笹野功一の受難
書いててジェネレーションギャップに愕然としたり・・・。
この時代を知ってる人は、懐かしんで下さい。
そして、何のゲームをモデルに書いてるか分かった人は笑って下さい。
◆◆◆◇◆◇
今日は確かクリスマス・イブのはずだ。
学校も先日から冬休みに入り・・・まぁ、クリスマスと言っても俺的には特に何事も無く過ぎて(きっと母さんは、色々準備するんだろうけど)、暮に正月が後に控えてて、少しばかり宿題を気にしつつも、お年玉の使い道について頭を巡らせているはずだったんだが・・・
いや、数人くらいには年賀状を出してみようかと、準備をしようとしてたかもしれない。
だが今目の前には、昔から知ってる・・・いわゆる幼馴染という間柄の一コ下の女子中学生が二人。俺の部屋にいて、イチゴの載っかったケーキを突きながらパソコンでゲームに興じている。
それを俺はできるだけ離れた場所から、漫画をカモフラージュにその二人を眺めている。
・・・別に、そんな趣味があるわけじゃないぞ。
ただ、近寄れないだけだ。
なぜなら、あいつらがやってるのはエロゲーだからだ。しっかりパッケージに『18禁』のシールが貼られていた。
誓って言うが俺のじゃない。ましてや俺がやらせてるわけでもない。あいつらが勝手に持ってきて、勝手にやってるだけだ!
母親に呼ばれて部屋から出て下に降りると、何故か幼馴染の二人組みがいた。
前はよく来てたが、大きくなってからはそういう事はなくなっていた。だからこいつらとは久しぶりに会ったというのが正しい。もちろん約束なんてしてない。だから、何故こいつらがここにいるのかさっぱり分からない。
「・・・何しに来たんだ?」
正しい質問だと思う。
「えーとね、クリスマスだからケーキ持ってきて、あっそれは、おばさんに渡したんだけどね、功くん呼ぶから待っててねって言われてここにいるの。だからみんなでケーキ食べようね。」
ニコニコしながらのぞみが経緯を語るが、さっぱりだ。それはうちに来た理由ではなく、来てからの話だ。
「功ちゃんにパソコンの事で相談があって来たの。」
それを真優が引き継いでごく簡潔に答えた。のぞみとは対極にある性格なのだが、いやそのせいなのかこの二人は非常に仲がいい。
「はぁ、何の相談だ?」
「ねぇねぇ、とりあえず上がっていい?」
のぞみが茶色いブーツを脱ぎながら、上がる気満々に言う。
「・・・別にいいけど。」
特に散らかしてるわけでもないし、見られて困る物は見える場所に置いてないし、どうせ暇だったからと気軽に上げてしまった。
・・・しかしそれをこの後、すぐに後悔する事になった。あー俺のバカっ!
「で何?」
あまり広くもない部屋に、三人こたつに足を突っ込み先程の話を再開する。
「んー、功くん古いパソコン持ってるよね?」
「そう、PC98シリーズって知ってるよね? それについて教えて欲しいんだけど。」
「うん? それならそこにもあるぞ。」
俺はラックのPC-9821 Cx2を指差した。
しかしまた古いものを・・・
PC-9801とPC-9821はWindows95が普及するまでの間、国内ではこれがでは主流だった。NECが出した日本向けのパーソナルコンピューター。今となってはどうにもならないスペックだが、当時はHDDが載って、Windows3.1のマルチタスクに、マルチメディアが売りで、俺とほぼ同い年のこいつはTVも見れたらしい。もっとも俺は小さ過ぎて、そんな事なんかさっぱり覚えていない。
ちなみに元々の仕様と違って、FDDが一基追加され、CPUとグラフィック、それとメモリが増強されている。しかしやっぱり今となってはたいした事は無い。CPU2Ghz越えが当たり前の今、増強しても100Mhzだ。
そんなマシンに一体何の用があるんだか。
