82話 パーティープレイ
自分の2倍はある程の巨躯が、腹の肉が出た部分をタプタプとたゆませながら近付いてくる。片手には刃こぼれが酷い大きな斧が握られ、力任せに縦や横に振られるが当たる事は無い。
「コラ、アニ!遊んでないで数を減らすんだ!」
彼の放った強力な矢が、再び斧を振り上げたオークの腕を貫通して吹き飛ばした。
「分かってるよ、スタン。体も良い感じに温まってきた。今から上げていくよーっ!せいっ‼︎」
腕を失ってフラつくオークの腹に、彼女の拳がめり込んだ。その力は背中から破裂して抜けて、オークを絶命させる。
それからフットワークを活かして、次から次へとオークの攻撃を躱しながら、その巨躯を撃ち抜いていく。
「うぉっ⁉︎あれはシルバーファングか⁉︎」
オークの群れの中を、銀色の狼が駆け回っている。牙と爪で首や関節を切り裂きながら、オークの群れを翻弄していた。
「オークより厄介だぞ!今のうちに獲るか⁉︎」
動き回る銀狼の進む先を、照準に合わせようとスタンは意識を集中させる。
『お止め下さい!この子はクララ、私達の従獣です!』
突然、頭の中に思念が流れ込んできた。後方の馬車を見ると、1人の若い女性が御者台に姿を現して頭を下げる。
改めて良く確認すると、銀狼の首には確かに従獣の印が下げられていた。
「すると彼女は調教士か!」
「ねぇ、スタン!最近、狼ちゃんの噂聞いた気がするんだけど⁈」
駆け抜ける銀狼に負けじと、アニも攻撃のペースを上げならがら尋ねる。
「そういえば、つい先日にギルドで噂になってたな!狼を連れた行商人の護衛達が、盗賊団を幾つも壊滅させたとか。コイツ達の事だったか!」
「なるほどね、じゃあ、あの坊やがリーダーっぽいな。アルバス、お前も【弦月の牙】のリーダーの凄さを見せつけてやれ!」
ザップが派手にかませと、前方に居たオーク達の注意を引き付けてアルバスとスイッチ (入れ替わる)する。
「任せろ、孤月斬‼︎」
アルバスの渾身の一振りが飛ぶ斬撃となって、縦に並んだオーク達をまとめて真っ二つに寸断した。
「うわぁ、斬撃って本当に飛ぶんだ。漫画やゲームの世界だけかと思ってたよ」
その威力を遠目に見たアラヤは、エアカッターを頚動脈を狙って飛ばしながら、オークの群れへと飛び込んで行く。あそこまで威力は無くても効果はこれで充分だ。
ショートソードを鞘から抜いて、派手では無いが四肢の腱を狙って斬り刻んでいく。
体の自由が無くなったオーク達がバタバタと倒れていく途中で、周りから見えないように【弱肉強食】を使用して、一体のオークの首を噛み千切る。
『アラヤ君、感覚共有してないよ~⁉︎』
『あっ⁉︎ごめん‼︎』
一緒にいる時に特殊技能を使用する場合は、アヤコさんとサナエさんにも感覚共有を掛ける約束になっている。
少し遅れたが、2人に感覚共有を掛けて染み渡る快感を共有する。
「ああっ!まだ食べ足りないけど、人目があるからなぁ!」
のしかかるオークの遺体を押し退けて、残りのオークに突進する。ショートソードは鞘に戻して、オークの装備する鎧をタッチして回る。もちろん、誘爆性付与のオマケ付きでだが。近くに居た全てのオークに触れ終わると、直ぐに距離を取って手をかざす。
「フレイム‼︎」
一体のオークに火炎が当たった瞬間、周りのオークに誘爆して大爆発となる。
「うぉぉぉっ⁉︎」
突然の爆発に、オークも冒険者達も大注目だ。少し気持ち良すぎて、やり過ぎてしまったかもしれない。
『今ので、オーク達が逃げ出しました。追撃しますか?』
『そうだね、皆んなで殲滅戦としようか!』
「良かった、留守番は退屈でしたからね!」
「私も久しぶりに体を動かさないとね!」
ソーリンとサナエさんも、待ってましたと言わんばかりに武器を取り出して飛び出した。
楽しそうに戦う彼女達を見て、アルバス達は呆気に取られていた。
「ふぅ、片付いたみたいだね」
馬車前に集まった皆んなに、ウォータを大量に掛けて血を流し、直ぐ様ホットブローで衣類を乾かしていく。
「何か滅茶苦茶な人達だな」
目の前で行われる一連の流れを、ただ呆然と眺めている。あれだけ派手に魔法を使ったのに、このような些細なことにも惜しみなく魔法を使っている。この少年の魔力量は、ひょっとしたらフロウと同じくらいあるのではないか?
