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甘党探偵月影ましろ〜人魚姫にトリックスター〜  作者: ツキノ
2章 夏のアイスと這い寄る混沌〜トリックスター〜
6/20

6話 BRサーティワンに集いしものたち

 それは、6月半ばの時。放課後になった直後。ましろは屋上に来夢を呼び出した。


「話しとは……、一体なんなんですの?ましろさん」


 暑さを纏う風に吹かれていたましろは来夢に歩み寄り、その両手を握る。

 真剣な表情で来夢と向き合った。


「来夢……、ボクと付き合ってくれないかな?」

「……へ?」



 ◇◇◇



 青とピンクを基調とした看板と店内。

 レジ前のショーケース内に並ぶたくさんのフレーバー。


「ど、れ、に、し、よ、う、か、な」

(どうせこんなことだろうと思ってましたわ!)


 来夢の内心を露知らず、ましろは期間限定+31種類のフレーバーを相手にルーレットを繰り広げていた。


「よし、決めた!来夢は何にする?」

「ゆ、夕食前ですもの。カップのスモールのシングルでいいですわ。ええと、キャラメルリボンで……」

「370円です」

「ボクはカップのトリプルポップ!ポッピングシャワー、チョコレートミント、サーティワンラブで!」

「680円です」

「ああもうましろさんは!いいですわね太る心配がなくて!」


 店員からアイスを受け取り、2人はボックス席に座る。


「ああ……。夏に食べるアイスは最高だね!」

「アーバンさんからお給料の前狩りをしてまで食べに来るなんて……」

「チョコレートでコーティングされたポップロックキャンディのパチパチ感、ミントが強めの清涼感、ミントアイスクリームにレモンマシュマロの爽やか感……」

「聞いてませんわね」


 トリプルアイスを味わうましろに来夢は呆れてため息を溢す。


「あっれー。ましろクンじゃんおひさ」

「……」


 ましろが振り返ると、コーンのレギュラーサイズを片手に手を振る赤羽根榴姫あかばねるきの姿。手前で振り返りもせずに、黙々とアイスを食べているのは夜闇鴉よやみあろう


「チェリーの果肉がごろっと入ったバーガンディチェリーに、ピンクとパープルの甘くて優しいわたがし味のコットンキャンディ……。2種類のコーヒー豆を使用した、仄かな苦味とチョコレートソースにアーモンドの香ばしさが引き立つジャモカアーモンドファッジ……」

「……別にオレは甘いものが好きでもなんでもないからな。榴姫に請われて偶々来ただけだ」

「そこまで頼んでねぇっつうの。ただ帰り一緒に行かなーい?って軽く誘っただけじゃん」

「ふふふ。赤羽根さんは甘いもの結構好きだよね」

「うん。あ、今度2人で来る?」

「「なっ!?」」

「アハハ。冗談だって。間に受けるなよ鴉も望月サンも」

「……榴姫の冗談はあまり冗談には聞こえん」


 鴉は早々に食べ終わったコーンに巻いてあった紙をくしゃりと握り締めた。


「ねぇねぇ。サーティワンは31日間、毎日違うフレーバーのアイスクリームを楽しんでもらいたいって付けられたブランド名だけど、カップとかにBRって書かれているように、正式名称はバスキン・ロビンズなんだ。名前になった2人とも、アイスクリームが大好きで……」

「へぇ!私も食べてみたいわ!」

「え?」


 ましろがサーティワンの成り立ちを勝手に話していた最中に、甲高い声が割り込んできた。長い金髪の12歳くらいの少女。背には兎の鞄を背負っている。


「お嬢さん、お一人ですの?」

「ええ!まだこちらには来たばかりで……。この国のお金を持ってないの……」

「……やれやれ。31アイスクリームの美味しさを知ってもらうには仕方ないか……」


 ましろが席を立ち、レジに行くと少女も瞳を輝かせて後を追った。


「私、これと、これと、これがいいわ!」

「クリームチーズを使ったベイクドチーズケーキと甘酸っぱいストロベリーリボンが絶妙なストロベリーチーズケーキに、甘いバナナのバナナアンドストロベリー、苺の果肉と香り高い苺ピューレを使ったベリーベリーストロベリーだね。食べきれなかったらボクが食べるよ」