親が使ってたものを随分前に譲り受け、その後も捨てがたくそのまま後生大事に取ってあっただけだ。だからもちろんメインマシンは別にある。
二人は目を輝かせて、そのマシンを眺めて言う。
「貸して!!」
「は? 一体何に使うんだ?」
「えへへ~、これできるよね?」
そう言ってのぞみがカバンから出したものは、西洋を舞台にしたRPGらしきゲームの箱。ヒロインであろう女の子と、剣を構えた男が二人。片方は意図的に顔が隠してある。
「おまえら受験生のはずだよな?」
「うん、そうだよ。」
「大丈夫、落ちないから。」
自信満々の顔をする二人。・・・いいよ、どうせそれはこいつら自身の問題だ。
「じゃあ、ちょっと貸せ、」
のぞみから箱を受け取ると予想外の重みに驚いた。プラスチック製で、そしてでかい。
「重いなこれ。」
「フロッピー10枚。MS-DOSってので動くんだって。」
真優が的確な説明を加える。
「ふーん。」
「それ古過ぎて私たちじゃ、どうにもなんないんだよ。」
裏にひっくり返して、俺はMPをごっそり削られた気分になった。
「・・・のぞみ? 何でお前がそんな物持ってんだ?」
モザイクの入ったあられのない姿の女の子が複数。結構好みの絵だ・・・とかそんな事じゃなくて、よく見たら横に『18歳未満お断り』という丸いシールが張ってある。
「あのね、家で見つけたの。」
それは、そんな笑顔で言う事だろうか?
「家って、親が隠してたの勝手に持ってきたのか?」
俺はのぞみの父親を思い出し、何ともいえない気分になったが、
「あ、大丈夫だよ。お母さん忘れてたみたいだから、懐かしいって言ってたけどさ、どうせまた忘れてるよ。」
は? 俺聞き間違えたか? 違和感を覚えた気がするんだが。
「お母さん?」
「うん、お母さんのだよ。」
・・・聞き間違えじゃなかったのか、つーか何で母親がエロゲーなんだ!?
ギッチョンギッチョン、久しぶりに動くマシンはFDDがフル稼働で頑張っている。
「ねぇ、まだ~?」
こたつに突っ伏したのぞみから不満が上がる。
「まだ5枚目。」
俺に文句を言われても、転送速度が遅いんだからどうにもなんねーんだよ。フロッピー10枚分のインストールなんて、俺だって初めてでどれだけかかるのか知らねえっての。
その時、スッと襖が開いて母親が入ってきた。
一瞬ドキっとしたものの、よく考えたらプラスチックの箱は全開で表の絵を見られる心配は無い。ただ黒いだけの内側にFDDが乗っかっているだけだ。それを改めて確認し安堵した。
「あー、古いパソコンに用があったの?」
母親がこたつの上にケーキと紅茶を並べながら、二人に話しかけている。
「はい、さすがにもうこんなの無くって困ってたんです。」
「でも、功くんが持ってたの思い出したからねー。」
「そっか~、こんな古いの今更って思ってたけど、功一の趣味も役に立つ事があったのねー。」
盆で、俺の頭を小突きながら笑う。
「鬱陶しいから止めろって。」
振り返りもせず、手で追い払い。画面の指示に従って次のフロッピーに入れ替える。
「功くん持ってて助かったよ。」
「そうだよね、こんなの買っても困るしもったいないし。ジャンクだと動く保障が無いし。本当にどうしようかって思ってたんだ。物好きな功ちゃんに感謝だよね。」
酷い言われようだよな・・・お互い。
目の前のマシンと自分を哀れみながら、俺はインストールの作業を黙々と続けた。
「おーっ、動画で見た通りだーっ。」
のぞみが感動の声を上げる。
CONFIGやBATファイルを書き換えてメモリを空け、ようやくゲームが起動した。最初は黒い画面で音だけが鳴った。
その時はブーイングが起こったが、今は歓喜の声だ。そんなにやりたかったのかおまえら?
オープニングの動画だけでこの歓び様だ。この先は一体どうなるんだ?
