よくあるオチですよねー
「それはねえだろ」
結果を言ってしまうと、すべてはこの中年男、陽花の父親が仕組んだ茶番劇だった。
なんでも天使モードばかり表に出て、学校では一度も顔を見せない素の陽花を心配したことが発端らしい。
ちゃんとした友達はいるのか。信頼できる仲間はいるのか。
それを知りたくなった父親はとある依頼を生徒会長にした。
それは、
「裏事情をでっち上げ、陽花を脅す大作戦、ね」
ため息が出た。
すべてはでたらめ。
そう。生徒会の裏事情など存在していないということだ。
その作戦に利用されたのが、俺と海梨。
陽花が一番親しくしている友達が俺だったため、本当に信頼に足る人物なのか、試すことにしたらしい。
大まかな流れはこうだ。
陽花に脅しをかける。俺に相談したのならオッケー。しなかった場合は俺の幼馴染である海梨に裏事情を握らせる。その後、正義感の強い彼女が次期生徒会長に立候補し、俺を巻き込むはずなので、あとは陽花を脅して俺たちに協力させる。そして一番盛り上がったところで裏切らせ、俺が陽花は苦しんでいる、望んでやったことじゃないと気付けばよし。気付かなかったのならば、それ以下の存在だということが証明されるだけ、というものだった。
「一発、ぶん殴ってもいいか?」
「いいわよ。あたしなんて何回叩いたか覚えてないし」
頬が赤く膨れ上がっているおっさんを眺める。
痛そう、なんだかそれを見ただけでイライラが収まったので、一度矛を収めてやるか。
ちなみに海梨がもう一つの人格を生み出すことは想定できていたらしい。
どうやらこの件には学長も一枚噛んでいるらしく、よし決めた。俺は叔母さんを虐めてやろう。しばらくおやつなしだ!
「しかしまあ、これで海梨が生徒会長に立候補する理由もなくなったわけか」
ツンツンモードと目を合わせる。
「ま、そういうことに、なるな」
肩の荷が下りたのか、はたまた嘘情報を握らされていたことに疲れてしまったのか、海梨がため息交じりに頷いた。
そう。次期生徒会長になろうとしていた理由がなくなってしまった。
すべてはでたらめ。生徒会の裏事情など存在しなかったのだから。
あ、ちなみにデレデレモードはあの一瞬だけだった。
理由はわからないけど、もしかしたらまだ抵抗があるのかもしれない。あるいは昔の約束をまだ継続するつもりなのかもしれない。
ま、どちらにせよ俺としては、デレデレモードが表に出てくれる方が心身ともに安全なんだけど、今更お願いするのもアレだろう。
今は二人とも無事に戻ってきてくれたことを喜ぶべきなのかもな。
「なんかどっと疲れが出てきたな」
「それは私も同感だ」
「もう帰って寝てもいいか?」
「む、それは許さんぞ。私の晴れ舞台を見ていかないというのか」
晴れ舞台っつってもドS行為を見せつけるだけだろ? デレデレモードが出演するならまだしも、こいつじゃあなあ。
「不満か?」
「そもそも俺はあれをアピールタイムにすることを良しとしていない」
ちなみに海梨のことだけど、あの痴女モードは完全に消滅した。
わけではないらしい。
「わかりました。では私が夕さんにえっちぃことをしているところを見せつけますねっ!」
ほら出てきた。
本来であれば、単体で孤立しているのだけれど、あの言葉がカギとなって彼女も意識を共有することになったらしい。
勘弁してくれ。
「ところで、俺は合格でいいんですよね?」
陽花の父親に問う。
こんな茶番に付き合わされたけど、結果だけは聞いておきたい。
「もちろん、合格だ。末永く陽花のことを愛してくれ」
「あ、愛してくれって」
「難儀な娘だが、よろしく頼む。結婚を前提で今後も付き合ってほしい」
「ちょ、お父様!?」
明らかに動揺する陽花。
今はどっちの陽花が表に出ているのかわからないけれど……今後も? あれ、この人何か勘違いしていないか?
「あの、陽花のお父さん」
「なんだい?」
「勘違いしてないっすか……? 俺、陽花の彼氏じゃないんですけど」
「え?」
「え?」
顔を見合わせて固まる俺たち。
あ、やばい。なんか嫌な予感がしてきた。
「陽花、霧崎君はお前の彼氏じゃなかったのか?」
「あ、いや、その! なんていうか、ね! 夕!」
「え? は? な、なんだよ?」
キッ、と陽花に睨まれた。
「誰にもばらさないって約束だったからね! ついついお父様にまでいつもの演技をしちゃったのよね!」
「え? あ、あー、そう、ですね」
「そ! そういうこと! だからほら、お父様!」
きゅっと腕を無理やり組まされた。
「あたしたちは付き合っているから!」
「そ、そうだったのか。それならいい。てっきりお父さんは霧崎君に騙されたのかと思ったぞ」
「騙されるって……?」
小声で陽花に尋ねる。
「い、今はいいから合わせておいて」
「いや合わせておいてと言われても、お前一体何を言ったんだ」
「だから合わせておいて。いつか説明するから」
「いつかって言われても……うおっ!?」
何者かによって陽花と俺が引き離された。
「ど、どういうことですか夕さん! 清水さんと付き合っているって!?」
「そ、そうだぞユウ! そんな話一度も聞いていないぞ!」
「ゆ、ゆーくん酷い。私に内緒で陽花ちゃんとそんな関係になっていただなんて」
「あ、いや! だからその、海梨、これは!」
「霧崎君?」
「お父様も勘違いだけはしないでください! 陽花が言っていることは本当ですから!」
疑惑、嫉妬、憤怒……さまざまな視線を向けられ困惑する俺。
あーもうくそう! ここは逃げの一手だ!
「ちょ、ちょっと用事を思い出したので行ってきます! な、陽花!」
「へ? ひゃぁ!」
耐えられなくなった俺は無理やり陽花の手を引いて新聞部を飛び出した。
とりあえずこの場が収まったら陽花に事情を聴かないとな!
とまあそんなこんなで、いろんなことが徒労に終わったわけだけど、いや、まだまだ現在進行形だけど、一つだけいいこともあった。
みんなの幸せ。
バカは人を幸せにするってじいちゃんが言っていたけど、どうやらそれは本当のことだったらしい。
俺がバカじゃなかったら陽花の笑顔を取り戻すことはできなかっただろうし、海梨が元に戻ることもなかっただろう。
もちろん、それ以上に厄介ごとが増えたけど。
三人の海梨を相手にすることになったこととか、二人に陽花を相手にすることになったこととか、なぜか陽花の彼氏にさせられているとか、うおー、考えるだけでいやになってくる。
でも、これからも俺はこいつらと学園生活を楽しんでいくだろう。
そう。多重人格者のヒロインたちと共に――。
最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました。コメディが好きなので、これからもこの路線で頑張っていこうかと思います




