第30話 雪中三友
「じゃあそろそろ帰るか。ギルドに報告しないとだしな」
「そうね。早く報酬貰いにいくわよ!」
そういえば今回の報酬の配分ってどうするんだ? 戦ったのは俺だけだから俺一人が貰うべきなんじゃないのか? ……というのは冗談で、まぁ無難に三等分か。そもそも俺が手を出すなと言ったから一人で戦うことになったんだしな。
なんてことを考えていると。
「エインさん、ちょっといいスか…?」
なにやらリヒトが神妙な面持ちで話しかけてきた。なんだ? もしかしてリヒトも報酬の分配について思うところでもあるのか?
「少し相談したいことがあって……」
どうやらそういう感じではなさそうだ。
「なんだ?」
「あの──……」
俺はリヒトにとある相談をされた。あまりに真剣な顔で話し始めるから何事かと思ったが……なんてことないことだった。
「いいんじゃないか別に? 俺もそっちのほうがやりやすいし」
◇ ◇ ◇ ◇
帰りも特にトラブルはなく、無事ギルドに到着できた。早速報告といこう。
「おっ、戻ってきたなお前ら。無事でなにより」
ギルドに入るとワルドの姿が目に入る。ワルドも俺達の存在に気が付いたようで吸っていたタバコを灰皿に押し付けた。
それにしても支部長様が直々に出迎えてくれるとはなかなかの好待遇だな。
「依頼は問題なく達成してきたぞ。報酬を受け取りたいんだが」
「おいおい随分と雑な達成報告だな。それじゃ出せるもんも出せんぞ」
説明するのめんどくさいからゴリ押そうとしたんだがダメだったか。
「心配するなよ。報告っつったって魔法指輪から情報読み取るだけだからよ。で、誰が倒したんだ?」
まったく便利なシステムだ。魔力を込めながら指輪をかざすだけで報告が完了するなんて。それで誰が倒したかだって? 誰かと聞かれればそれは……
「俺だが」
「……あー…」
「俺」
俺は透き通った宝石がはめ込まれた指輪を見せた。
「なるほどなるほど。まあそうだよな。そういうこともあるよな」
そう言いながらワルドは視線を少し上にあげ遠くを眺めだした。どうした? 虫でもいたか? まさか考えてなかったってわけではないよな?
「……めんっどくせー! わかった、もう受付に全部任せちまおう」
放り投げた。考えてなかったんだな。昨日俺を入れた時点で想定できたと思うが。
「私たちに投げられてもどのみち支部長まで戻ってきますよ。前例のない案件なんですから」
眼鏡をかけた受付嬢がワルドに呆れ気味にそう言った。ちなみにノーリスは今この場にいない。
ワルドは参ったなと言わんばかりに帽子を受付カウンターに置いて頭をボリボリとかいた。そんなワルドに一人の少女が不敵な笑みを浮かべながら近づく。いやホロスなんだけど。
「ふふふっ、お困りのようね。この天才美少女魔法師ホロスが助けてあげようかしら?」
いつ誰がそんな異名をつけたんだよ。
「おおっ! ホロスの嬢ちゃん! なにかいい手があるのか!」
「私の指輪から情報を抜き取ればいいわ。私はずっと指輪に魔力込めながら魔力探知をしてたからエインの戦闘記録も取れてるはずよ!」
ホロスはキラリと光る指輪をワルドに見せた。見事なまでのドヤ顔をしながら。
「マジかホロスの嬢ちゃん! ずっと魔力探知してたのか! やっぱとんでもねェ魔力量だな!」
目を見開きながらワルドは驚く。
ホロスは封印前よりかなり魔力量が少なくなったと言っていたがそれでもまだ支部長が驚くぐらいには多いんだな。流石は女神と言ったところか。
「じゃあ早速……ほうほう…なるほど…」
ワルドは水晶を取り出し情報を読み解き始める。中年のおじさんが目を瞑って水晶に手をかざしながら独り言を呟く光景は奇妙と言わざるを得ないがそう思うのは俺が魔力を保持していないからだろうか。
何はともあれ魔法とは便利なものだ。情報の伝達がこれほどスムーズにいくとは。なんて思っていると……
