32_エンドルフィン・キック(1)
「やあやあモナくん、調子はどうかね?そろそろこのルチアちゃんの手伝いと、経験者だからこそのありがたーいアドバイスが必要な頃なんじゃな〜い?」
鶏舎が再建してから約1週間。徐々に強まる陽射しは、夏の到来を確かに知らせていた。青すぎるくらいに青い空、高く伸びた雲、いつまでも沈まない太陽――畑仕事の本番となる季節は、すぐそこだった。
だからというわけではないが、ルチアは夏真っ盛りを迎える前にと自分の仕事の合間を縫ってモナの牧場を尋ねた。それは先駆者として後継者に何か有益な教えが出来ればというルチアらしいお節介と、先日自分たちが用意した『プレゼント』がどうなったか気になって仕方がないという極めて盛んな好奇心と下心とが巧妙に混ざり合った結果が故だった。要するに、ルチアは半ばモナを冷やかしに来たのであった。
「……………………。」
「……………………お〜い?」
しかしながら件の相手はルチアが少々うざったいくらいのテンションと調子の良い言葉を前にしても無反応だった。それどころかルチアの言葉など耳に入っていないように――否、ルチアが来たことにすら気が付いていない様子で、何かをじいっと見つめていた。
ルチアは誇張表現でもなんでもなく、自分が牧場を訪れる度に愛犬よりも尻尾を振っては雛のようにせっせと後を着いてくるモナのなんとも『らしくない』様子に、一体何をそんなに集中しているのかと首を傾げた。と同時に、彼女から思うような反応が得られなかったことに対して眉間に皺を寄せた後、唇を尖らせる。
――それもそのはずで、この町で唯一自分に呆れることなくルチアの相手をしてくれる人といえば最早モナくらいのものだった。昔からの馴染みであるイサークは無論、同居している叔父ですらルチアの騒がしい性格には辟易していた。つまりは、今更改めてルチアの一挙手一投足に反応を示すことなどなかったのだ。
だからこそルチアは自分の貴重な友人もとい、目を輝かせながら尊敬の眼差しを向けてくれるはずのモナがそうしてくれなかったことに対してむくれる。それは無自覚な怒りと嫉妬とが混ざり合った、友情以上の感情だった。かといって恋と形容するのは違うような、なんとも複雑な感情だった。
「モナく〜ん?」
「…………………。」
「お〜い、モナさんったら。今時そんな気の引き方はモテないぞ〜?」
「……………………………………。」
「…………え、何これ。新手のコミュニケーション?」
ルチアはモナの斜め後ろから手振り身振り、全身を使って自身の存在をアピールする。周囲の人間曰く「非常に耳に残る」らしい声を張り上げては、とにかく自分という存在をモナに対して提示する。
けれどモナの視線はある一点――鶏舎の横に設置された放牧用の頑丈な囲いと、そこに取り付けられた家畜用の小さな扉に向けられたままで少しもルチアの方向を見ようともしない。その頑なな態度と言ったら、ルチアの無視される悲しさをなんとか振り切って発した強がりが、過ぎ去ろうとしていた春と残雪を一瞬振り向かせたくらいだった。
――とどのつまり、自分で言っていてあまりの虚しさにヒュウ、と北風が吹いたのだった。
「……お〜い、モナ。モナってば。」
しかしながら、そんなことは極度の集中状態にあるらしいモナには関係ない。寧ろルチアの心の隙間に吹きすさぶ風など微塵も知らない顔をして、ただただまっすぐにニワトリ用の出入り口を見ていた。微動だにしない視線が、モナが過集中の状態を何よりも物語っていた。
ルチアはそんなモナのことを出来る限り尊重したい、とは思う。それはモナが普段からルチアのみならずイルクオーレという町そのものを尊重してくれているからこそ、彼女が無自覚に自分たちに向けてくれる慈悲や温もりを出来ればそっくりそのまま、丸ごと返したかった。
