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多重人格のヒロインを手伝う件について  作者: るなふぃあ
第六章 第三の人格、痴女モード
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ふぅん、そういうことだったのか

 そうか、そういうことだったのか。

 痴女モードの言葉を聞いて大切なことを思い出した。

 陽花が裏切る前に言った台詞。

 あたしはあたしであって、あたしじゃない。

 つまり、この言葉が意味することは――。

「何の用かしら? こんな時間にわたくしを呼び出して」

「どうしても話したいことがあるんだ」

「話したいこと? 人気のない場所で?」

「あぁ」

 陽花を呼び出した場所は学校の屋上。昼間ならまだしも、日が完全に落ちた放課後は俺たち以外に誰もいない。

「まさか告白なんて、馬鹿な真似はしないでしょうね?」

「残念ながらそういうドキドキする話じゃない。俺はお前にこれを伝えたいだけだ」

 すうっと大きく息を吸った。

「陽花! 俺はお前を助けたい! 一体何があったんだ! 力になれるかわかんないけど、話せるなら話してくれ! 俺たち友達だろ!」

「ッ! そんな大きな声で言わなくても聞こえているわよっ。というよりもあなた何を言っているの? お友達ィ? やめてくれないかしら、あなたなんかとお友達なんて」

「うるせえよ、てめえは黙ってろ」

「なっ!?」

 明らかに狼狽する陽花、もとい、何か。

 俺はお前に用があるわけじゃない。

 お前の中で眠っている陽花に用があるんだ。

 何かがあはっと声に出して笑った。

「なるほど、そういうこと。気付いたのねあなた」

「理解したのなら陽花と代われ」

「却下」

「どうして」

「だって今代わってしまったら全てが台無しになるもの」

「どういうことだ?」

「あなたに知る権利はない」

「ある!」

「どうしてそんな自信満々に言えるのかしら?」

「俺は陽花の友達だから。可哀想なお前を助けてほしいと陽花に頼まれたから」

 そう。陽花はこう言ったんだ。

 あたしはあたしであってあたしじゃない。

 そして可哀想なあたしを助けてあげて、と。

 つまり、陽花自身が可哀想な目に遭っているわけじゃない。こいつが、今陽花の身体を操っている何かが、可哀想な目に遭っているんだ。

 何かが嘆息した。

「そう。あの子がそんなことを。あなたになら何かできる、変えられるかもしれないということかしら」

「代わる気になったか?」

「いいえ。それについてはさっきも断ったはず」

「なんでだよ」

「すべてが台無しになるからと言ったでしょう。でも、そうねえ」

 何かは周囲をゆっくりと見渡した。

「この場所はよくなさそうね。来なさい。わたくしの部屋に案内してあげるわ」

 よし、どうやら自分が抱えている問題を話す気になったらしい。



 そして場所は変わって陽花の部屋。

 何かは俺が部屋に入るとすぐにドアを施錠し、カーテンをすべて閉めきった。

「これでよし、と」

「かなり厳重だな。他人に聞かれたくないことなのか?」

「ええ、それもあるけど。んー、そうねえ。スパイがいるのよ」

「は? スパイ?」

「ええ。気配を殺すことが得意で地獄耳を持ったスパイ」

「まるで忍者だな」

「そう、忍者なのよ。わたくしの敵は忍者なの」

「ここにきて中二病発動とか、やっぱり陽花であることは変わらないのか」

「あなた、わたくしの話を信じていないわね? 生憎、わたくしは嘘を吐いているわけではないわ。本当のことなのよ」

「はいはい、忍者ね」

「潰すわよ!」

「何を!?」

 背筋がゾッとした。急に雰囲気を変えるもんだからかなりビビったじゃねえか。

 ったく、おっかねえったらありゃしない。

「話を聞く気がないのならいいわ、帰りなさい」

「ごめんなさい。ちゃんと聞きますから話してください」

「……もう、調子狂うわね」

 ため息を吐いた何かはポンポンとベッドの横を手で叩いた。

 俺は促されるまま彼女の隣に座る。

「案外素直に来たわね。もっと抵抗するかと思ったのに」

「これでも十分緊張しているんだけど」

「顔に出ないのね」

「そうか? まあ、緊張とかそんなこと考える余裕なんてなかったから」

「確かにそうかもしれないわね。だってあの時のあなた、すごく必死だったもの」

「そりゃあね。陽花の言葉を忘れて、完全に裏切り者だと思っていたからな。焦るに決まっている」

「ふぅん。ま、わたくしとしてはどっちでもよかったのだけれど。そうね、せっかくここまで踏み込んできたのだし。それにあの子が認めているのなら……わたくしが拒む理由なんてないわね」