「ふんふん……あ゛っ!? なんだこれ!? おいおいおい詠唱かこりゃあ!?」
随分と良いリアクションをする。支部長から見ても蜥蜴人の詠唱は珍しいのか。俺もまったく予想してなかったからな。
仄かに輝いていた水晶の光が消える。それとほぼ同時にワルドは目を開けた。
「ふぅ……取り敢えずエイン、美食家の討伐ご苦労さん」
「ん…? ああ、仕事だからな。気にするな」
「だがお前に一つ言いたいことがある」
なんだ? 改まった言い方をして。
「お前は魔物相手に稽古をつけにいったのか?」
は? なんだそれ? そんなことするわけないだろ。
「言いがかりだ。ちゃんと倒してただろ?」
「お前魔力ないからはっきりとした戦闘内容は視えなかったよ。だけどな、それでもいくらでももっと早く倒せるチャンスがあるように見えたんだが!? お前無理に戦闘長引かせて相手の潜在能力どんどん引き出しにいっただろ!!?」
それを言われると痛いというか実際ホロスたちにも似たようなこと言われたし自覚もあるといればあるし……なんというかその……
「す…すみませんでした……」
一旦謝っておくか。
「ぷぷぷ! やっぱり怒られたわ!」
「笑っちゃ悪いッスよホロスさん!」
こいつらも連帯責任で怒られればいいのに。
「まあ、最終的に倒してくれたからいいんだけどよぉ。それにしても蜥蜴人が詠唱か。こりゃあ半端な戦力送らなくて正解だったな。無駄死にが出るところだったぜ」
実際あいつかなり強かったからな。思えばこの世界に戻ってきてから初めて負傷したかもしれない。
「そういえばこの依頼元々はフェルドさんたちが受け持ってた奴ッスよね。フェルドさんはあの蜥蜴人倒せたんスかね?」
リヒトがふと思ったのであろう疑問を口に出した。
「倒せるだろ。というか倒してもらわないと困る。腐ってもウチの最高戦力だからな」
リヒトの疑問に答えるワルド。続けてリヒトは俺にも疑問を投げかける。
「エインさんもそう思います?」
「さあ? 俺あいつが使う魔法すら知らないし。でも多分倒せるだろ」
一等魔法師だし。
「あー、そうか。そういえば昨日あいつは戦うの避けたからエインとホロスの嬢ちゃんはあいつが使う魔法知らないのか。あいつが使う魔法はなぁ──」
◇ ◇ ◇ ◇
「どう? そろそろ何か話す気になった?」
魔族の首元に刃を当てる男が一人。男の周囲には季節外れの雪が降り積もっている。その景色に溶け込むように男の白い髪が揺れる。
「話せることなど…なにも……」
魔族はガタガタと震えながら辛うじて動く口で言葉を返す。その震えは寒さからきたものかはたまた──
「うーん、参ったなぁ。これ以上凍らしたら本当にしゃべれなくなっちゃうしねぇ」
「だったら……解放してくれ!!」
「先に攻撃してきたのはそっちでしょ? 殺意もあった。だから例え本当にあの村と関係なくても君を見逃す理由にはならないかな? だから……じゃあね」
白髪の男は剣を僅かに魔族に突き刺し魔法を発動させた。
「“雪像”」
瞬間魔族の全身が凍り付く。その姿はまるで一人の職人が作り出したかのような氷の彫刻。魔族の命と時間を閉じ込めた作品はもはや芸術の域に達していた。
「二人とも終わったよー」
冷たい眼差しを向けていた男の目は途端に柔らかいものとなり後方に控えていた魔法師二人に戦闘が終わったことを告げる。
「あーさむさむ。それでどうだったのフェルド。何か情報は聞き出せたかしら」
リサは白い息を吐きながら腕をさする。今日も特徴的な魔女帽を被っておりその大きなつばには雪が積もっている。
「ぜーんぜん。ここで異変が起きてたから様子見に来たって言ってたけどそれ以上のことはまったく。……ところで、二人は僕が仕事している間何やってたのかな?」
「「雪合戦」」
ガデロンとリサの声が重なった。
「やっぱり僕って働き者だよなぁ……」
第30話 雪中三友




