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第13話 ブサメン村に入る。

「男の魅力は二つの蓄え。何か分かる? それはね、お金とひげよ」


 上の者を呼んでくる、と村人に言われ待っている間に、坊主頭のおネエからなんだか名言っぽい言葉が飛び出す。

 髭の生えてる男性が好みなんだということは分かった。


「甘いわね! ただ生やすだけじゃダメよ。大事なのはね……」


 という言葉を遮る形で、横にいた鬼瓦が質問をしてきた。


「突然現れたらしいが、それは魔法なのか?」


「これから良いこと言うとこだったのに!」というおネエの言葉が風に流れる中、正直に答えるべきか迷ったが、鬼瓦の視線がぼくの腰に差してあるレプリカの魔法の棒に気づいたので答えることにした。


「……えっと、はい。瞬間移動です」


 鬼瓦の片方の眉が上がる。おお、なんか器用だ。


「遅くなって、すまんすまん」


 という男性の声が聞こえおネエが振り向く。上の者を呼びに行ったであろうミグミグの頭が出てきた。


「ラウルの婆っちゃも来るって言ってな。ほら」


 ミグミグが後頭部をこちらに向けてしばらく経つと、男女2名ずつの頭が塀から一度にニョッキと出てきた。もぐら叩きなら終盤の出かたである。

 左からポニーテールの若い女性、ストレートヘアのそこそこいってる女性。少しスペースが空いて毛のあるおっちゃん、毛のないおっちゃん……あれ、ラウルの婆っちゃは? と思ったら、ああ、背が足りなくて塀から顔が出ないんだね。


「よいしょ」


 台に乗ったのか、口をもごもご動かしている婆っちゃの顔が真ん中に出てきた。

 細い目だがこちらをじっと見据えている。目上の人にはこちらから挨拶をと思い、とりあえずお辞儀をする。

 顔を上げた時に、婆っちゃの隣の驚き顔のポニーテールの子と目が合う。両目が僅かに近いが、連続小説の長女役に出てきそうなタイプでとても可愛い。


「あの服装って、中央から通達されてるのに似てません? 似てますよね?」


 隣のストレートヘアの女性に聞いている。その女性も驚きながら、ええと短く返事をした。

 鬼瓦が「突然現れて……」とか、「瞬間移動の魔法らしくて……」と説明すると、「おいおいそりゃ本当か?」、「なぜすぐ開けなかった」などと言いながら二人のおっちゃんが慌てて塀から消え、軋む音と共に門が開いた。


 完全に勘違いしていると思うが、これで食事が出来そうな気はする。

 ゲームと違って実際にモンスターが出る世界だと、村に入るのがこんなに大変なんだと実感しながら門をくぐる。

 愛想笑いを顔に張り付けた2人のおっちゃんが門を閉め、かんぬきをかけた。


 村はメインとなる道が一本通っていて、土壁と茅葺かやぶきの屋根で作られた家がランダムに建っており、所狭しと畑がある。

 パッと見たところ、畑のパーセンテージが多すぎて、逆に畑に家を建てた感もする。


 白いつなぎのような服を着た男女合わせ20人近い村人が、畑仕事の手を休めこちらを見ていた。

 その足元にはハロウィンに使うおばけかぼちゃくらいのキャベツがごろっとなってる。ロールキャベツに使ったら肉のブロックごと包み込めそうだ。

 その他にはカブ、時期的に遅いソラマメや、大き目なえんどう豆、淡い色をしたレタスなども実っていた。

 さらに奥にはおそらく麦畑が広がっている。


 外には聞こえなかった鶏や鳥の鳴き声を始め、子供たちの遊んでいる声や赤ちゃんの泣き声、鍛冶屋があるのか金属を叩く高い音も耳へと入る。


 風向きが変わり耕した土の匂いや、家畜、肥料の匂いを感じていたら、婆っちゃの手を引いたポニーテールの子を先頭にして、ストレートヘアの女性、鬼瓦、おネエがこちらに向かって歩いてくる。

 ミグミグの姿がないので、見張りとして残っているのだろうか。


 好き嫌いは全くないので、なにか今すぐ食べれる物を頂きたいのですがと伝える。

 全く相場が分からないので、とりあえず銀貨を5枚取り出し婆っちゃに見せたら頷いたので、ポニーテールの子のてのひらに触れないよう少し上から落として渡す。ブサメンならではの心遣いである。