 そうして何かはぼんやりと棚に置いてある家族の写真を眺めながらぽつぽつと語りだした。


☆ ☆ ☆


 わたくしはこの学園の理事長の娘、清水陽花。

 さて、何から話そうかしら。んー、そうね、まずはこの学園がどういうところなのか、という話にしましょうか。

 一万人以上の生徒数を誇るマンモス校、清水学園。

 ご存じのとおり、普通じゃありえない規模の生徒数よ。

 なぜそれほどの生徒数を保つことができるのか。

 それにはちゃんとした理由があるのよ。

 官僚になれるエリートコース。

 そう。この学園には他の学園にはない、必ず官僚になる道が用意されているの。

 生徒会長になった生徒は、自動的に官僚になることができるコースが用意されている。普通じゃ考えられないと思ったでしょう? でもこの学園だからこそ成せることなのよね。何せこの学園の生徒会は、学園を動かしている司令塔だもの。

 一万人もの生徒を、普通の高校生が指示して動かしている。

 学園の校則を決めることだって生徒会だし、部活動の予算決めも生徒会。年に行われるイベントまで生徒会がすべて執り行っているわ。

 生徒会長になれば、否が応でも人を動かしていく力が養われる。

 そう。社会ではそういった人間が必要とされているのよ。

 だから当たり前といえば当たり前のことなのよね。

 だって、それほどの能力を持った人間を上が見逃すと思って?

 ありえないでしょう? この学園自体生徒数で有名なのに、お偉いさん方が注目しないわけがない。

 それにまあ、わたくしの父上も将来有望な、日本を動かしていける人間を育てるためにこの学園を創ったわけだし。そういった人たちと繋がりがないわけじゃない。

 すべてが合意の上。

 だからこそ、この学園は生徒会が予算を決めるなどといった普通の学園では許可されない金銭が絡むことまで許されている。

 でも、一つだけ決められていることもあるわ。

 次期生徒会長は現副会長がなること。

 そう。副会長になった人は必ず会長にならなければならないの。

 どうしてそうならなければならないのか。

 理由は単純。

 副会長の仕事を体験していない人間が、いきなり会長の仕事をこなせるわけがないからよ。例えるなら、小学生なのにいきなり高校生で勉強する内容がテストに出題されるようなもの。

 どう考えても不可能でしょう?

 これがゲームならまだしも、こっちは現実。

 リセットは不可能。一つのミスが大きな問題に昇華する。

 だからこそ、会長の下で修業を積んだ副会長を次期生徒会長にする必要があるの。

 それに清水学園は様々な企業の協力があって成り立っているわ。将来有望な官僚を生み出すことができるかどうか。不確定だけれど大きな可能性を見出しているこの学園に投資している企業は多い。

 詰まる所、それらの企業に見捨てられた瞬間、この学園は存亡の危機にさらされてしまうということよ。

 伝統云々についての話はこれで終わりにしましょう。あまり長くなっても退屈でしょう?

