第4話 ネクストステージ
「次」
パチン──
「次」
パチン──
「次」
パチン──
「次」
パチン──
何度この音を聞いただろうか。そして何度死んだのだろうか。俺はまだゴブリンと対峙している。
死ぬのにはもう慣れた。これは数えきれないほど死んだことによる一種の悟り。
ただ死ぬほど痛いだけ。死が軽いこの場所ではこの痛みも大したことはない。
みんなを置いて逃げたときの痛みと比べればこんなもの。
もはや女神に恨みはなかった。
ゴブリンが振りかざすナイフが眼前に迫ってきている。
ああ、これは躱せない。
パチン──
死にながら気付いたことがある。コイツらの動きにランダム性はない。俺が前の動きと全く同じ動きをするとコイツらも全く同じ動きをする。つまり俺は動きさえ変えなければ事実上の未来予知が可能となる。
これに気付いてからは俺は様々な動きのパターンを試すようにした。より有利な状況を見つけるために。
ふぅと息を吐き切先をゴブリンに向ける──
死ぬのは前提。全ての情報を頭に入れろ。
「ふぅーん? 思ったより早かったかな?」
死に続けるエインを見て女神は呟いた。
この千年間の戦いに置いて最初にして最大とも言える難関。死の恐怖を乗り越える。彼はそれを既に成し遂げていた。
「来てくれたのが君で良かったよ」
ホロスは手のひらにりんごを出現させ、齧った。
◇ ◇ ◇ ◇
「はぁ…はぁ…」
生き返るたびに受けた傷、そして疲労も全て回復する。それでも頭に残る情報量が増えていくからだろうか、少しずつ負荷のようなものを感じてくる。
「ここはっ…! 右に避けるっ…!」
しかしその甲斐もあってか序盤の動きはほぼ最適化できたと思っている。事実5体いるゴブリンのうち、2体を倒すまでは成功している。
「少し大胆にやってみるか」
倒したゴブリンからナイフを奪い、それを残り3体いるゴブリンの中心に投げ込んだ。しかしそれはゴブリンとゴブリンのあいだをすり抜け後ろにあった木に激突し弾かれる。
「そう上手くはいかないか……。でも──」
ゴブリンは投げ込まれたナイフを目で追い俺への注意を一瞬怠った。それを俺は見逃さず刀を握りしめながら距離を一気に詰め、振るう──
「よしっ!あと2た── あっ……」
調子よく斬ったは良いものの刀の角度と力の入れ方が悪かったらしく斬ったゴブリンから刀がなかなか引き抜けなかった。その隙に残り2体のゴブリンに襲われいつものように死に至る。
しかし投擲が有効という情報を持ち帰れたことは大きい。当たるに越したことはないだろうが当たらずとも隙を作れる。これは新しく動きのパターンに取り入れていいだろう。
「あ~っ! 今のはスッと刀抜かないと! でも惜しかったわよ!」
女神が野次だか応援だがわからないものを飛ばしてくる。なんか楽しんでないかコイツ…? もしかして暇だから俺のことを呼んだのだろうか。
「はい次次! 切り替えていこう!」
まあ、ひとり孤独で戦うよりはいいか。
「わかってるよ!」
俺は刀を構えた。
◇ ◇ ◇ ◇
一口にゴブリンと言ってもそれぞれに性格がある。俺はこの戦いの中でそれを見極めた。好戦的な奴、冷静な奴、怯えてる奴、当然だがその性格によって行動も変わってくる。
まず好戦的な奴、コイツは戦いが始まった直後に一人で突っ込んでくる。初めのうちはその攻撃を躱すようにしていたがそれはやめた。
この戦いにおける俺の有利、それは記憶を保持したまま生き返ることができるということ。そしてシンプルに体格と得物のリーチに差があることだ。
逆に不利なのが数の違い。真っ先に突っ込んでくる奴がいるのならそれを迎え撃つ。1対1の戦いができるまたとない機会だ。
今回もそうだ。まずは突っ込んできたゴブリンの攻撃範囲に入る前に刀を振るい、喉笛を掻っ切り一撃で葬る──
あと4体──
これをすることでゴブリン達の統率は大きく乱れる。その光景を見て混乱し、がむしゃらに俺に攻撃をしてこようとしてくるゴブリンが2体。それを窘めて連携を図ろうとしている奴が1体、怯えて木の陰に隠れる奴が1体。
倒したゴブリンからナイフを奪い、それを突っ込んできたゴブリンの1体に投げる。命中── 致命傷とまではいかないが足を止めさせるのには十分だ。
そしてもう1体のゴブリンの攻撃を刀でいなし、斬る──
あと3体──
ナイフが当たり、倒れこんでいるゴブリンに刀を突きさしトドメを差す。
あと2体──
連携を図ろうとしていたゴブリンが怯えて隠れたゴブリンをちらりと見た。その隙に一気に距離を詰め切り伏せる。
あと1体──
怯えているゴブリンはこちらにナイフを向けガタガタと震えている。
「──悪いな」
これで0だ──
切り伏せたゴブリン達が塵となり消えていく。
樹上からパチパチと手を叩く音が聞こえてきた。
「おめでとうエイン。だけどこれは初級も初級。魔族と渡り合うにはまだまだだ」
コイツが何故俺を鍛えてくれるのかはまだわからない。だがどんな意図があろうとこの戦いで強くなれるのは事実だ。
「ああ、わかってる──」
だから──
「ホロス、次だ」
第4話 ネクストステージ