「あいにく皆の食事はとうに終わりました。今から支度をしますから、とりあえずあちらへ」


 近くのやや小さい民家へと案内されてる途中、まだ青い柿のような実のついた木を、低学年くらいの男の子が物欲しげに見上げていて、その傍らの姉なのか気の強そうな女の子がこちらを眺めていた。

 民家の入口をくぐると、空家や蔵特有の匂いがふわっとした。

 昼間だが薄暗い部屋には、塔にあった家具に比べると貧相な机と箪笥だけが置いてあり、村人がそれぞれ形の違う椅子を運んできた。「どうぞ。おかけください」と勧められたが、ぼくの椅子を選ぶ際にポニーテールの子が「一番頑丈なのどれかな?」と呟いたことに悪意はないと思いたい。


 机の周りにぼくを含めた8人が思い思いに座る。

 ぼく一人で随分部屋の圧迫感を高めているだろうなと思っていると、ポニーテールの子が「あの、中央の方ですよね?」とポニーテールを揺らしながら聞いてきた。

 村人の勘違いで入れたのに、ここで違いますと言うと出ていけと言われかねないので、平静を装いつつ「ええ」と答える。

 「やっぱり」と彼女は笑いながら対面に座っているストレートヘアの女性と頷き合う。


 中央の方ってなんだろう? 言葉の雰囲気から役所とかの行政チックな気がするけど……。あ! 学ランって裁判官ぽいかも。


「へえ~。わたし中央の人って初めて見たわ。やっぱり中央は食料が豊富なのね~」


 おネェがぼくの体、特にお腹を眺めながら言う。から揚げ、マヨネーズ、お菓子、カップラーメン、炭酸飲料が成分なので、主にコンビニやファースト店なのだが。

 次にストレートヘアが口を開く。


「その中央の方が、この北の土地で何を? 西の勇者様と行動を共にしているとも聞きましたが」

「そう、そこよ。わたしも気になってたのよね~」


 おネエはなんとなく乗っかった感がするが、普通は何してるか聞きますよね。さて、どの辺まで答えていいものかとぼくが言いよどんでいたら、婆っちゃが助け船を出してくれた。


「西の勇者様が来とるのなら、守し義務もあるじゃろうから、おいそれとは言えんじゃろう」


 おネエが小さな声で「守し義務」と呟いたが、守し義務はきっと守秘義務だろう。婆っちゃの言葉によって確かにそうか~という雰囲気になった。


 ポニーテールの子が「私いいですか」と手をあげ、キラキラした目を向ける。


「瞬間移動ってことは、その…伝説の魔法使い様の子孫さんですよね?」


 当然違うので「いいえ」と答えると、驚いた顔で「え!? でも……」とさらに追及したい素振りを見せた。

 おネエが「伝説の魔法使い様って? なんだかもの凄いお金持ちそうだけど」と隣にいたストレートヘアに話しかけた。

 「え! あなた知らないの?」と呆れた表情でおネエに説明をし始めたので、ポニーテールの子が開きかけた口を閉じた。


 話は400年ほど前に現れた魔王と、東の勇者たちとの戦いから始まる。勇者以外の仲間達は倒れ、勇者自身も深手を負う状態となった。

 「ちょっと大変じゃない!」とおネエ。

 勇者に止めをさそうと牙を剥いた魔王の攻撃を、突然現れた長身の男性の魔法使いが防ぎ、瞬間移動でその場から勇者を救い出した。

 「それって、危なくなるのを隠れて待ってたんじゃないの?」とおネエ。

 その後、魔王討伐にも貢献したことで、伝説の魔法使いと呼ばれるようになる。数年間は東の国に滞在し、その後は中央に身を寄せ魔法の向上に貢献したらしいが、ある日行方を消したらしい。

 「はは~ん。女絡みね」とおネエが言い、「大人しく聞けんのか」と鬼瓦が締めて終わった。


 自分の中の勝手なイメージでロンゲのイケメンになってはいるが、突然現れて、最後は行方知らずってところは確かに伝説の人っぽい。


 「お茶を持ってきたよ」と口の大きなおばちゃんが、幾本かの湯気が立つのがここから見えるお盆を持ち顔を覗かせる。

 ……ああ、食事じゃなくちょっとガッカリ。

 ポニーテールの子がお礼を言ってお盆を受け取り、おネエも手伝って皆の前にお茶が並ぶ。


 食事まだかな……。というか、こんな大勢の前で食べるのかな? 熱いお茶をフウフウしていると、婆っちゃがぼくをじっと見ておもむろに口を開いた。


「ここに来た理由は聞かぬつもりじゃったが……その、中央の方よ。中央と東の勇者様たちがここに来たということは、おそらく眼帯をしておる黒毛の魔獣に関すること」


 え!? さっき婆っちゃが収めてくれたのに、自らが掘り起こすの?