 当たり前のようにトリプルポップを注文するましろ。支払いは電子マネー。


「わぁい。いただきまーす!」

「ましろクン、フツーに奢ってるけど、この子どっから来たの?」

「おいひー!」

「そうだね。アイスを味わっているところ悪いけど、キミ、お名前は?」

「私は月白兎苺つきしろうい。よろしくね!」

「兎苺ちゃん、親御さんはどうしたんだい?」

「親?……そうね。深い眠りについているというか……」

「?」


 ましろが首を傾げると、兎苺は兎の鞄からゴソゴソと探り、赤い宝石を取り出した。


「はい。この国のお金を持ってないから、コレをお代として受け取ってね」

「……コレ、本物?」


 ましろが宝石をひとつまみする。真っ赤に光る綺麗なルビーだ。


「気に入らなかったら、こちらでもいいわ」


 と、兎苺が鞄の中にある卵を見せる。


「な、なんの卵ですの?それ……」


 結構な大きさの卵に来夢はギョッとした。


「あのね。シャンタク鳥の卵なの」

「シャンタク鳥って、お前──クトゥルフの物語ソネットか!?」


 店の中なので剣を出すことこそしないが、鴉を筆頭に警戒心を強めた。


「酷いわ。まだ何もしていないのに。私はただこっちの世界を見学しに──来たついでに、ちょっといい奴隷がいないか見に来ただけよ」

「ど、奴隷?!」


 兎苺の一言で、ましろはグラス……シュブ=ニグラスが言っていた眷属がどうのという話しの一連を思い出す。確か、クトゥルフ神話生物の間で、物語ソネットハンターたちを眷属にするのが流行っているのなんだの──


「アタシら物語ソネットハンターはモノじゃないんだ。奴隷とか、召使いですらお断りだっての」

「榴姫に同じくだ。……いつぞやの猫のように夢見で攫うのもナシだ」

「ふふふ。粋のいい人間たちね。悪くないわ」

「逆に気に入られてますけど、どうするんですのましろさん!?」

「うーん。グラスさんみたいに領域展開で顕現するとか、ルタルみたいに夢に連れて行くとかはしないんだね」


 ましろが尋ねると、兎苺ういは首を傾げる。


「……それがお望みなの?」

「いや。話し合いで済むならそれに越したことはないよ」

「……さっきも言った通り、今日はこの世界の見学に来ただけよ。私は普段、幻夢境の月の裏側に住んでいるわ」

「月の、裏側……」

「そこで私はムーンビーストと呼ばれているわ」

「それがキミの本当の名前なんだね」


 月棲獣。クトゥルフ好きの杉裏聡か、はてまた近衛このえのチャンネルのクトゥルフ有識者ならどういった生物なのか答えてくれるだろうか。今は兎苺ういが語ることが全てである。


「──探したよ、兎苺うい

「あ、羅斗らとさま!!」


 兎苺ういの甲高い声が店内に響く。思わぬ再会に、ましろは驚いて目を見開いた。


猫琉ねこるさん……」

「久しぶりだね、ましろくん」


 羅斗は被っていた帽子を外し、優雅にお辞儀をする。


「貴様、あの時の──」

「羅斗さま!ましろがアイスというモノを奢ってくれたの!」


 あろうの言葉を遮り、兎苺ういは瞳を輝かせてアイスを口にした。羅斗はやれやれといった表情でましろを見る。


兎苺ういは交渉が趣味でね。お金を持たせないほうがいいと思っていたんだが……。どうやら奢らせてしまったみたいだね。返そうか?」

「いえ。いいですよ。それよりも、猫琉さんと彼女の関係、聞いてもいいですか?」


 ましろが聞くと、羅斗は首を傾げて答えた。


「僕と彼女の関係?ここでは姪っ子みたいなものかな」

「姪っ子にさま付けで呼ばれるか、フツー」


 榴姫が突っ込むと、羅斗は苦笑する。


「ははは。そういうことにしておいてくれるかな?彼女、こっちには来たばかりで、今日は色々見てまわりたいんだ」

「……」


 ましろは羅斗を警戒して鞄の中のマドラーを手に忍ばせていた。兎苺ういや羅斗の脅威は未知数である。この場での戦闘は避けたい。


「──そう警戒しないでいい。僕らもここの人の暮らしを気に入っているんだ。むやみやたらに暴れる気はないさ」

「そうね!こんなに美味しいものを作れるお店を壊すなんて勿体無いもの。寧ろ交渉して回収したいくらい」


 ペロリとアイスを平らげた兎苺ういは、ましろにペコリと頭を下げた。


「ご馳走様!美味しかったわ……あっ!」


 お辞儀をした反動で、鞄の中に入っていたシャンタク鳥の卵が飛び出した。


「おっと!」


 ましろは慌てて卵をキャッチする。


「まあ。ありがとう。お礼にその卵は如何かしら?」

「結構ですわ。ウチにはラプスさんというマスコットキャラクターもいることですし」

「あはは……。そういうことだから、これはお返しするね」

「そう……。残念ね」


 兎苺ういはましろから卵を受け取り、再び鞄の中へとしまった。


「さあ。行こうか兎苺うい。今度は逸れないように、手を繋いで行こう」

「ええ!羅斗さま、今度は逸れないわ」


 手を繋いで歩く2人は、その正体を知らない者からすれば、普通に叔父と姪のように見える。


「……なんだったんだ、一体」

「ふう。……とりあえず、刺激しなければ何もなさそうで安心したよ」


 少し溶けてしまったアイスが入ったカップを片手に、ましろはスプーンを入れた。


「危うくシャンタク鳥?とやらを飼うところだったね」

「……ましろさん、コレ」

「ん?」


 ましろがスプーンを咥えているところに、来夢がボックス席の隅を指差した。

 置き去りにされた、もうひとつの卵だった。


「……え?」



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