第49話 和光のロースカツと大豚ダブル
あれから、三日が過ぎた。
「……これ、夢じゃないよな。本当に、こんなにいっぱいゴルド金貨があるなんてさ」
フロドは机の上の袋を、壊れ物でも扱うような手つきで何度も撫でた。中からは、ずっしりとした鈍い金属音が響く。
「なあ、プリカ。これだけあったら、今のこの家どころか、街の一軒家が丸ごと買えるんだ。それでも、まだ余るくらいなんだぞ!」
フロドは椅子の上で身を乗り出し、興奮を隠しきれない様子で目を輝かせた。
「兄さん、これ、本当に俺たちの金なんだよな?」
「ああ。間違いなく、お前たちのだ」
「……すごいね、フロドお兄ちゃん。本当に、新しいお家買っちゃうの?」
プリカが期待に胸を膨らませ、兄の顔を覗き込んだ。その時だった。
コン、コン――。
扉が開き、一人の男が顔を出す。
「――俺だ、タツヨだ。入っても構わないか?」
ありえない。三日前、俺は確かにあいつを仕留めた。炎を纏った拳で打ち抜き、壁ごと瓦礫の下に沈めたんだ。生きているはずがない相手だ。
だが、そこに立っているのは間違いなくタツヨだった。
「死にぞこないが来ましたよ。てかもうやらねえよ。そんな殺気出すなよ。来た理由、分かるだろ? ここで話すか?」
「外で話そう」
俺は短く答え、タツヨを促すように小屋を出た。不安そうなプリカがフロド'の裾を掴むのを背に、扉を開け、一歩外へ踏み出す。
人通りの途絶えた小さな広場へ向かう数歩の間、隣を歩く男に問いを投げた。
「何で、怪我一つしてないんだよ?」
「あっ? 俺か? 運営が用意してる魔術士上がりの治癒師が治してくれたのよ。それでも1日は動けなかったぞ。俺、人気選手だからな」
広場の中央で足を止め、俺はタツヨに向き直った。
「お前、中身何歳だよ。リュウジィ。転生者だろ?」
「46歳。お前は?」
「げっ! 歳上かよ。どうりで見た目の割にジジ臭い訳だ。俺は34歳だ」
「俺、ジジ臭いかな?」
「見た目の割に立ち振る舞いがよ。ところで、やはり記憶が所々消えてるか?」
「お前もか?」
「やっぱりそうか。俺もくだらない事は覚えてるんだけどな。現世の本名とか親の名前とか分かんねえ」
「俺もだよ。ごっつ盛りカップ焼きそばとか、和光のロースカツとか覚えてるけど」
「わかるよ、それ。減量明けのラーメン二郎の大豚ダブルとか、覚えてんだよ。ちなみに俺は現世ではプロボクサー。一応、日本チャンピオンになって5回防衛して、負けて落ち目に。引退しろ引退しろ言われてて、交通事故に巻き込まれて、この世界に来たんだよ」
「日本チャンピオンなんて凄いな。
俺はキャバクラ経営失敗。空港警備員してて、改造拳銃で撃たれた。痛かったよ」
「そっか。ところで、この国に何しに来たんだよ。まさか剣闘士やりに来たなんて言わないよな?」
どうしようか、迷った。
同じ転生者と言う事もあり、何となく信用出来そうな気がして。
全てを話した。
「なるほどね。あくまでも推測だけど怪しいのは大臣のピエールだろうな。王宮で一度だけ見た事あるよ。この国の人間なら、誰でも知ってる事だけど、あの大臣は昔から野心家だからな。世界一と謳われるこの闘技場を築き上げ、今の繁栄を主導した男だ。功績こそ凄まじいが、良い噂は聞かないな」
「でも、何でキングスフォーンの王女を狙わせたのかな?」
「戦争の火種だろ? 俺の知る限りアズマリアのほうが軍事力は上だぞ。キングスフォーンの王女を自国で消させて、当然アズマリアの仕業とわかれば、激昂した相手は必ず仕掛けてくるから、一気に戦争に持ち込むつもりなんだろうよ。あのタヌキ親父ならやりそうな気がするけどな」
タツヨはそこまで言うと、ふっと表情を緩めた。
「……まあ、詳しい話はまたゆっくりしよう。それより、久しぶりに『あっち』の話ができる奴に会えて、なんだか毒気が抜けたよ。和光のカツの話なんて、こっちの奴らにしても通じねえしな」
「ああ。ようやく話の通じる相手に会えたよ」
「よし、決めた。リュウジィ、お前がその真相を調べに来たなら、俺も協力してやる。あの大臣が裏でコソコソやってんのは俺も気に食わねえんだ。それに、元日本チャンピオンと組めるなんて、なかなかないチャンスだろ?」
タツヨはそう言って、ガシガシと自分の頭を掻きながら笑った。
思わぬ協力者の出現に、俺は小さく頷き返した。