「どうかワシらにも手助けさせてはくれんかのう。中央の方がどこまでご存知かは分からぬが、この村の若者が何人もあの魔物の手によって殺されておる」


 婆っちゃの言葉に皆がぴくっと反応した。


「どうか、わしらに仇を討つ機会をくれんかのう」


 鬼瓦が力強く頷き、ポニーテールの子と毛のないおっちゃんも力のこもった視線をぼくへと向ける。おネエは茶碗に口をつけたまま上目づかいに見てくる。


 うーん。眼帯をしてる黒毛の魔獣ってことは、あの黒ヒョウの剣士だよね。塔から近いこの村を襲ったのかな? それともたまたま遭遇したのかな?


 黒ヒョウが事故死した件は西の勇者とは関係ないから、守秘義務とかにもあたらないだろうし、話しちゃっても問題ないよね。

 あ、でも同じ人物のことを言ってるのか確認だけはしておこう。


「えっと、一応確認ですけど、眼帯をしてるって……あごだけ白くて、剣を二本持ってるやつですよね」


 それを聞いた皆がお互いを見た後で頷き、鬼瓦が「そうだ」と答える。やっぱり、合ってた。


「それでしたら、あのー……多分死んでます」


 そう聞いた皆は「へ?」って顔になり、おネエは「どういうこと?」って顔になる。


「西の勇者様が倒してくれたのか!」


 犯人が分かったとばかりに鬼瓦が背筋を伸ばし叫んだ。


「いや、それでしたら守秘義務とかになっちゃうんで。えっと、あのぼくなんですよね」


 皆は半信半疑の表情になる。あ、証拠があった。


「えっと、これ一応証拠です」


 風呂敷がわりにして背負っていたマントを広げ魔方陣を見せてみた。一拍間が空き、大きな驚きの声が部屋に響く。


 ストレートヘアの女性が広げたマントを調べて「確かに本物だわ」と言った後は、ポニーテールの子とおネエは興奮した顔で「皆に言ってきます」「わたしも言ってくる」とお茶を溢しながら慌てて出て行った。おっちゃん二人は泣きながらお互いの肩や背中を叩いて喜び合う。婆っちゃと鬼瓦は詳細をぼくに求めた。

 それよりマントを広げる際に出したぼくの足元にあるアイテムをどうにかしていただきたい……。喜びながらもみんなチラチラ見てるし。


「ミウイとリテゴが走ってったけど、一体どうしたんだい?」


 二人にせがまれて塔の様子を話していると、先程お茶を持ってきてくれたおばちゃんが、大人のこぶしくらいあるパンと、料理の乗った皿とお椀とカップをお盆で運んできた。

 ……ああ、良かった。やっと食べれる。

 皿にはブロッコリーらしきものとカブとの煮物で、お椀は刻んだキャベツとにんじんと豆の入ったスープだった。

 質素だが、空腹のため湯気がゆらめいているだけで、旨そうに見える。

 とっくの昔に飲みほした湯飲みを横へとやり、前にスペースを空けて待つ。

 机に置こうとする料理を見た婆っちゃが、宇宙船の艦長みたいに手を大振りし「今すぐ豚も焼くのじゃ!」と威勢よくおばちゃんに言い放った。

 その勢いに押されたおばちゃんも、イエッサーとばかりに「はい!」と勢いよく返事をし、置きかけたお盆を持ってとっとと出て行ってしまった。


「中央の方よ、今から豚を丸焼きしますゆえ、しばらく待たれよ」


 えええ!? 嘘でしょ!? 豚一頭を焼くってどれくらい時間がかかるの?

 その瞬間、豚の悲鳴のような音がぼくのお腹から鳴った。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


次回は豚が焼けるまで時間があるので、塔へと向かうと思います。

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