「そこまで戦えて、何故一つの商会の護衛だけをしているんだい?冒険者としても充分通用すると思うけど」
「ああ、ギルドに縛られたくないので、冒険者にはなる気はありません。バルグ商会とは家族ぐるみで仲良くさせて頂いてますから、これくらいは当然なんですよ」
全員を乾かし終えると、アラヤはアルバス達にも一応尋ねる。
「良かったら、洗います?」
「あ、いや…」
「は~い、お願いしま~す!」
断わろうとしたアルバスを押し退け、返り血で赤くなった拳闘士のアニが、我一番とアラヤの前に出る。
先程同様に洗い流して乾かして上げると、サッパリしたと喜んでいる。他の皆んなは対して汚れなかったからと、遠慮して断った。
「さて、再び出発してもいいかね?」
ガルムさんが、荷台から待ちくたびれたと顔を出して言った。
「はい、そうですね。出発しましょう」
オーク達の遺体も一箇所に集めて燃やしたし、近くに敵の気配はもう無い。時間にして僅か20分程の戦闘だったが、辺りの地形は来た時より荒れていた。
再び動き出した馬車の中で、アルバス達の話題はアラヤ達の事で持ちきりとなった。
「後から出てきた御者の槍捌き、あれはハルバードだったか?中々の腕前だったぞ?」
「俺は輪っかを持った可愛い子に釘付けだったね。オークも見惚れながら斬られてたぞ?」
「全員が戦闘要員だったとはな。それは護衛は要らないわけだ。納得だよ」
「あの少年、アラヤ君だっけ?魔術士じゃなくて魔法剣士だったんだね~。ひょっとして、リーダーと同じくらい強いんじゃない?」
「1人でも良いから、うちのパーティに参加して欲しいものだな」
「それは無理っぽいな」
全員は残念そうにハァとため息をついた。聞き耳を立てていたガルムは、フフッと見えないところで笑っていた。
「他人の戦い方も参考になるね」
後ろの馬車内でも、反省会が行われていた。と言っても、反省する点はあまり無いわけだけど。
「クララは今回、魔法は使わなかったんだね?」
「はい、必要無い、思ったです」
「確かにね。でも、アイスを足場に使った戦闘訓練なんかもできたかもしれないよね?」
「ああ、盲点、でした」
気付かなかったと、項垂れるクララの頭を撫でてあげると、結果、直ぐに立ち直る。
『オークを食べて、新たに何を覚えましたか?』
『えっとね、新たに覚えたのは、鈍感痛覚LV 1、絶倫LV 1だよ。持ってて熟練度レベルが上がったのは、超嗅覚がLV 2になった』
『絶倫⁉︎』
突然サナエさんが咳き込んで、クララがビクッと毛を逆立てた。
『それは大変、都合の良い偶然ですね』
『ん?どういう事?』
『いえ、何でもないです』
含みを持たせたアヤコさんと、顔を赤らめるサナエさん。何か企んでいるのか?
「ご主人様?」
「うん、何でもないよ」
まぁ気にしなくても大丈夫だろうと、クララのモフモフに頭を埋める。はぁ、やっぱり気持ち良いね。
クララも嬉しそうに尻尾を振り振りしている。
「ふぁぁ…。あれ?ちょっと、暗いんだけど⁈」
カオリさんが目覚めたようで、木箱の中で蓋を叩いている。
蓋を開けてあげると、既に馬車に乗っている事に気付いて、安堵のため息をついた。
「良かったわ。無事に王都は出れたのね。嫁入審査会議中に寝ちゃった (仮死状態)みたいで、心配してたんだよね」
「は?何その会議」
「あ…何でもない」
思いっきり目を逸らすカオリさん。またもや、俺の知らないところで話が進んでいたようだ。これは少し、アヤコさんにもガツンと言わないといけないようだね?




