78話 安全な場所
「改めてお礼を言うわ。連れ出してくれてありがとう…って、ちょっと聞いてる⁈」
「ひいへるよ」
口に食べ物が入った状態で話すアラヤ。というのも、アラヤ達は遅めの昼食を食べている真っ最中なのだ。
「だって5時間も君を見守っていたから、昼食べてないんだもぐもぐ…」
「前も思ったけど、にいやって本当に食べる事が好きよね」
「イッシキさん、何でアラヤをにいやと呼ぶんですか?それに、前もって?」
カオリの横にアヤコが座り、取り分けたチキンサラダを差し出す。
「にいやと呼ぶ理由?あれは確か、一年の三学期が始まった頃かしら。私の読みたい本を中々返却しない倉戸君の後を、こっそりと尾けてみたのよ。彼が、帰り道の商店街にあるお好み焼き屋に、毎日のように寄ってから帰る事に気付いてね。ある日、私も店に入って彼の死角になる席に座ったの」
(つまり、毎日尾行してたのね)
「そうしたら、店長が倉戸君にお好み焼きの超大盛りを持って来て、こう呼んでたの。「にいやん専用特大スペシャルお待ちどうさん!」「にいやん、新作お好み焼き食べてかんか?」って。私、苗字の倉戸は分かってたけど、名前の読みを知らなかったのよね。だから、倉戸新矢って名前なんだと思ったのよ」
(いや、それは兄やんでしょうね)
「その時も、美味しそうにバクバク食べてましたわね。あんな小さな体のどこに入るのかしらと不思議に思ったのを覚えてるわ」
今も同じような光景が目前で行われている。しかし、前回とは変わっている事がある。
「今更だけどさ、にいやの前髪、何で白髪になってるの?脱色したの?」
「んぐ?もぐもぐ、もごもご」
「分かりました、私が説明しますね」
食べることを止めないアラヤの代わりに、アヤコがこれまでの経緯を教える。
「……そんな事があったの。ゴブリンキングと一人で戦うなんて、無謀過ぎるわよ」
(前世界じゃ、イジメに反抗すらしなかったのに、男らしいところもあるじゃない)
どうせならば、私の側に居てくれれば良かったのにと、カオリはふと考えそうになった。
「アラヤ君、それで、彼女をこれからどうする予定ですかな?」
ガルムはお酒をぐいっと飲み干すと、そろそろ考えましょうと話を切り出した。
アラヤも口元を拭い、食事の時間は終わりにした。
「要点だけで言うと、先ずは王都から一時的に出る必要があり、次に安全な場所で生活させる事ですね」
「ふむ。今の王都には3人の勇者が居るとミネルバ様はおっしゃってましたな。確かに直ぐにでも離れるべきですが、問題は何処に向かうべきか…」
「俺としては、他の勇者が居る可能性がある初めての街には行きたくないから、一度デピッケルに戻ろうかなと考えてます」
「ヤブネカ村ではなく、デピッケルにかね?」
勇者が来そうにない点と、王都から離れる点でも、ヤブネカ村は最適な場所かもしれない。
「はい、少しデピッケルで作りたい物が有りまして」
「ほう。そういう事でしたら、私も付いて行きますかの」
新商品の開発と勘付いたガルムさんは、ニヤリと笑った後、そうと決まれば業務の引き継ぎをせねばと部屋を出て行った。
「後は、カオリさんの安全な場所の基準だけど、アヤコさんはどう考える?」
「そうですね。先ずは仮死状態に陥った時に、魔物や動物に襲われない場所というのが第一条件で、その上で他人にも見つからないようにしなければなりません。見つかれば、火葬か埋葬されちゃいますからね」
アヤコさんの脅かしに似た言い方に、カオリさんはヒイッっと悲鳴を上げる。
「第二条件は、美徳教団と大罪教団の施設が無い場所。村みたいな小規模な集落の方が良いと思います」
「大罪教団も無い方が良い理由は?彼女を支援してくれるかもしれないんでしょ?」
「情報は控えるべきだと思います。イッシキさんやミネルバ様のお話を聞いて感じたのですが、おそらく教団内部に美徳教団との内通者が居ます。それに、アラヤ君の存在がバレたらマズイですからね」