真優がカバンを漁り紙の束を取り出す。
「ねぇ、どの子がいい? 私は中華娘が見てみたいんだけど。」
「えーとねー、シスターもデフォルトって感じでいいよね?」
楽しげに話しているが、内容は攻略キャラの選別で紙の束は各キャラの攻略チャートだった。準備がいいなまったく、俺はそれについて今更突っ込む気にもなれない。
「ねぇねぇ、功くんはどれがいい?」
「あ、これサキュバスもいいかも。」
「・・・知るか、勝手にしろ。」
俺をその話に混ぜるな!
後は好きにしろとばかりに、ベットに転がって読みかけの漫画の世界に逃げ込んだ。
「あー戦うの面倒~。」
「仕方ないじゃん、一応RPGなんだしさ。」
不満気なのぞみをいちいち真優がなだめる。律儀だなーと思いながら二人の様子を窺う。
近くには寄れない。もしもの事が起こった時に俺が立場を失う。こいつら相手に変な気を起こす事は絶対に無いが、生理現象はどうにもならない。それをあいつらにからかわれたら俺が再起不能に陥る。フルボイスじゃなくて本当に良かった。
「あー、何かいい感じの絵出てきた。」
「縄?」
あーもう、こいつらの会話をどうにかしてくれ・・・
「ねえねえ、功くんもおいでよ。」
「絶対嫌だ!」
こんなゲームでさえなきゃ、久しぶりにこいつらと遊べたかもしれないのにな。ふとそう思った。・・・そう思うからこそ、楽しそうにこんなゲームをやっているこの二人に対して、心底腹が立った。
その苛立ちを紛らわそうと、まだ手付かずだったケーキにフォークを突き刺した。やや大きめにすくったそれを、口に入れると予想の味と大きく違って驚いた。
生クリームのショートケーキだと思っていたのだが、おそらくクリームチーズが混ざってるんだろう。予想外に美味しくてちょっとだけ嬉しくなった。
「おまえら俺の事、男だとも年上だとも思ってないよな・・・。」
二人のキャラを攻略した後、『同じような事の繰り返しは疲れたと』言って止めた二人に対して、つい本音が出た。
「んー、じゃあ笹野先輩って呼ぼうか?」
違和感しか感じない。
「何か違う、今更止めてくれ。」
「じゃぁじゃぁ、男は狼なんだぞーって事?」
・・・・・・。
「おまえら相手にそんなんあるか。」
やっぱりバカにされている。
「だって、功くんは功くんだからねー、変に変わっちゃうのも嫌だしねー。」
「うん、別にこのままでいいじゃん。」
二人はそう言って、屈託無く笑った。
「・・・そうだな。」
俺は自分の考えていた事が恥ずかしくなって、残っていた紅茶を一気に飲み干した。
「じゃ、そろそろ遅いし帰ろうか。」
「そうだね、功くんありがとねー。」
紙束とゲームをそれぞれ仕舞い込み、立ち上がる。
「あぁ、帰れ帰れ。」
俺は邪険に言いつつも玄関まで見送りに降りた。
・・・たぶん、これは昔の癖だ。
二人を追い払ってから気が付いた事が二つある。
あいつらがまたうちに遊びに来る事はもう無いんだろうなと思うと、少し寂しく感じた事と。
そして、このインストールされたゲームを、この後どうすればいいのかという問題が残った事だ。
しかし、それは数日後に杞憂に変わる。
あいつらは、全キャラを攻略するまで通い続け、また新たなゲームを持参してはここで遊んでいる。
・・・なぁ、やっぱりおかしいだろ絶対!?
というわけで、探し物をしていて出てきたPCのエロゲーを、
さすがに処分しようか、という事になり閃いたお話です。
将来、娘にこれが見つかったらどうなるだろう?
そんなバカな事から思いついた話です。
その部分は、次の話なんですが(^^;
作中で遊んでいるゲームは、実際に私が持ってたゲームです。
もう随分前に手放してますが、そのゲームのパーフェクトコレクション(CG集や攻略ガイド、設定資料集等)は手放せずに未だに手元にあります。
それと、PC-9821Cx2も実際に持ってたものです。改造もそのまんまです。
インターネットはごく一部の人だけで、専用線の時代ですよ?
電話代気にしてBBS覗いてた時代ですよ?
・・・本当に随分変わりましたよね~。