 ここからはわたくしのお話。

 なんとなく予想はつくかもしれないけれど、これほどの立派な学園を創り上げる人の娘よ、厳しい躾のもと英才教育を施されてきたわ。

 わたくしはそれが嫌だった。

 学校から帰ってきたら勉強、休日はお稽古。

 ろくなお友達ができずに、ただただ勉学に励む毎日。

 そんな日常を送りたくはない。もっと学園生活を楽しみたい。友達を作りたい。

 その旨を父親に伝えたところ、この学園に入学すれば三年間好き勝手にしてもいいという条件を与えられた。

 もちろんわたくしは条件をのんで、三年間の自由を得たわ。

 その自由をどうやって過ごすのか。

 学園生活を楽しむためにはどうすればいいのか。

 どうやらわたくしは他人と接することが苦手らしい。中学までずっと同級生と接することが少なかったせいで、上手く立ち回ることができなかった。

 結果、わたくしはあの子を生み出し、すべてを委ねることにした。

 変な子ではあるけれど、変わったキャラのおかげか友達と呼べるような人もできたわ。一度でいいからやってみたかった部活動にも参加することができた。

 でも、楽園生活は短かった。

 生徒会の裏事情。

 それを知ってしまったわたくしは生徒会長に脅しを受けた。この学園の伝統を壊されたくなかったら指示に従え、と。

 そう。あの人はわたくしが理事長の娘であると知ってそのような脅しをしたのよ。

 自分が悪いことをしているのにも関わらず、悪事を詫びるのではなく利用したの。

 親に相談することは禁止、他言無用。

 正直に言うと、それだけなら別に問題はなかった。だって誰にも話さなければ普通に学園生活を送れるもの。

 しかし数週間後、朝日野さんが裏事情を知ってしまった。

 案の定、わたくしは朝日野さんを生徒会から追放するための手伝いをしろと命令された。ま、手伝いと言っても彼女の弱みになりそうな情報を探り、生徒会長にその内容を報告するだけだったのだけれど。

 さらに数日後、朝日野さんがあなたを巻き込んだ。

 それによってあなたと繋がりがあるわたくしは、今回の問題に深く関わらなければならなくなってしまった。

 どうすれば朝日野さんを生徒会から追い出すことができるのか。

 答えは簡単。

 対抗馬として立候補する朝日野さんを蹴落とせばいいだけ。

 要は副会長を生徒会選挙で勝利させればいいのよ。

 生徒会長の指示に従っていたら恐ろしいほど順調だったわ。朝日野さんの手伝いをするふりをして弱点を集める。そして学内新聞を利用して朝日野さんの注目を集め、それがピークに達した時に悪評を見せつけ、一気に評判を落とす。

 間違いなく成功しているでしょうね。今頃朝日野さんに希望を見出していた生徒の大多数は、他の立候補者をあるいは副会長を支持しようとするはずよ。

 ここまで話せばもうわかるでしょう?

 こんなことをすればあなたに嫌われることは当然だし、友人を裏切るような酷い女だと見られてしまうことは間違いない。

 だからわたくしは一つの決断をした。

 これからの学園生活はわたくしが送る。

 つまり、学園を楽しむために生んだ彼女には辛い思いをさせない、と。

 

☆ ☆ ☆


「そう、だったのか」

 犯人は生徒会長。

 あの野郎さえいなければ、陽花は、彼女は苦しまずに済んだのか。

「ぶっとばしてやりてえ」

「それができればどれだけらくなことか」

「ま、できないことはないか」

「え?」

「簡単なことじゃねえか。生徒会の裏事情を全校生徒にバラせばいいんだよ」

「あなた何言っているのよ。そんなことすればこの学園は」

「崩壊しねえよ」

「どこからその根拠が出てくるのよ」

「悪いことをしている奴らを懲らしめる正義の味方。生徒会の裏事情は全校生徒に迷惑をかけているんだ。それを公表し、予算を正しい使い方に戻すことで大多数の生徒を味方につけることができる」

「つまり?」

「お前が気にしている伝統は壊れないってことだよ。要はこの学園から将来有望な奴を世に送り出せばいいんだろ。それさえできれば過程なんてどうでもいいってことだろ」

「それは、そうだけれど」

「だったらこれでいいじゃねえか。企業やら云々の厄介ごとはお前の父親に押し付けちまえ」

「ほんと自分勝手ね」

「それでいいんだよ。そういう仕事は大人の仕事。お前がこの学園を守りたい、三年間の自由をくれた父親に恩返しをしたい、その気持ちはいいことだ。でもな、一生徒である俺たちが悩む問題じゃないだろ。俺たちは学園生活を楽しめばいいんだよ。それが一番、お前の父親が望んでいることじゃねえのか?」

 真面目に答えると、彼女はぷっと笑いやがった。

「なんで笑うんだよ」

「あはは、ごめんなさい。どうしてあの子があなたを選んだのかわかってしまって。あぁもう、本当に、どうしてこんなことに気付けなかったのかしら」

「悩みは消えたか?」

「ええ。あなたがバカで本当に良かった」

「それ貶してんのか、褒めてんのか?」

「もちろん褒めているわよ。ありがとう。あなたさえいればこの学園生活はこれからも楽しめそうね。では早速父上に電話をして」

 ガチャリ。不意にドアが開いた。

「ふぅ、やっと開きました。清水さん。あなたを拘束しに来ました」

「え?」

「は?」

 俺は、この場に侵入してきた奴を疑わずにはいられなかった。

 だって、そいつは、

「もう、夕さんもダメですよ。彼女に関わっちゃ」

 そう。なんと信じられないことに痴女モードだったのだ。


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