ほっほーう! プーン!
『レディースエンドジェントルマン! いよいよラストのアピールタイム! 最後をしめくくるのはこのお方! 次期生徒会長はほぼ確定か!? みんなのアイドル、頼れる先輩、彼氏にしたい二年生ナンバーワン! 生徒会副会長、北野祐樹いいいいい!』
『わぁぁぁぁぁ!』
紹介と共に盛り上がる会場。副会長がステージに姿を現すと、より一層会場は沸きあがった。
『今回のアピールタイムは格闘技! 対面から現れるのは対戦相手。チェーンソーをこよなく愛す狂犬、霧崎夕ううううう!』
『ぶぅぅぅぅぅ!』
「ひでえなおい!」
この扱いの差にツッコまずにはいられなかった。そもそも俺はチェーンソーを愛してなんかいねえよ! それはチェーンソー使いの森だろ! 俺は林業部員じゃねえんだよ!
『ルールは簡単。相手を気絶させるか、降参させればオッケー! 安全のため武器の使用は一切不可。素手を用いた体術のみ! それでは両者。戦闘準備はよろしいですか!?』
ステージに用意されたリングに登り、視線を交わす。
特に話すことはない。俺の目的は副会長の評判を下げること。
そう。この場で副会長をボコボコにすることだ。
「何か言い残すことはないか?」
「まるで遺言みたいだな」
「別にそこまでひどい目に遭わせるようなことはないから安心しなよ。それても緊張しているのか?」
「当然。大切な存在が観ているからな」
視線を横へずらす。
一番前の席を陣取っているのは俺の幼馴染、朝日野海梨。
「きゃー! 夕さんかっこいいですぅ!」
痴女モードだけど。
それでも俺は、あいつの中で眠っている二人に伝えなきゃならないんだ。
俺が命令してしまったこと。まだ何のことか思い出していないけど、ツンツンモードやデレデレモードが戻ってくるためのキッカケを彼女に与える責任がある。
「いい目をしている。やはり守る存在はある方が強くなるのか?」
「そういうあんたはどうなんだ? 守りたい存在はいるのか?」
「考えたことがないからわからない」
「そうか。だったらなおさらあんたには負けられねえな」
パンッと頬を叩いて気合を入れる。
とにかく俺は目的を達成させる。
それが海梨の問題を解決することに繋がるかどうかはわからないけれど、やれることはやってやるさ。
『試合、開始!』
ゴングが鳴る。ひとまずは様子見だ。
どうやらその考えは向こうも同じらしく、距離を詰めるわけでもなく、ぐるりと右回りに足を運ぶだけ。
隙は、なさそうだな。ポーズから察するにボクシングか何かやっているのか?
「来ないのか?」
ちょいちょいと挑発してくる副会長。
こうして様子見ばかりしていてもらちが明かないし、早速やらせてもらいますか。
「よっ!」
一気に距離を詰め、敵の間合いに踏み入れる。俺の速度が思ったよりも早かったのか、副会長が一瞬驚いたような顔を見せたけど、そんなものに気を取られる俺じゃない。
相手の腕の位置を見て即材に判断。
ここは回し蹴りだ!
ま、どうせ受け止められるだろうけど、
「って入った、あぁああ!?」
副会長の横腹にヒットしたかと思いきや、左腕で足を拘束されてしまった。
そして、
「肉を切らせて骨を断つってことわざを知っているか?」
などと余裕な笑みを浮かべた副会長は両手で右足を掴み、うぉっ!? こいつ、思ったよりも力が、
「ぐぅっ」
投げ飛ばされた俺は受け身を取り何とか衝撃を弱める。
『わああああ! 副会長カッコいぃいぃ!』
『凄まじいパワー。あの筋肉は伊達じゃない!』
盛り上がる会場。鬱陶しい解説。
それを聴いて満足げな表情をする副会長。
相手の評判を上げてどうする俺!?
「へえ、柔道でもやっていたのか?」
「まあ、な」
「だったら丁度いい。こっちも柔道技をかけてアピールしたいと思っていたんだ、よ!」
「それはマジ勘弁!」
起き上がった刹那、腕を取られ背負い投げ。
『容赦ない一撃ぃいぃい! 投げ方も華麗で見惚れてしまう!』
大の字になって空を見る。
あー、今日も快晴で最高の天気だなあ。
正直、このやり取りだけでわかってしまった。
俺は副会長には勝てない。格闘技では。
そう。格闘技では、な。
パンパンと埃を払って起き上がる。陽花、お前のアドバイス、さっそく実行させてもらうぜ。
「思ったよりもタフじゃないか」
「こう見えても昔はやんちゃ坊主だったもんで」
「へえ、それは意外」
「大人しい奴だって思っていたのか?」
「いいや、どうして朝日野さんがこんな奴に気があるのか理解できないだけだ」
「……そろそろ反撃させてもらうから」
「させないよ?」
「いいや、反撃するさ、デュフ、デュフフフ」
俺は気持ちが悪い笑みを浮かべ、副会長との距離を少しだけあける。
そして、
「見るがいい、奥義、二段ジャンプ! ほっほう、プーン!」
「は?」
その場で某赤いキャラクターの真似をすると、案の定副会長は唖然とした。
よし、出だしは悪くない。続けて、
「イィィイヤッハー!」
くるくると回り、大の字にジャンプをする。
「き、君、大丈夫か? 頭でも打っておかしくなったのか?」
「何を言っている。格闘技と言えば大乱闘、大乱闘と言えばスマブラ! 好きなキャラクターの技を使うに決まっているだろ!」
「は、はぁ……」
よしよし、いい感じで混乱しているぞ。
観客からは痛い視線を感じるけど、うん。気にしない!
