89話 決着
「アラヤ君は一体どうしたんだ⁈」
アラヤの異変に気付いたアルバス達は、アヤコとカオリの元へと駆け付ける。
「体が鱗状になってるぞ⁈」
「あの大蛇に噛まれたよね?何故か、蛇の方が逃げちゃったし、もうわけわかんないよ」
「あ、あれはね、特殊技能、そう、にいやのよ!竜人に変身できるの」
思い付きで口走ったカオリに、アヤコは大丈夫それで良いよと頷く。
「特殊技能か!やっぱり、アラヤ君は凄いな!」
アルバスは嘘を信じ込み関心している。何とか彼は誤魔化せた様だ。
「バカな!マンバの毒は効いてる筈だ!」
ゆっくりと体を起こして、一歩、また一歩と近付いてくるアラヤに、ゴウダ思わず後退してしまう。
「ヴェストリ‼︎何をしている!さっさと其奴らを人質に取って、コイツを止めるんだ!」
アラヤを止める為に人質を取れと叫ぶゴウダは、信じられない光景を見る。
ヴェストリの前にアヤコと銀狼が居て、彼女の話を真剣な表情でヴェストリが聞いているではないか。
「何をしてる!今捕まえろ!」
「断る‼︎」
「なっ⁈」
「金輪際、お前の命令には従わない!ヨウジ=ゴウダ!本日、只今をもって、貴様をヴェストリ商会から解雇する!」
「貴様‼︎まさか!」
ゴウダは地面に膝をつく。まさか!俺の特殊技能の条件がバレたというのか⁉︎
特殊技能【技能与奪】 主従関係にある対象の技能を、与奪する事ができる。使用する毎に所持している技能の熟練度経験値が減少する。
始めは脅しの為に多用していた。技能を多く手に入れたが、所持していた技能は軒並みLV 1へと落ちた。この特殊技能は、多用する程に器用貧乏になるのだ。
勇者や魔王を鑑定する為には、LV 5以上の熟練度が必要だ。
前世界から面倒だった荒垣達を陥れるには、奴等のステータスや技能を知る必要がある。その事に気付いた俺は、鑑定士狩りを始めた。
部下に招き入れては鑑定技能を奪い、鑑定の経験値を稼ぐ。そうやって熟練度を上げながら、大罪教団から情報を集めては、奴等を蹴落とす為に居場所等を美徳教団へと流した。
全て順調に進んでいた筈だったのに!何でこうなった⁈
「お前か⁈お前が吹き込んだのか?篠崎!」
ヴェストリの隣には、冷たい表情のアヤコが蔑んだ目でこちらを見ている。
この女を無能にしたばっかりに、俺はこんな事態に陥っているのか⁈
今のゴウダには、誰一人として仲間がいない。力で抑えつけていただけの関係は、彼を孤独に追いやったのだ。
「クックックッ、ああ、いいさ。味方は要らない。俺一人で相手してやるよ!」
自暴自棄になったゴウダは、高笑いをしだした。そして左手で自分の額を掴んで、右手の剣で軽く自身の脇腹を刺して詠唱を始める。
「戦と死の神、ヴォータンよ。己が血肉を捧げし我に、軍神と呼ばれしその力を貸し与えよ!その力を持ってーー」
ヘイスト、マイティガード、超集中、鈍感痛覚、平行思考、瞬歩、使える技能と魔法は全て使えるようにしておき、最高の状態で後半に繋ぐ。
「ーー我が命尽きるまで、生ける者全てを葬り給へ!ベルセルクル‼︎」
詠唱が終わると、ゴウダは急に苦しみ悶える。自分の腕に爪を立てて引っ掻き、白目をむいて地面に頭を擦り付けた。そこには自我があるとは思えない。
「おい、アイツヤバイんじゃないか⁉︎」
「ベルセルクル…確か、バーサークと同じで、狂戦士化する魔法だった筈…違いは、魔法の効果時間が、バーサークより長くて強力なものだったかな?」
カオリの説明よりも早く、その場に居た全員は理解できた。
ゴウダの姿は一瞬で消え、一番近くに居たアラヤではなく、最後尾に居たアヤコ目掛けて剣を振り下ろしていた。
「させない!」
