69話 王女との座談会
アラヤの目の前に、トーマスから金貨の入った袋が差し出される。
「何ですか、このお金は?」
「盗賊団捕縛の報酬となるお金だった」
「だった?今は違うんですか?」
「この金は、冒険者ギルドに出された依頼報酬だ。ところが昨日、当の盗賊達は冒険者に捕縛されるよりも先に、どこかの商人達にまとめて捕まったらしい。従って、この金は手数料だけを引かれて、依頼者に返金される。どこかの商人達って、アラヤ殿達だろ?」
「さぁ?知りませんけど。捕まったなら良かったじゃないですか」
おそらくは昨日の盗賊団の事だろう。大体、絡まれたからやり返したに過ぎない。誰にも迷惑かけてないなら、問題無いでしょう?
「その盗賊団の名は?」
「穴熊盗賊団、鷹の爪盗賊団、鉄の牙盗賊団だ。此奴らは冒険者崩れのならず者の集まりで、低ランクの冒険者じゃ歯が立たなかった。高ランクの冒険者で追い詰めようとすれば、別の盗賊団が手引きして逃げられちまう。衛兵達も手を焼いていたから、王城で引きこもりのアンタも、流石に聞いた事があるだろ?」
「ああ、引きこもりでは無いが、聞いたことはある。元々は別々の縄張りを持つ盗賊団だったが、最近では徒党を組んで人々を苦しめていると聞いた。其奴ら全員が捕まったのか?」
「少しは残党は居るだろうが、リーダー格は全員捕まった。解体されたとみていいだろうな。今は、仲が悪かった奴等がどうして徒党を組んだのかを聞き出しているところだ」
「その盗賊団達を、アラヤ殿達が捕まえたというのか?」
どうやら、王都では有名な盗賊団だったらしい。確かに気配感知が無いと、あの奇襲には中々対応できないかもしれないな。
「アラヤ殿、この機会に是非冒険者にならないか?そうすれば、この報酬は君の金になるし、今なら俺の特権でBランクスタートにしてもいいぞ?」
「おいおい、ギルドマスターとはいえ、そんな特権は無いだろう?そもそも、彼はバルグ商会の護衛兼鑑定士だぞ?」
リッセンさん、貴方にもそんな情報を教えてませんけど?王都に着いて2日目だというのに、既にいろいろと調べられてるみたいだね。
「ほう、鑑定の技能も持っているのか。ならばAランクだな」
「俺じゃありません。冒険者になるつもりもありません。では、従獣登録を済ませて帰りますので失礼します」
話に付き合ってられないので、部屋を去ろうとアラヤとクララは立ち上がる。
「盗賊団は、皆揃ってこう証言している。白髪混じりの子供と銀狼に、襲う前に襲われたとね」
「偶然にも似た人が居たのでしょう」
アラヤは動じない表情でそのまま応接室から退室した。
「そんな偶然、あるわけ無いだろうが」
トーマスは、またも逃げられたかとソファにどっしりと座る。
「本当に彼がやったと言うのか?」
「ん?なんだ、アラヤ殿の強さを知らないのか?彼はああ見えて、ドワーフ並の身体能力を持っているし、魔法も多数使える。盗賊団が捕まったと聞いた時、彼なら間違い無くできるだろうと確信して迷わなかったがね」
「…なるほど」
実力はあるが目立とうとはせず、金や栄光の証はいらないと言う。まだ完全に信用できるわけでは無いが、リッセンの心内では少なくとも好感が持てる人物として、評価が少し上がっていた。
「なんだ、俺はてっきり王家の護衛に、アラヤ殿を引き抜こうとしてるかと思っていた。違うなら邪魔はしないでくれよ?彼は冒険者ギルドに入れるつもりだからな?」
「別に邪魔はしない。彼がどんな人物か知りたかっただけだ」
リッセンはそう答えると、アラヤの後を追いかけた。しかし、ギルド内にはもう彼の姿を見つけられなかった。
「ふぅ、面倒事はごめんだね」
アラヤは、手続きが終わると直ぐにギルドから出て、繁華街をクララとぶらぶら歩いていた。クララの首には、従獣の証である鎖の首輪が嵌められている。