バカは最後まで馬鹿を貫き通すんだよ!
「次はこの技だ! キーン!」
某キャラクターのごとく、俺は両手に横へ広げながら猛ダッシュし、副会長の周りをぐるぐる回る。
「どうだ! これで貴様は攻撃を当てられまい! 俺が何人にも見えているからな!」
「いや、一人にしか見えないけど」
「なぬ!?」
「そこ驚くところなの!?」
「ふっ、かかったな!」
隙を見せた副会長の懐へスライディング。
そして、両手を横へ振り、
「セーフ! セーフセーフ! セーフ! セーフセーフ!」
「き、君はさっきから何をしているんだ?」
「見てわからんねえの? お前を馬鹿にしているの。セーフ、セーフ!」
「ッ!」
おっ、怒ったかな?
こめかみに青筋を浮かべた副会長が、野球の審判の真似をしている俺を見下ろした。
「いい度胸をしている」
よし、その調子だ。これで決めてやる!
「このまま隙を狙って、カンチョウ! と思ったけど、ふっ、男に興味はない。カモンベイベー」
「ぶっとばしてやるよ」
よっしゃ! ついに本性を現したな!
俺の目的は副会長の評判を下げること。
そう。怒り狂った姿を見せりゃ幻滅する奴が出てくるはず!
「来るのか? 来ないのか? ではこちらからぶふんっ!?」
は?
今、一瞬何が起こったのかわからなかった、ぞ?
気が付いたときには俺の身体が宙を舞っていた。受け身を取る暇もなく地面に背中を打ち付ける。
やばい、思ったよりも痛い。
ツンツンモードの仕打ちに慣れているとはいえ、これは思った以上にきつ、
「いッ!?」
腹部にかかとをぐりぐりねじ込まれた。
「あー、久しぶりにプッツンきたわー。てめぇ舐めてやがるな?」
「どういたしまして」
「褒めてねえよ」
「ぐぅっ」
痛いのをこらえながらサムズアップする。
「俺は、ドM、だ。もっと、踏みつけて、くれ。デュフ」
そうして恍惚な笑みを浮かべると、
「ひっ」
あ、あれ? 思ったよりもこれは逆効果。
そう。なんとびくっとした副会長が一度俺から退いたのだ。
これは思わぬ弱点を発見!
俺は両手を広げ、汚い笑みを浮かべながら副会長ににじり寄った。
「デュフ、デュフフ。さぁ、もっと。もっとやってくれ!」
「く、くるな! 気持ち悪い」
「なぜ拒む。俺はホモだ。ホモ王だ! 君を受け入れる準備は整っている。さぁ早く。早く俺を攻めたてるんだ。デュフフフ」
「ッ!」
自分の身体を両手で庇う副会長。
爽やかなイメージから一転。
これはものすごく、
「乙女、チック?」
何かが被った。
怯える副会長を見て、何かの記憶が蘇りそうになった。
なんだ、今のは?
誰と被った?