だがしかし、イコールそれがこのまま彼女を放っておくことに直結するとは言い難いんじゃないかなあ、ともルチアは思うのだ。何しろルチアから見たモナという少女はどうにも考え込みやすく、かつ抱え込みやすいタイプの人間に見えた。分かりやすい言葉で表現してしまえば、繊細な部類の人間なのだ。そんな人間が友人の存在を忘れるほど何かに集中しているというのは、どう考えても由々しき事態だ。少なくともルチアにとっての正解ではなかった。
「………………モナっ!!」
「――――――?!?は、はいっ!?」
――そんなわけで。ルチアは少々……否、かなり強引な手段であることは承知の上で、モナの耳元に唇を近付ける。そしてすう……と大きく息を吸っては肺臓にたっぷりとニワトリ臭い、なんとも言い難い空気を取り込んだ。次いで間髪入れずに唇を開いては思うがままに声帯を震わせ、その空気ごと声として容赦なく発するとモナの鼓膜に直接ぶつけた。
効果のほどはといえば、それはそれは完璧だった。凄まじい成果だった。思わずルチアが笑ってしまうくらいには、効果てきめんだった。何しろようやくルチアの存在を半強制的に認知させられたモナときたら、驚きのあまりその場でぴょんと飛び跳ねた後に反射的に気持ちのいい返事をしたかと思えば、勢い余ってそのまま尻もちをついてしまったくらいなのだ。その様子ときたら、これを効果抜群と言わずして一体何と言えばいいのだろうと思わずルチアが自問自答してしまうほどだった。
ただ少しばかりの問題があるとするならば、状況を把握出来ないモナの子供のようなキョトンとした顔や大きな瞳を揺らしながら自身を見上げるその頼りない様に、ルチアが生まれ持っての母性本能をどうしようもないくらいに擽られる羽目になったことくらいだろう。
――即ち、モナとルチアの間においては些事だった。
「…………ふうん、なるほどねえ。つまりはあいつら警戒心が強すぎて、放牧してやりたいのに出てこないんだ。」
「うん、そうなの。――イサークさんから貰ったこの飼育書曰く『放牧して日光や風に当たらせると良いストレス解消になり、羽根の艶が増す。また、卵の品質が向上するだけでなく、害虫の駆除も期待出来る』って書いてあるから、出来れば出て来て欲しいんだけど……。」
暫しの歓談の後、ルチアはモナが鶏舎を睨みつけていた理由を知るや否や、そりゃああんなに見つめられていたらニワトリだろうが人間だろうが緊張して出てこれないでしょうが、とつい脊髄反射で口に出しそうになる。
が、親しき仲にも礼儀ありとは一体誰の弁だったか。思い出せはしないものの、どうせどうにも説教臭い叔父あたりの言葉だったなと、ルチアは一瞬しかめっ面を浮かべる。それはことある毎に冷静沈着なバルナバに言いくるめられてしまうこと、ひいては何か反論したくても上手く言葉に出来ずに、常に結果として彼を説得出来ずに尽く意見を却下されることを思い出してしまったが故だった。
ルチアは内心ああ、なんて嫌らしくも愛おしい叔父!と仰々しい演技と共にヨヨヨと涙を流す。友人との何気ない語らいの場まで何も出しゃばってくることはないじゃないの、と悲劇のヒロインぶってみせた。しかしすぐさま自分も同じことをしていることに気が付くと、スンと鼻を鳴らした。それは血は争えないという生き物の鉄則を、身をもって知ってしまったがためだった。
「いーんじゃない?本人たちが出たくないって言ってんならさ。」
「……でも……。」
「実際問題、外に出さない方が世話は楽だよ?餌も糞も片付けるの、なかなかに大変だからね。普通に重労働。」
ルチアはモナに対してではなく自身の中を流れる血に対してやれやれと肩を竦めた後に、太い丸太で出来た柵に両手を掛けると地面を蹴る。そしてひょいと身体を浮かせ、器用にバランスを取ると柵の上に腰掛けた。それどころか両足をブラブラと自由気ままに揺らしながら、深刻そうな表情を浮かべるモナに当初の目的である先駆者らしいアドバイスを口にした。
