11話 星の落とし子
「皆さん、危険なので水の中には入らないでください!」
プールサイドで鵜久森がクトゥルフの物語領域展開に巻き込まれたナイトプールの利用者たちを誘導する。
プールは底なしになったかのように深くなっていた。水面がまるで深海のごとく黒々としている。
「きゃあ!何!?」
「ば、化け物!?」
カップルが指差す方向を見ると、螺旋階段の隣合わせになっているウォータースライダーから、タコに似た……しかし、口から複数の触手が生えた生物が何匹も滑り落ちてきていた。
「はあっ!!」
鵜久森がスペルカードを顕にし、双剣で化け物を薙ぎ払うと、化け物は黒い霧となり霧散する。
「上を目指す方と、ここで利用客を守る方に別れたほうが良さそうですわね」
「うん。そうだね」
「おい!さりげなく居残り組に混ざろうとするな!」
居残り組になりそうな雰囲気の鵜久森と綺羅々に歩み寄ろうとしたましろを、鴉が止めた。
「ましろはリーダーなんだから、上を目指す組じゃないとダメだよー。はい、浮き輪返すね」
「ボク、今回は役立たずだから直ちに追放されたい……」
「追放イベントなんて発生しないぞ。役立たずでもついて来てもらうからな!」
「夜闇さんが仲間思いで良かったじゃないですか、ましろさん」
綺羅々から浮き輪を受け取るましろ。居残り組側に居る林檎が、ましろに声をかけるとましろは項垂れた。
「うう……。ボクのことはいいから先に行って!なんて、言いたい気分だよ……」
『往生際が悪いよましろ。観念して僕らについてくるんだ』
ラプスは既に螺旋階段に登り始めている。水の流れはあれど、水圧はラプスでも前に進めるほど弱いようだ。
「私は箒で追わせてもらいますわ」
来夢はスペルカードで顕にした箒に横乗りになり、ゆっくりと浮上する。
「あっ、来夢!ボクを後ろに乗せる気はない?」
「ましろさんを乗せると、後方支援の際にバランスが取れなくなってしまいますわ」
「ダメかぁ……」
「フン。オレたちの後ろからついてくるんだな」
「ましろクンはアタシが守ってあげるから安心しなよー」
「わ、私だってましろさんをお守りしますわ!」
上空と地上でもバチバチと火花を散らす来夢と榴姫。鴉はロングソードを構えて螺旋階段を駆け上がった。
「あ、待ってよー」
ましろも浮き輪に身体を入れてから後に続く。殿はスペルカードで槍を顕にした榴姫に任せた。
「……なんだ、このドアは」
浮上した螺旋階段の中心の太い柱には、無数のドアが付いている。
「ふふふ……。気になるなら開けてみる?」
「いや、いい。時間のムダだ」
「ちょっとだけ……」
「あっ!おい!」
最初のドアを素通りした鴉の後から、ましろがドアを少しだけ開けて中を隙間から覗き込むと……暗闇の中で無数の赤い瞳らしきものがこちらをギョロリと見た。
ましろはそっとドアを閉めて見なかったフリをする。
「他のドアも気になるけど、開けないで進もう」
「だから最初からそう言ってるだろ!開けたら後始末を誰がすると思ってる!?」
怒鳴る鴉の先にあるドアが勝手に開き、中から透明なクラーケンが飛び出してきた。
「ちっ!言わんこっちゃない!」
「ぼ、ボクが開けたんじゃないからね!」
襲いかかってきたクラーケンを鴉はロングソードを両手で握り締め、真っ二つにする。真っ二つにされた身体が水に流され滑り落ちていく。
「クラーケンは北欧を中心に語り継がれる海洋怪物ですわ」
「クトゥルフとは違うじゃない?」
「……生みの親とも言えるラブクラフトは、タコやイカなどの海洋生物が苦手だったらしい。それらに対する恐怖心から生まれたのがクトゥルフ神話だという説もある」
「へぇ……。ウォータースライダーから落ちてくるのと違って霧散しないね。タコやイカに似てるけど、食べられるのかな?」
「人の話を聞いてるか?菓子を持たずとも食い気ばかりだな貴様は」
「たこ焼きでもイカ焼きでも、甘だれに漬けてくれれば味を感じるよ」
「海洋怪物を食おうとするな」
「さっきのドアの中にいた生物もタコに似てたなぁ」
「奉仕種族だかなんだかわからん生物も食おうとするな!ダイスイベントだぞ!」
「なんでダイス?」
TRPGを知らないましろにはダイスイベントの重要さがわからない。ましろは浮き輪を抱えながら首を傾げた。
「ええい!貴様と話してると埒があかない!先へ進むぞ!」
「たこ焼き……、イカ焼き……、そうだ!」
ましろはスペルカードを顕にし、次のドアの前でぴたりと止まる。
「黒炎」
すると、ドアの中にいる生物の絶叫が響き渡った。
「ましろクン、茹でたの?」
「うん。炎が効かないわけじゃないって今気付いたんだ」
「フン。少しは役に立てるようだな」
「では、一気に駆け上がるとしましょう」
来夢の上昇する速度が上がる。遅れを取らないようにましろたちは階段を駆け上がった。