すんでのところで、クララがゴウダに体当たりをして吹き飛ばす。この中で、一番無能な者、つまりは技能無しの者を本能的に狙ったのだろう。
「カオリさんは、仲間にヘイストを!サナエちゃんは踊りをお願い!」
アヤコは指示を出しながら、その場から離れる。今の自分は足手まといにしかならない。それなら、囮として皆んなが戦いやすい場所に誘導しなければならない。
狙い通り、ゴウダはアヤコを追ってきた。そこへ、強化されたアルバスとアニがゴウダを迎え撃つ。
まるで何かに憑依された様なゴウダは、剣技とは呼べないがむしゃらな斬撃を繰り出してくる。しかし、その威力と速さは2人を大幅に上回る。
2人は二撃程防ぎ躱したが、力押しで左右に吹き飛ばされる。
間髪入れずに、ソーリンとクララが立ち塞がるが、返り討ちにあい腕や足を斬られた。
カオリが足止めにアイスを足に放つが、難無く躱されてしまう。その動きは四足歩行に近く、正に戦う獣と化していた。
「アヤコさん!危ない!」
スタンとザップの攻撃も躱され、アヤコの頭上にゴウダは跳び上がった。
アヤコの頭を目掛けて、再び剣を振り下ろす。
「させるかぁ!」
ようやく正気に戻ったアラヤが、ゴウダの横腹に飛び蹴りを食らわせる。
ゴロゴロと転がるゴウダに、アラヤはそのまま掴みかかり、自身にグラビティを多重に掛けて体重を数十倍に上げた。
「ゴハァッ!」
ゴウダは地面にめり込み吐血した。幾ら体を強化してるとはいえ、内臓が少し潰れた様だ。
「奪われたものは、奪い返されるって知ってた?」
アラヤはそう言って、弱肉強食でゴウダの肩を噛みちぎる。精神耐性があるせいか、それとも人間らしさが無くなったのか、アラヤは同じ人であるゴウダの肉を食べる事に、抵抗を感じなかった。
『弱肉強食により、ヨウジ=ゴウダの全ての技能を食奪獲得しました。技能ーー』
今度は全ての技能を奪うことになった。おそらく蛇で、暴食王の職種レベルが上がったからだろう。ゴウダが覚えていた数々の技能の名が頭に聞こえている。
だがそれ以上に、アラヤは快楽で意識が飛びそうだった。ゴウダの上からよろけて倒れる。見上げた坑道の天井に、アヤコの顔がスッと現れてアラヤを覗きこんでいる。
「アラヤ君、後は任せて大丈夫だよ。じっくりと浸って良いよ」
その言葉で安心したのか、アラヤは意識を失った。ゴブリンキングの時と同様に、快楽に溺れて意識が堕ちたのだ。
「ぐ、生きて…いるのか⁈」
もはや動けないゴウダは、意識が回復したと同時に、自身が無能になっている事に気付いた。
「う、うわぁぁぁぁぁっ⁇⁈俺が、俺が?何で⁈何故だぁぁっ⁉︎」
発狂するゴウダの体を、ヴェストリが掴み上げる。
「この男の身柄はワシが預かって良いか?」
「どうする気ですか?これだけの事をした主犯ですよ?」
「この男は魔王の一人。教団に処罰は任せようと思う。無論、軽い罰になどさせないと誓おう。虫のいい話だが、この男が犯した罪は、ヴェストリ商会が償っていこうと考えているので、どうかこの場は見逃してもらえないだろうか?」
ヴェストリの真剣な目に、アルバスもアヤコ達に意見を求める。しばし考えたアヤコは、ゴウダの顔を思い切り殴った。
「これで貴方も能無しね!」
その一撃でスッキリしたわと、アヤコは満足して、後の事は任せる事にした。
「アラヤ君は気を失ったみたいだね。これは、流石に今回のクエストは中断だね?」
「はい。報酬の半分はお支払いしますので、次回、また機会があればお願いしますね?」
ソーリンが、遠慮するアルバス達にお金を渡し、アラヤを担いでデピッケルへと帰ってきた。因みに、カオリは部屋に着くなり寝てしまった。今回、戦闘中に死ななかった事には、大変感謝である。
その後、アラヤが目覚めるのに、5日掛かるのだった。