とはいえ、ルチアはモナがそんな理由で諦めるような人間でないことは既に熟知していた。そしてモナもまた、ルチアの言うことに一理あることはわかっている。分かってはいるものの飼育者としての責任だとか、モナの思う『幸福な暮らし』――好きな時に餌をついばめて、好きな時に喉を潤せて、好きな時に外に出て太陽と風を感じることの出来る環境――を、出来るだけ作ってやりたかった。
最も、モナは既にそれが所詮人間目線での幸せでしかないことを理解している。本当の意味での幸せなど、ニワトリ本人にしか分からないことは百も承知だ。しかしながらそれが傲慢と詭弁で出来ていることを前提の上で、それでも自分の思う正解や快適な暮らしに近付けたかった。それが生命を預かる者としての、彼らに対する精一杯の尊敬と敬意だと思っているからだった。
故にモナはルチアの言葉に対して渋い顔をする。決してハッキリとNOを突きつけはしないものの、唇を真一文字に結びながら自身の足の先を見つめる。そして足先でガリガリと固い地面を削って意味のない図形を描いては、何か反論こそしたいものの素人が好き勝手口を出しては経験者を不快にさせてしまうのではないかなだとか、はたまたルチアの言うことも道理としては正しいよなあ……だとか、そんなことを考える。
それは宛らミキサーの中に閉じ込められたような、終わりのない思考のループだった。永遠にグルグルと回り、巡り続ける永久機関だった。だからこそモナの薄い唇からはオール・ハロー・イブの夜にあの世から舞い戻ってきた死者の霊が口にするような、低く籠った呻き声が漏れ出しては止まらないのだ。
「…………まっ、モナには無理か。真面目も真面目、超が付くくらいの真人間だもんね、我が隣人は!」
ルチアはその様子を見つめると、今度はモナに対してやれやれと肩を竦める。それから冗談交じりにどこまでも真面目なモナを揶揄ってみせてから勢いをつけて柵から飛び降りると、ニカッと歯を見せて笑った。
当初ルチアの発した言葉のみを認知していたモナは、心の中でどうせ他人事だと思って……。と軽く拗ねていた。なんなら唇を尖らせてすらいた。
けれど視界を占領するルチアの笑顔に乱暴なのは言葉だけであってその本質は自分と同じ、極めて真面目で真摯であることに再度気付かされると、モナはつられてふっと笑った。それからやけに自信満々なルチアの顔を真っ直ぐに捉えると、根拠や掛け値などなしにただただ友人であり先駆者である彼女のことを信じてみることに決めたのだ。
「……どうすればいいの?」
「まあまあ、そう慌てんなさんなって。」
モナはルチアに彼女にしては単刀直入に問い掛けた。ルチアはそんなモナの焦りごとさらりと躱すとあろうことか鶏舎を背にして、ブラブラと畑の方へと歩き出した。モナはそんなルチアを少しばかりの懐疑の目を向けながらも、一先ずは黙って見つめる。
「これ、抜いちゃってもいーい?」
距離にして数十歩。鶏舎からそう遠くない、春先にモナとふたりでせっせと拵えた畑をいつになく真剣な目で見遣った後に、ルチアは徐にそう口にすると自身が分け与えた種から育った背の低い作物――イルクオーレに来るまではろくに土など触ったことのないモナには、まだ何の植物かすらよく分かっていない――に手を伸ばす。そして剰え許可を取るよりも先にしっかりと根元のあたりを掴んだその様子から察するに、質問というよりかは最終確認のようだった。
モナはいきなりのことに流石に動揺を隠せない。それもそのはずで、モナが入院している間は主にルチアが世話をしてくれていた作物なのだ。それもやっと小さいながらも綺麗な、紫色の花を咲かせたばかりだったのだ。確かに周囲の同種の作物と比べて育ちは悪かったが、それでも自分と彼女が丹念に世話をしてきたものなのだ。だというのに、それを何の躊躇もなく抜いてしまおうだなんてとうとうやけっぱちになってしまったのだろうか。
