『AIバディ・ポチの事件簿 〜第四章 前編 エリートを捨てた男と柴犬ポチ、AIキャロルのドブ板正義〜』
まえがき
これは、黄金の座布団を蹴り飛ばした男と、電子の姿で蘇った柴犬が、下町の小さな「消えた幸せ」を取り戻す物語です。怪我をする人はいません。安心して、練乳より甘い午後のひとときにどうぞ。
第四章:ロロロのあ兄き、路地裏に舞う。(前編)
■ 探偵、箒を握る
「てやんでえ! 俺はドブ板の涙を拾う探偵だ! 落ち葉を拾う清掃員じゃねえんだよぉ!」
深海市の片隅。あちね探偵事務所のボロ机に突っ伏して、亜那あちねは号泣していた。
目の前には「ドンドコ不動産」からの無慈悲な依頼書。格安アパート『潮騒荘』の定期清掃。本来なら探偵の仕事ではないが、家賃滞納を盾に取られては、誇り高き亜那家の末裔も形無しである。
「あちね殿、いい加減に往きなさい。あなたの右足のバケツが、出発の合図を告げるようにガタガタと鳴っていますよ」
近くのアマケロ端末から、ポチの呆れた声が響く。
「うるせえ! これは現場叩き上げの証なんだよ!」
あちねは着流しに襷を掛け、竹箒を槍のように構えて出陣した。
現場に着くなり、「お掃除しますか~? ロロロのロ~?」と、不自然すぎる江戸弁を路地に響かせる。
かつての次期本部長候補、今は「ロロロのあ兄き」こと、清掃も引き受ける探偵、あちねである。
■ ニャッキングとクロタン軍団
「……あちね殿、緊急事態です。私の計算機に、不論理なモフモフが侵入しました……ニャー」
「ポチ!? 今、語尾に何か言わなかったか?」
ポチの液晶画面には、いつの間にか「猫耳」を付けたポチのドット絵が、肉球を振り回して踊っている。
ミケタン星のクロタン族の凄腕、クロタン課長の手下――「クロタン軍団」によるサイバー攻撃、通称『ニャッキング』だ。
その時、団地の入り口に覆面パトカー(クラウン)が止まった。
「あちね。バケツを履いたまま箒を振るうとは、実に論理的ではない光景だな」
冷徹な眼鏡を光らせた氷室零だ。だが、彼の足元には既に数十匹の黒猫隊――クロタン軍団が忍び寄っていた。
「氷室! 貴様も掃除を手伝いに来たのか!」
「ふん、私はスマートシティの景観維持を視察に……なっ、なんだこの不潔な毛玉どもは!」
クロタン軍団が一斉に「お腹見せゴロン」を披露した瞬間、電柱のアマケロたちが「尊いケロ……」と撮影モードに突入し、都市監視網が完全に沈黙した。
■ 迷走の黒い円盤
そこへ、擬態を解いた女性支店長が、慌てた様子で駆け込んできた。
「あちねさん! クロタン課長が作った『う~ルンバ掃除機』が、偶然暴走しちゃったケロ!」
「う~ルンバ」は、あちねが掃き清めたばかりの廊下を、ゴミを逆噴射しながら爆走。あちねの『エゴイスト』の香りに反応し、なぜか氷室の高級靴を「ゴミ」と認識して吸い込もうと突っ込んでいく。
「待て! その靴はイタリア製だ、論理的じゃない!」
逃げ惑うエリート警視。
それを「撮影チャンス」と追いかけるアマケロ軍団。
猫にじゃれつかれ、竹箒が猫じゃらしと化したあちね。
「てやんでえ! 掃除をナメんじゃねえぞ、鉄の皿め!」
あちねは、偶然懐に入っていた練乳ボトルを握りしめ、バケツをガシャンと鳴らして暴走ルンバの追撃を開始した。
(中編へ続く)
結びの一句
春風や 箒で追うは 鉄の皿
『あちね殿、掃除の依頼が、いつの間にか宇宙戦争になっていますが、報酬は掃除代のままですよ』
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
『AIバディ・ポチの事件簿』、あちねとポチの凸凹コンビを、これからものんびり見守っていただけたら幸いです。




