられた。
「うわ、金城じゃないか。何年ぶりだろう」
「お前ぜんっぜん連絡よこさねーじゃん。今何してんの?
暇ならそこのハンバーガー屋…あら?いつの間にファミレスになってんだここ?
いいや入ろうぜ。まあ付き合えよ」
カカカと笑い店に入る金城。こう来られるとついて行くほか無い。
まあ久々の再開だ。僕だってやぶさかではない。
しかし、強引とさえ見られかねない不器用さ、あと変な笑い方も、ちっとも変わってないでやんの。
店に入ってからしばらく、僕らは近況や昔話で盛りあがった。
高校退学から町工場で働いていた頃も、当時はハンバーガーのファーストフード店だったここで、よく二人で話し込んだものだ。
クソオヤジが絶対辞めてやる誰があんなクソ工場継ぐものかと息巻いてた金城は、
どうやらまだあのオヤジさんの元で働いているらしい。
「ああ、ところで金城、今日仕事はどうしたんだい?」
「最近は日曜日は工場は休みにするようにしてんのさ」
「そうかい、どうにも無職になってから曜日に疎くていけない。
無職ついでに、正直ここの支払いも金城が出してくれないかと期待しているよ」
「カカカ。仕事やめてまだ二週間だろ。俺だったらケチケチせずに金使って遊ぶけどな」
「僕だってそうしたいのは山々だけどね。親父まで仕事辞めてしまったものだから、
節約しなきゃいけない気分になるんだよ」
「それなんだけどさ。お前と親父さん、ウチで働いてみないか?」
「…ほう?」
金城が言うには、資材運搬していた人が来月定年で居なくなるので、代わりにウチの親父に入ってもらいたい。
給料はそんなに出せないけれど、リフトで積まれた荷物を運ぶのがメインだから、営業職よりも気楽だろうとのこと。
僕には、かじった程度でも経験者が戻ってくれるのは助かると言った。
「いいか、人間仕事をしてないと腐っちまう。
プライベートも確かに大事だよ。
でもな、一度それを割り切って仕事に打ち込めれば、不思議とやりがいも生まれるもんなんだ。
俺みたいなクズだって、今じゃ社会を支える一員なんだって胸を張れるようにもなる。
仕事ってのはたくさん覚えたら、それだけ自分にかえってくるんだ。わかるか?
ゲームみたいなもんだよ。働けば働くほどレベルが上がって自信が付く。
現に俺だって、初めはクソオヤジに、お前にこの工場を継がせるのは無理だなんて言われてた。
けど今じゃあ注文も出来る。製造も仕切れる。得意先に商談も行ける。今みたいに人事も左右できる。なんでも出来るんだ。
どうか考えてみてくれ。
このままじゃお前、親子揃って首くくる羽目になるぞ?
いや、笑ってるけど、俺から見たらお前らはそこまで来ている。むしろこのまま働かなくて、それ以外の未来が見えるってんなら教えて欲しいくらいだ。
だから俺の提案はチャンスと思ってくれよ。
確かにベストじゃないかもしれないが、ベターではあるだろ?
人生においてベターを選べるってのは、大事なことなんだぜ?」
金城は興奮した様子で語っていた。
聞けば聞くほどもっともだと思う。
このまま金城に雇ってもらうのもいいかも知れない。
ただ、実際に働いても僕がやりがいを見出すことは無いだろうし、
勢いで仕事を決めて良かったことなんて一度もない。
「カカカ。まあ、そういうことだからさ。考えてくれよ。
俺もまたお前と働けたら嬉しいし」
話がひと段落して、ようやく飲み物に口をつける。
「そうだね。僕も親父と相談してみるさ」
ドリンクバーでいれたファミレスのコーヒーは、以前の店とは全然違う味だった。
ああ、あのコーヒーを飲みながら、仕事はクソだと笑いあった金城はもう居ないのだ。
それがなんだか、すごく、すごく悲しかった。