モナはそんなことをぼんやりと考えながら、ルチアがしたように質問の体を取ったやんわりとした拒否を返す。
「え……どうして?」
「育ちが悪いから。摘果、間引きってやつ。」
だが、良くも悪くもルチアはモナよりも1枚も2枚も上手だった。特に本来の生業である農業と、ちょっとしたミスを隠蔽することにかけては町の誰よりも上手かった。だからこそモナは名前くらいは聞いたことのある単語を引き合いに出されると、もう、なんと反論すればいいのか見当もつかない。
それ故にモナは若干……もとい、かなり渋い顔をしながらもルチアがそう提案するならば、信じてみるしかないと頷く。しかしながら決して快諾というわけではなかった。寧ろ持てる全ての理性を動員した上での、かなり渋々とした頷きだった。正しく苦渋の決断と表現するに相応しい、凄い顔をしていたものだからルチアは思わず喉の奥で笑ってしまった。
「あと〜……これとこれも取っちゃおっか。同じく育ちが悪い。あと、よーく見たら虫に食われてる。」
「…………うう……。鬼、悪魔、ルチア……。」
自身が分け与えた分に加えて、以前にイサークから貰った種が芽吹いたもの――こちらは独特の葉の形や特有の青臭さ、何よりも帝国にいた頃に教育の一環として育てたことがあるがためにすぐにトマトだと分かった――にまで手を伸ばすルチアに、モナは納得しながらもぶつくさと恨み言を口にする。その恨めしい表情に加え、普段は他人を気遣う言葉ばかりを口にする唇から放たれる呪詛ときたら、やはりルチアにとっては笑いの種にしかならない。それどころか初心者らしさを感じる、可愛らしい一面とすら思った。
しかしながら、いつまでもただの意地悪や屁理屈と勘違いされたままというのは、ルチアとしてもだいぶ居心地が悪い。だからこそルチアは適当に作物を間引き、実を摘果した後にそれらを両手に抱えながら「――いい?モナ。」といつになく真面目くさった声で呼び掛けた。我ながら本当に似合わないな、と心の片隅で思った。
「確かにたくさん作ろうとするのも大事だけどさ。こうやって敢えて選別してひとつ、ふたつ。いいものを作るのも、それと同じくらい大切なんだよ。結局のところ、商売は信用が大切なんだからさ。
『あの人のところの野菜って、安いけど味はイマイチよねえ』よりかは『どんな大金を出してでも欲しい!』って言われたいじゃん?」
「…………それは、まあ……。」
「――――それに、さ。」
ルチアはなんとも含みのある言葉と共に畑を後にすると、両手いっぱいに抱えていた生育不良の作物やまだ青い摘果をなんとか左腕だけで抱える。そしてそれらを零さないようにと気を付けながら、右手で柵を掴むとひょいと身軽に乗り越えてしまった。
ルチアは、まずはその場に青い果実たちをばら撒いた。虫食い、あるいは形の悪いトマトだ。それらをまずは叩きつけるかのように地面にぶちまけた。続けて自身が手渡した種から芽吹いた生育不良の作物を手に取ると、力任せに乱暴に引きちぎる。そして最後にはそれらさえも柵の内側、鶏舎と接続されている放牧地に適当に散らすと、したり顔と共に後頭部で腕を組んだ。
「大丈夫。全部無駄にならないから!」
モナがその言葉の意味を問い掛けようと口を開きかけた時だった。ルチアは再びぴょんと身軽に柵を飛び越えると、モナの隣に並んだ。
かと思えば背後に周り、その狭い背中をグイグイと押しては半ば無理やり物陰に追いやつた。モナはついに理由すらなくなった唐突かつ強引な友人の行動に、相変わらずどことなく不服そうな表情を口元に浮かべる。あくまでも顔全体ではなく、口元だけを綻ばせるのはモナなりにルチアのことを信頼している証だった。