「なるほど。要約すると、両教団の施設が無くて、他人に対して関心が全く無い、村か町という事だね。…フユラ村みたいな場所かな?」
「確かに、他人の様子などは気にしていない閉鎖的な村でしたが、王都に割と近いので勇者の来訪の危険性があります」
「ん~、俺達が今知ってる場所では、候補は無いかな…。とりあえず、場所については保留だね」
「はい、バルグ商会の情報などを参考にして、探して行くしかありませんね」
「なんだ、私はてっきり一緒に旅するんだと思ってたよ」
皿を片付けていたサナエさんが、そんな事をポツリと呟いた。一緒に旅をする?だけどそれは、かなり危険だと思うんだけど。
「カオリさんって、ステータスはどうなの?」
「私?鑑定できないから分からないわ」
「あ~、そっか。なら、自分が分かる技能や魔法は分かる?」
「フフン、聞きたい?」
眼鏡を整えてキメ顔になったカオリさんは、自信ありげにキッパリと答えた。
「全属性魔法、中級まで無詠唱で使えるわ!技能は言語理解よ。それ以外は分からないわ。後は、生まれつき持ってるカメラアイかしら」
「中級魔法?それは見て見たいね。カメラアイって、サヴァン症候群の方達が持ってたりするっていう映像記憶みたいなやつ?」
「そうよ。覚えたいと思った事なら、写真みたいに切り取って覚えられるわ。だから、今まで読んだ本は、いつでもどこでも思い出す事ができるわ」
「あ!それなら、料理の本とか覚えてない?」
「何冊かあるわよ。作りたい料理があったら遠慮なく聞いて、土田さん」
大喜びするサナエさん。料理の種類が増えるのは、俺も素直に嬉しい。
「それは凄いね!ん~技能や特殊技能については、いろいろと試しながら見つけるしかないね。アヤコさん、お願いできる?」
「はい。任せて下さい。先ずは耐性から調べるとします」
カオリさんのステータス表作成は、アヤコさんに丸投げすることにした。こういう事はアヤコさんの得意分野かもしれないからね。
早速、麻痺針を取り出すあたり、彼女は恐怖の体験をするだろう。南無…
時間帯は夕方になり、ガルムさんがソーリンとクララを連れて帰ってきた。
クララは帰ってくるなりアラヤの足元で丸まる。撫でてもらうのを待っているのだ。期待通りに頭を優しく撫でてあげる。
「おかえり、クララ」
「アラヤさん、其方の疲労困憊している女性はどなた様ですか?」
ソーリンが、机に突っ伏しているカオリさんに気付いて尋ねる。うん、かなりの体験だったから、彼女は今ボロボロなんだよね。
「彼女はカオリ=イッシキ。俺達と同郷の友人なんだ。しばらく一緒に行動するからよろしくね?」
「分かりました。私はソーリン=バルグと申します。どうか、よろしくお願いします」
近くに寄って自己紹介をするソーリンは、彼女の様子にハッと青ざめた。
「し、し、し、死んでます!」
「「「あ…」」」
どうやら、今日三度目の仮死状態が来たみたいだ。慌てるソーリンに呪いの一種だと簡単な説明をする。
「まぁ、冬眠みたいな感じで、一度仮死状態になると5時間は起きないんだ」
「それは、なんて不憫な方なんでしょう。是非とも力になってあげたいですね!」
「ま、まぁね。一応、そのつもりだよ」
カオリをベッドへと移動させて寝かしておく。こうすれば一見、寝ているだけに見える。
「それでガルムさん、出発はいつ頃できそうですか?」
「うむ。引き継ぎは頑張っても明後日になりそうだ。ソーリンのルート作りも中断して、馬車は二台で向かおうと考えている。良かったかね?」
「分かりました、それで構いません。明日は目立たないように、ここでゆっくりとしますよ」
外出は勇者と出会いそうで怖いし、買い物は一階のバルグ商店で買えば済む話だからね。コンビニがあるマンションって、こんな感じなんだろうなぁ。この世界でも、いつかは増えていくのかなと、だいぶ先の未来を考えるアラヤだった。