「クララ、首は苦しくない?」
「大丈夫。おそらく、魔法で収縮する、みたい」
「そっか、なら良かった。肉でも買って帰ろうか」
「肉?肉!」
嬉しいらしく、尻尾がフリフリと揺れている。さっきまで少し怖がって見ていた周りの通行人も、その愛らしい姿を見てほっこりしている。
「毎度あり!」
精肉店で買った肉から、一塊りを取り出してクララに与え、自分は骨付き肉をフレイムで軽く焼いて、食べながらバルグ商会へと帰った。帰ったら、アヤコさんに食べ歩きを注意されたけど、次は皆んな一緒に行こうと言ったら許してくれた。
「さて、明日はミネルバ王女の座談会に出席するわけだが、注意する点は分かるかね?」
バルグ商会の三階には、社員専用の宿泊できる部屋が少数あり、そこにアラヤ達は泊まっていた。今はその一室に、明日の座談会に参加する四人が集まっていた。
「えっと、質問された事だけを答えて、こちらからは質問しない。あと、イッシキ=カオリの事はこちらからは聞かない」
「うむ、その通り。あくまで聞かれた事だけを答えれば良いです。また、最初からイッシキ殿が部屋に居た場合、知らんぷりもできないでしょうから、各自適当に話を合わせて構いません。ただし、ミネルバ王女に次の話は禁句です。一つ、第1、第2王女の話。二つ、年齢の話」
「分かりました」
ガルムさんが仕入れた情報では、ミネルバ王女は先代の王妃の第1、第2王女と関係がよろしく無いという。国王が、彼女を溺愛しているのも原因の一つかもしれない。
年齢を禁句にしなければならない理由は、単に子供扱いされる事を非常に嫌うらしい。
以前、二つの禁句を話した者が居て、その者は半年間もの間、地下牢に幽閉されたらしい。
「それでは、明日は気を引き締めて対処するとしよう」
ガルムさんとしては、無難に終わる事を願っているようだが、アラヤ達としては、一色 香織と面会することが目標である。彼女には聞きたいことが山ほどあるからね。
翌日、正装に着替えたアラヤ達四人は、ラエテマ王国王城に馬車を走らせた。
跳ね橋を渡り城内に入ると、鎧を着ているリッセンと、別の護衛兵が出迎えてくれた。
「本日は、良くおいで下さいました。今から、ミネルバ王女様の御前に案内致します」
四人は馬車を降りて、彼等の後について行く。王宮は、外装だけでなく内装も素晴らしく、アラヤ達はつい、キョロキョロとしてしまう。本当に田舎者だから仕方ないと思うんだ。
案内された先にも、一室の扉の左右に護衛兵が待機していた。彼等のアラヤ達に対する目つきは、やはり警戒しているようだった。
「ミネルバ王女様、ガルム殿達をお連れしました」
「分かりました。どうぞ、お入りなさい」
そう聞こえると、部屋内から侍女達により扉が開かれる。
室内に一礼してから入ると、侍女達が四人、護衛兵が二人。部屋の隅で待機している。そして、部屋の中央には、可愛らしい金髪の少女、ミネルバ王女が一人で座っていた。どうやら一色 香織の姿は無いようだ。
「よくぞ参られました、ガルム=バルグ殿。そしてアラヤ=グラコ殿と奥方達。私が、ラエテマ王国第3王女、ミネルバ=ラエテマでございます」
四人は片膝をつき、深々と頭を下げる。
「この度は、お呼び頂き恐悦至極にございます」
「堅苦しい挨拶は必要ありません。どうぞ、お座りくださいませ」
とても10歳には思えない立ち居振る舞いに、幼いながらにも王女としての風格を感じた。四人はソファへと腰を下ろす。侍女が紅茶を入れて皆に配っていく。
「早速ですが、お話を聞かせて頂きましょうか」
ガルムさんは、ゆっくり丁寧に、アラヤ達と製作に至るまでの話を説明し始めた。もちろん、いろいろと脚色を入れているのだけど。四人は、王女の機嫌を損なわない様に、話せる最低限のことを語るのだった。