「いい?モナ。しーっ、だよ。それから気になるのは分かるけど、あんま見ない!オッケー?」
「…………あのさ。わたしのこと、子供扱いしてない?」
「だって赤ちゃんみたいなもんじゃん、モナって。基本ひとりじゃなんも出来ないし。」
「ええ……?」
物陰に連れ込まれたモナの口元に、ルチアの少し荒れた人差し指がぴとりと宛てがわれた。熱いような、冷たいような、よく分からない熱が唇の薄い皮膚越しに伝わってくるとモナはなんだか無性に恥ずかしくなってしまった。
……ので、それを誤魔化すようにモナにしては短絡的な文句を口にしてみる。が、その言葉は夏の空に綺麗な放物線を描きながら自身の元に返ってきてしまったものだから、モナは「……そんなことないけど、」と呟きつつ、結局いつもの通りに余所行きの曖昧な笑みを貼り付けることしか出来なかった。
――とどのつまり1から10までルチアの言う通りで、ぐうの音も出なかったのだ。
「――あ!ほら。モナ、見てみて!」
そうやって意外と簡単に時間を潰しつつ、意識をルチアに向けてから何分が経過しただろうか。体感にしては一瞬だったものの、実際にはそれなりの時間――少なくともあたりに未熟な野菜特有の強烈な青臭さが漂う程度には時間が経過した頃合いだった。
ルチアの視界の端に鶏舎と柵の材料である木材特有の茶色と露出した地面の茶色、それから自然を感じさせる緑の中に突如として堂々とした白が飛び込んできた。頂点に立派な赤い突起をつけたその白は、紛うことなく先日モナに贈った『プレゼント』の群れを率いる雄鶏だった。
「…………出て来てくれた……!!」
ルチアの言葉に意識を彼女から放牧地へと向けたモナは、待ち望んでいた瞬間の到来に感嘆の声を上げる。感動に打ち震えるがままに、吐息混じりの声を漏らす。そうして安堵と慈愛に満ちたその瞳の先には、ルチアがばら撒いた青い摘果と生育不良の作物の葉を熱心に突きながらも決して周囲の警戒を怠らない、リーダーとしての本能と責任とに溢れた堂々たる姿が映っていた。美しくさえあった。
――雄鶏だから、ではない。その大きな鶏冠も、放物線を描く大きな尾羽根も関係ない。ただただ自然の中における自らの責務を果たそうとするその姿が、モナの目にはこの上なく美しく映ったのだ。
「……ね?無駄じゃなかったでしょ?」
「…………うん!」
徐に投げ掛けられた問い掛けに、モナは殆ど反射的に頷く。その勢いの良さときたら、ともすれば自分が何かを問い掛けられたことも、それに返事をしたことも脳が知覚していないのでは、とあのルチアですら疑ってしまうくらいのものだった。それくらいにモナは瞳を輝かせながら、目の前の光景に釘付けになっていたのだ。冗談でもなんでもなく、本当に子供のようだった。
それもそのはずで、モナはただひたすらに感動していた。その気になれば何ひとつ無駄にすることなく循環する自然というものに、生命というものに、深い感銘を受けていたのだ。人間の手など加える必要がないほどに完成されたこの世界を目の前にして、母親の腹から生まれ落ちた瞬間の感動にも近い感情を再び味わっていたのだ。それは生まれや育ちなど関係なく、多くの人間が人生で2度味わうことの出来ない感覚だった。モナが繊細な少女であり、かつそれを最大限尊重し、理解しようとしてくれる友人がいるからこそ実現した2度目の誕生だった。
「……先生って呼んでくれてもいいんだよ?」
「はい、先生!」
「…………そこは躊躇して欲しかったなあ……。」
コケ、と雄鶏が鳴く。人間には到底理解出来ない彼らなりの言語だが、開け放った家畜用の扉からゆっくりと雌鶏が出てきたことから察するにどうやら「大丈夫」に相当する言葉だったらしい。
モナとルチアはそのことに気がついた瞬間に互いの顔を見合わせると、どちらからともなく小さく笑い合った。




