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19話 召喚

「……ましろ先輩?」

「っ……!?」


 隣から聞こえる震えた声に意識を呼び戻される。セーブ地点、とでも言うべきだろうか。ンガイの森に入った直後まで、時間が巻き戻っている。


「え?ええっ?!」


 ましろは何も言わず身を屈ませてすみれを抱き締めた。暖かい身体。すみれはまだ生きている。

 すみれは突然のことに理解が追い付かず、頭の中が混乱している。


「ま、ましろ先輩!?きゅ、急にどうしたんですかっ!?」

「絶対にボクから離れないで。すみれちゃん」

「せ、先輩……?」


 すみれはましろに抱きしめられられつつも、ましろの声が少し震えていることに気付く。この得体の知れない森への恐怖心ではない、何かに。すみれはましろを落ち着かせる為、ましろに抱き付いた。片手でましろの頭を撫でる。


「大丈夫です、ましろ先輩。ましろ先輩の両手が塞がってしまうなら、こうしてしがみつきますから」

「……うん」


 2人でンガイの森から出る方法を考えなければ。


(夜闇鴉からの着信がない……)


 2周目、と言うべきか。1周目にはこの辺りで着信音が鳴り響いた筈だが、今回はそれがない。しかし、ましろは1周目で夜闇鴉から聞いた知識を持ち合わせている為、着信がなくとも……いや、その場にひとつの安心感を持たせるのであれば、夜闇鴉からの着信はあったほうが良かったのだが。


(確かこっちの方角にロッジがあった筈……)


 すみれの手をしっかりと握り、ましろは森の中を歩き出す。

 木々に覆われたロッジは程なくして見つかった。


(今度は夜闇さんも現れない……)


 ロッジ全体を覆う木の根を払うのには、すみれの手を離さなくてはならない。ましろはすみれの手を離すことに躊躇した。その様子を見て、すみれはましろの手を握り返す。


「……ましろ先輩。使ってください、魔法を」

「すみれちゃん……」

「大丈夫です。今度は、誰にも言いませんから」


 ましろは懐中電灯をポケットにしまい、スペルカードを顕現させる。


黒炎ノワール


 瞬く間に黒い炎がロッジを覆う木の根を焼き尽くした。


(この後、ロッジの中でレコードを触ったら不気味な音色のフルートと何かの呪文、男性が叫ぶメッセージが聞こえて……)


「ふんぐるい、むぐるうなふ、くとぅぐあ、ほまるはうと、うがあ=ぐああ、なふる、たぐん、いあ、くとぅぐあ」


 レコードから聞こえた呪文を、ましろは復唱する。


「ふんぐるい、むぐるうなふ、くとぅぐあ、ほまるふぁうと、うがあ=ぐああ、なふる、たぐん、いあ、くとぅぐあ」


 この呪文をフォーマルハウトが地平線上にある時、3回唱えなくてはならない。


「その呪文を唱える場所はご存知?」

「っ!?」


 聞き覚えのある声だったが、ましろは警戒してすみれを自分の後ろへと下げる。

 ましろに声を掛けたのは夜闇だった。


「ふふ。どうやら存じ上げないご様子。では、わたくしがご案内致しましょう」


 夜闇は敵か味方か。否、この薄暗い暗黒に満ちた森に2人きりの状態では判断がつかない。ましろは森から出る方法に近づくのであれば、藁にもすがる思いでいる。


「……ありがとう。助かります」

「ふふ。どう致しまして」


 月夜に照らされている夜闇は、まるで揶揄い甲斐のあるおもちゃを見つけたような表情を浮かべていた。



 ◆◆◆



「つきましたわ。こちらの座標が例の呪文を唱える場所です」


 その座標だけ木々には覆われていない、開けた場所になっている。夜空が見渡せる領域。ましろは大きく息を吸い込んだ。


「ふんぐるい、むぐるうなふ、くとぅぐあ、ほまるふぁうと、うがあ=ぐああ、なふる、たぐん、いあ、くとぅぐあ。ふんぐるい、むぐるうなふ、くとぅぐあ、ほまるふぁうと、うがあ=ぐああ、なふる、たぐん、いあ、くとぅぐあ。ふんぐるい、むぐるうなふ、くとぅぐあ、ほまるふぁうと、うがあ=ぐああ、なふる、たぐん、いあ、くとぅぐあ」


 草に隠れて刻んであった魔法陣が鈍く、赤く光り輝く。


「せ、先輩……!!」


 暗黒の森がまるで生きているかのように騒めく。

 ゲートのような黒い門が現れ、中から出てきたのは燃え盛る3枚の花弁の姿を持つ化け物だった。ましろはすみれを庇う為に乱暴に突き飛ばす。


「きゃっ!?」

黒炎ノワール!!」


 炎の化け物はましろの炎を喰らい尽くし、召喚者のましろを捕食しようと迫る。


「っ……!!」


 ましろは死を覚悟して咄嗟にポケットの中の銀の鍵に魔力を込めて握り締めた。



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