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三話


誰にも言ったことはないが、自慢の父親だった。


プラスチック?の容器?を作る会社の営業マンで、

営業成績はいつも父さんが一番なんだと得意に話していた。


酒が入るとよく仕事の話を始め、様々な顧客との契約を取るエピソードでは、

ここまで商品の知識が深いのか!なんて細かい気配りをしているんだ!

ピンチをチャンスに変えてしまったのか!

なるほどなるほど、どこをどう見ても流石の仕事がデキる人間だと、

自信に満ちた立派な社会人だと、

割と底辺に近い僕なんかは話を聞くだけで惚れ惚れしたものだ。


それが今はどうだ?


ヒステリックをおこした姉に言いたい放題にされているじゃあないか。


「なんで、なんでそんな大事なこと、家族の相談もなしに決めちゃうかなあ!?

何?再就職のアテはあるの?は?なんで無いの?!

意味わかんない!

もうバカ弟みたくコロコロ仕事変えれる歳じゃないのに!!

じゃあ次なにかしたいとかあるよね!?

いいから!言ってよ!!

家族なんだから相談しようよ!

怒らないから、ほら!ほら言ってよ!!

…は?何もしたくない…?え、それってニートってこと?

あー、勘弁してよもぉー!!

私、就職しても勝手にリタイアしたお父さん養うとか死んでも嫌だかんね!

馬鹿じゃない本当にさあ!

だいたいあんなに好きだった仕事どうして辞めたの!?

はあ?好きじゃないとか?

私や弟の参観日も運動会も一度も来ずに仕事優先してた人間の口から出た言葉か!!

うちはお母さんいないから、子供の頃どんだけ参観日が惨めだったかお父さんわかる!?

うん、今更謝って済む問題じゃないから!

そう思うなら今からでも会社行って辞職取り消してもらおうよ!

そうよそれがいいわ!

なんで駄目なの?このままじゃお父さん本物のニートだよ?

私の大学の学費どうなるのよ?

それだけの蓄えはあるから安心しろって?

当たり前じゃない!それで仮に私が安心しました。じゃあお父さん一生働かなくても生きられるだけ蓄えてんの?

無いでしょ!ばっかじゃない!!

えっ、なに泣いてるの?大の大人が泣かないでよ!

まるで私が悪いみたいじゃない!!

それともこれ、私が悪いの?

私、間違ったこと言ってる?ねえ?ねえ!!」



「姉さん。興奮しすぎだから。一旦落ち着こう?

父さんも働きたくないって言ってんだから。

今まで働きすぎたんだよ。

だから、長めの休みだとでも思って」


「でも…!」


「きっともうどうしようもないよ。だから今日の所はこのくらいにして、

明日また、ゆっくり話し合おう?ね?」


そこまで言うならと、姉は見つけたライターでタバコに火をつけながら、自分の部屋へと戻って行った。

自室に灰皿なんて無いだろうに、なんて場違いな事を思っていたら、

気付けば僕と父が居間に残されていた。

どうしよう気まずいなあ。



昨日までとは見る影もない父の背中は、鼻声で小さく「すまない、すまない」と繰り返していた。



誰にも言えないけど、自慢の父親だったんだ。

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