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永遠の少女と金の騎士 3

 王城にある中央の魔女ベアトリーチェの邸では今日も魔女たちの会議という名のお茶会が行われていた。


「なーんであんな子になっちゃったんだろ」


 ベアトリーチェはご多分に漏れず、頬杖をつきながら焼き菓子を口に放り込む。


「ロビンもすっかりお年頃なのねぇ。まあ、今でも可愛いけどねぇ」

「しかし、樹海のリアの邸のまで転移なしの単独で行けるようになるとは…正直驚いたな」

「しかも2日と開けずに来るんだけど。騎士団は暇なわけ?」


 ロビンは叙任されたばかりの新米騎士の為、各種訓練に勤務にと、それなりにタイトなシフトのはずだ。しかし、そんな疲れなど微塵も見せず、足繁く樹海のヴァレリアの邸に通ってくる。


「うふふ。愛、ねぇ」


 ニンマリと笑うベアトリーチェに、ヴァレリアは力いっぱい渋面する。


「そう言えば、新たな浄化エリアにいる魔獣の討伐に騎士団の新人達も参加すると聞いたぞ」

「ロビンも出征するって言ってた」

「あらぁ、そうなのねぇ」


【真・救国神教】事件後、ジルは来る日も来る日も大渓谷の対岸の魔境にコツコツと新たな結界を張り、浄化作業を進めた。その結果、2〜3年後には新たな領地一つ分程の土地が浄化され、アーヴィリエバレイ王国の新たな領地となった。その功績もあって、ジルは国から与えられた仮染めの爵位を、自らの力で実質の伴ったものにしたのだが、これはまた別の話だ。

 現在は騎士団が浄化した土地に残っている魔獣の討伐を日々行っている。


「まったく、調子に乗って大怪我しなきゃいいけど…」



 ◇



 新米騎士達が参加した魔獣討伐は予想に反して過酷なものとなった。


 土中に身を隠していた超大型の魔獣が数匹姿を現した他、中型、小型の魔獣自体も予想より数が多く、死に物狂いの抵抗を見せた。これには経験不足の新人騎士達では歯が立たず、応援部隊と最終的に最果ての魔女エレオノーラが到着するまでに意識不明の重体者を含む多数の負傷者を出した。

 そんな中にあって日常的に樹海で魔獣と対峙していたロビンは超大型の魔獣にも臆することなく、その場にいた誰よりも多くの魔獣を討伐した。絶望的な状況の中で死者を一人も出さなかったのには、ロビンの働きによるものが大きかった。



 しかし…――――――――



「ロビンの意識はまだ戻らないか?」


 王城の医務局が入る玻璃宮の1室にロビンが運び込まれてから3日が経つ。

 エミリオの執務の合間を縫って様子を見に来たレオナルドは、こちらもちょうど様子を見に来ていたミリアムに声をかける。


「ええお兄様。傷が思ったよりも深くて、炎症による熱が下がったのが今朝ほどとの事ですわ」

「そうか…」


 王太子妃となり、公の場ではミリアムにも王太子の側近として畏まった対応をするようになったレオナルドだが、今は家族だけの為こうして以前の様に話している。


「今回の討伐、被害の規模の割に怪我人の中に命に別状があるような者は出なかったそうだ」

「そう、ですか」


 寝顔はまだ少年のあどけなさが残るロビンの手を、ミリアムはそっと握った。


「皆、口を揃えて言っていた」

「?」

「ロビン・ファリナ・ジェイコブ・カパローニがいなければ全滅していた…と」


 今回は新人騎士達に経験を積ませる目的が強く、比較的魔獣の数が少ないと思われるエリアへの討伐だった。しかし、予定外の事が重なり全滅してもおかしくはなかった。 

 そんな中で逃げ惑う同僚達を庇い、その身体に傷を負いながらも戦ったロビン。

 ロビンの身に着けていた騎士団の白い鎧は魔獣の体液で黄色く染まり、夕陽に輝くその金の髪も相まってその場にいた者たちは一様にロビンを『金の騎士』と讃えた。




 ―――――その夜




 ロビンの眠る玻璃宮の1室が瑠璃色の光に包まれる。


 ヴァレリアはロビンの眠るベッドに腰掛け、そっとその頬に触れる。


「こんなになるまで戦って、馬鹿な子ね…」


 額にそっと口づけ、頬から手を離して立ち上がろうとした時、ギュッとその手を掴まれる。


「!」

「馬鹿だなんて、ひどいな」


 ヴァレリアが振り返ると、空色の瞳がこちらを見つめていた。


「目が覚めたの!?」

「うん。()()()の口付けで」

「…馬鹿ね」


 そう言うと、ヴァレリアの頬を一筋の雫が伝った。

 それを見たロビンは掴んだ手を引いて、その小さな身体を抱きしめる。ヴァレリアもまた自分より随分と大きくなってしまったロビンの背中に腕を回した。


「あんたの事は、じいさんになるまで見守るって決めてんだから…」

「うん」

「勝手に、死ぬなんて許さないんだから…」

「うん、ごめん、心配かけたね」

「…許さない」

「ふふ、ごめんって」


 ロビンはそっとヴァレリアを覗き込む。

 最初は母の様に慕っていた、しばらくすると姉の様に感じた。

 いつの日からか普通の幼馴染の少女の様に、そしてある日、恋に落ちた。


 腕の中にいる永遠の少女と、ずっと共にいたいと思った。


「リア、俺を側に置いて。俺が死ぬ、その時まで」

「…酷いこと言うのね」

「ごめん、でも愛してるんだ…」


 ロビンとヴァレリアは見つめ合う。


 樹海に捨てられ、一人泣いていた少年はいつの間にか大人になった。

 永遠を生きる少女の人生の中で、彼と生きる時間はほんの一瞬の事なのかもしれないが、それでもいいかと少女は思った。


「ご飯を」

「うん?」

「ご飯を、食べに来るくらいなら許してやってもいいわ」

「…それ、今と変わり無くない?」


 拗ねたように口を尖らせたロビンに、ヴァレリアは触れるだけの口づけをした。

 驚いたロビンが顔を真っ赤にして狼狽えると、嫣然と微笑む。


「ここ最近の仕返しよ。取り敢えず早く治しなさい。話はそれからよ」


 そう言い残して瑠璃色の魔法陣と共に消えた。

 ロビンは「は〜」と溜め息を着くとベッドに仰向けになる。


「…まだまだ敵わないな」


 つぶやいた声は闇夜に溶けた。





 その後、騎士団で功績を挙げ続け、後に騎士団長となったロビン。カパローニ侯爵家にはそんな彼への縁談が数多く舞い込んだが、そのどれとも縁を結ぶことはなかった。


 ロビンは王都と樹海の邸を行き来しながら、生涯を樹海の魔女ヴァレリアと共に生き、ヴァレリアもまたロビンの最期の時まで側にあり続けたのだった。

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