改めて自分の身体を両手で庇っている副会長を見下ろす。
あぁ、そうだ。このポーズ、この角度。
痴女モードを横目で見る。
やっぱり。
俺の予想通り、痴女モードはいつもの表情ではなく、強張っている。
そう。過去の出来事を思い出しているかのように。
☆ ☆ ☆
俺が小学二年生の時だ。
空手などを習っていた俺は調子に乗っている連中から弱い者を守っていた。
その対象の一人が海梨だった。
メンタルが非常に弱い彼女は、相手からの強引な誘いなどを断り切れず、いつもいいように扱われていた。
俺はそれが許せなかった。
たぶん、それが理由で武術を学び始めたんだと思う。
海梨は俺が守る、と。
それであるとき、そいつらと本気の喧嘩になった。
結論を言ってしまうと、俺の勝利。
でも、相手が複数だったこともあって身体はボロボロ。加減を知らない子どもの喧嘩だけあって、そこらへん傷だらけだった。
「海梨、大丈夫か?」
怯えている海梨に手を差し伸べる。すると彼女はそれを弱弱しく握り、少しだけ俯いた。
「ごめん。私が弱いばっかりに」
「いいんだよ。お前は俺が守るから」
「でも、ゆーくんに酷い怪我、させた」
「どうってことないよ、これくらい」
「どうってことないなんてことないよっ」
涙ぐんだ海梨にきゅっと手を握りしめられた。
「海梨?」
「お願いだから、もうやめて。私のために傷つかないで」
「でも」
「お願いだから」
上目遣いで見つめられる。どうやらこの時点で俺は海梨の上目遣いに弱かったらしい。
「……わかった。じゃあ海梨にもお願いがある」
「なに?」
「これから喧嘩は絶対にしない。でも俺はお前を守る。これは絶対だ。だからさ、次からこういうことになりたくないんだったら弱い自分を消してくれ」
「弱い、自分を?」
「そう。俺の前以外では強い海梨でいてくれ」
「強い、私?」
「そうすればほら、俺はこんなボロボロにならなくて済むだろ? だから約束だ。これからは強い海梨でいること。弱い海梨は俺と二人きりの時だけ。いいな?」
「ん、わかった。……でも、もし約束を破ったら?」
「嫌いになる」
「え?」
「もう話なんか聞いてやらない。強い海梨でも弱い海梨でも聞いてやんない」
「そ、そんなぁ」
「ま、面白いほどバカで変態だったら話くらいは聞いてやるかな」
「おバカで、変態」
「今のお前からは想像できないけどなっ」
「……わかった。私、頑張る」
「どうしてもそのキャラ以外で話を聞いてほしいのなら、俺がこの言葉をかけたら元のキャラに戻っていいぞ」
「その言葉って?」
「それは――」
☆ ☆ ☆
なるほど、そういうことだったのか。
すべてを思い出した俺は納得すると同時になんて馬鹿な奴なんだと思った。
だってさ、昔の約束だぞ。
それも俺が小学生の頃の話だ。何年前の話だよってツッコみたくなる。
子供ってのは本気でとらえちまうものなのかな。どう考えても冗談で言ったようにしか思えないのに。
でも。
正直、嬉しいとも思った。
海梨が俺との約束を覚えていてくれたこと。
かなり昔のことなのに忘れずにいてくれたことを。
それに比べ俺は――。
罪悪感に苛まれる。一度した約束を破るつもりはない、なんて宣言しているくせに昔の約束を完全に忘れていたなんて。
パシンと両手で頬を叩く。
ダメだ、切り替えろ俺。やってしまったことを悔やんでもどうしようもない。だからこそ俺がやるべきことは、
「わりぃ、副会長。大事なこと、思い出したよ」
身を守っている副会長から一歩距離を取った。
「な、なんだ? 正気に戻ったのか?」
「俺は元から正気だ。てなわけで、茶番は終わりだ」
副会長の評判を落とすこと。
それが本来の目的だけど、アレを思い出したからにはやらなきゃならない。
海梨の中に眠っている二人に伝えなきゃならない。
いつも通りの自分でいてもいいよってことを。
「わりぃ、マイク借りるぜ」
俺はリングから降りて司会者からマイクを奪った。
そうして俺は会場にいる幼馴染に目を向ける。
普段目にすることができない表情の海梨。
俺が求めてしまった彼女の存在を。
「なあ海梨。よーく聴いてくれ」
「夕、さん?」
「俺はお前を『認める』。お前がそばにいることを認めてやる。だから戻って来いよ。人前で弱さをさらけ出してもいいからよ!」
「ッ! 夕さ……ゆーくん」
「おかえり、海梨」
やっとその言葉を聴けた。
その表情。
守ってあげたくなる幼馴染の存在。
海梨に向けてサムズアップすると、え? あれ?
ひょいとマイクを誰かに奪われた。
「やれやれ、とんだ茶番劇ですね。え、あー、こほん。会長の渡です。会場の皆さんは何が起こったのかさっぱりだと思いますが、どうか静粛にお願いいたします」
「生徒、会長!?」
いつの間に入ってきたんだ!?
「やぁ霧崎君。個人的にはもう少し違う場面でやってほしかったのですが、それも致しかねないですね。最後まで僕の手のひらの上で踊ってくれればよかったのですが」
「どういうことだ」
「すべての元凶は彼なのですがね」
ステージ入り口付近を見やる会長。
そちらに目を向けると、見たことがない中年の男性と、
「陽花!?」
そう。ものすごい形相をした陽花が中年男性の手を引いていたのだ。
「場所を移すから。夕、ついて来て。あと生徒会長。この場は任せたから」
「了解です、お嬢様」
「お、お嬢様ァ!?」
いろいろと混乱することが重なったけど、とりあえず新聞部行きらしい。
そうして俺は海梨と天使モード、見知らぬ男性と共に新聞部へ向かった。




