06話 空き家と食事
三人は立ち尽くしていた。
目の前には、カタカタと外れ掛かった玄関の扉。壁の周りには腰の高さまである雑草が生い茂っている。
「此処が、君達の新しい住まいだよ!長年放置されてたから、#どこかしら__・__#?傷んでる所が有るかもしれないけど、自分達で住みやすくなるように頑張ってくれ」
この村長、本当に放置していたんだなぁ。まぁ、立地的にも村の隅だから手が回らなかったのかな?
「とりあえず、今日は仕事はいいから、掃除とかに専念しな。必要な物があるかい?」
『…って聞いてますけど、どうします?』
『それなら、服と雑巾。あと、木材とか貰える場所を聞いてくれ』
「あの、服と雑巾を貰えますか?流石に着替えたいですので。あと、修復用に板等を貰える場所を教えて欲しいです」
「ああ、分かった。それだけで良いんだね?じゃあ、アヤコは付いて来なさい」
『貰えるらしいので、ちょっと行って来ますね』
アヤコが村長に連れられて出て行くと、アラヤは家の中へと入ってみた。室内は吹き抜けで、腰壁と床は板張り。それ以外は土壁である。間取りは、広めの居間と六畳程の個室が二部屋。埃や蜘蛛の巣の量が、人の訪れが長年無かったのを物語っている。
家具やらは、机と椅子が四つあるくらいで、箪笥等の収納は無い。
「サナエさん、窓を全部開けてくれる?俺は机と椅子を出すから」
「分かった。でも、何かする気?」
「うん、今から清掃時間だよ」
サナエは、いかにも嫌そうな表情で溜め息をついた。掃除は大事だよ?
窓や扉を全て開き、少ない家具を全て外に出し終えると、サナエには家から離れてもらう。
「清掃するんじゃないの?」
「するよ。先ずは室内を水洗いだね」
アラヤは、水属性魔法のバブルショットで、室内を次々と覆って行く。その後にウォータで汚れた泡を室外へと流した。
仕上げに風属性のホットブローで乾かしていく。どれも、本来は攻撃魔法として使えるやつだけどね。
「魔法は便利過ぎだな」
する事無いじゃん。と、サナエは椅子に座っている。
「品物が何も無いから出来るんだよ。魔法は威力が強過ぎて、小物とかは壊れてしまうよ。今のも、かなり威力を抑えてたんだ。だから、机や椅子は雑巾で拭くしかないよ」
「ふ~ん。まぁ、使えるだけでも凄いと思うけどね」
「まぁね。今度は草刈りするから、サナエさんは危ないから机と椅子をもう少し退かして隠れててね」
今度は、外壁付近の雑草をエアカッターで斬り倒す。うん、早くていいね。草刈機なんて要らないや。
「きゃっ‼︎」
「‼︎⁉︎」
草を払っていた先に、アヤコさんが来てしまった。エアカッターは大分手前で消滅していたが、余波が彼女の腕に小さな切り傷を付けてしまった。
「ごめん!大丈夫?今すぐヒールを…」
「大丈夫、本当にかすり傷だから、魔法なんて必要ないよ?」
自分の不注意だから、そういうわけにもいかない。
「そうねぇ、唾でもつけとけば治ると思うよ。アラヤに舐めてもらったら?」
「はぇぇぇっ⁈」
「え、あ、いや、それはおかしいでしょ⁈」
サナエの突然の提案に、俺とアヤコさんは動揺する。唾をつけるなら分かるが、舐めるなんて変態じみた事許される訳ないですよね?
「ええぇぇぇぇっ⁈」
アヤコさんを見たら、顔を真っ赤にして腕を差し出している。
いいの?いいのか?
その柔らかそうな細い腕に、思わず喉を鳴らしてしまう。
恐る恐る腕を掴み、ゆっくりと少し垂れている血をペロッと舐める。
「ひゃぅっ‼︎」
「うわっ、マジでやった…引くわ~」
「ええっ⁈舐めろって言ったじゃん!」
アヤコさんは、しゃがみ込み震えている。俺、めっちゃ、変態扱いじゃないか!サナエさんはお腹を抱えて笑っている。
こんちくしょうめ!ちょっとだけ、ほんのちょっとだけど……良い体験できたかも。
「ご、ごめんね?アヤコさん」
「い、いえ。こちらこそ。あ、そうだ!服と雑巾を貰って来ましたよ。後、木のバケツも」
流石、アヤコさんは気が利くね。
早速、木のバケツに水属性魔法で水を入れて溜める。これで机と椅子を拭いてもらう。その間に、俺は室内の破損箇所を点検してまわる。屋根裏から空が見える箇所が三箇所。土壁の崩れた箇所が五箇所。板壁の腐った箇所が10箇所くらいかな。
「アヤコさん、板材貰える場所は聞いてくれた?」
「はい。村の入り口手前から、右に二軒目が製材所らしいです」
俺は早速、板材を貰いに走る。後ろでアヤコさんの声が聞こえた気がするが、早く修繕工事を終わらせるには、もうちょっと急がないとね。割と全力疾走で、直ぐに入り口が見えて来た。
その途中でちょっとした目眩に襲われる。
『血液捕食による言語理解が技能吸収が80%、感覚共有が20%になりました。捕食量不足により習得出来ません』
これは、さっきのペロリでの変化か!量が少ないから今回は習得出来なかったわけね。これで血液を舐める事による技能習得は証明されたわけだ。でも、今回みたいな事はそうそう無いよね。
少し思い出してしまい恥ずかしくなった。いかんいかん。気を取り直して再び製材所に向かう。
目的の建物が見えて来るに連れて、シャーッ、シャーッという音が聞こえてくる。
「あの~」
扉を開けて中の人を呼ぶ。すると、捩り鉢巻きをした強面の男性が、鉋を片手に持ち不機嫌そうにやって来た。
「☆%$$%#♪○☆→?‼︎」
しまった!言葉分からないんだった!しかも服装は血だらけの制服のままだ。めっちゃ不審人物だよ!
「○*→*☆%$*○☆」
そこへ、このタイミングで後ろからライナスが現れた。強面の男と何やら話している。こっちをチラチラ見る強面の男。
しばらくして、ライナスが手招きする。ゆっくり近付くと、まとめてある板材と釘が目の前にドスッと置かれた。見上げると、強面の男がニヤッと笑い更に強面になっている。
どうやらライナスが話をつけてくれたらしい。俺は深々と頭を下げて、板材を持って家に帰った。
「もう、私の話を聞かずに行っちゃうんですもの。言葉分からないんですから、アラヤ君には私が必要なんですよ?」
「あはは。ごめんごめん。うっかりしてたよ。でも、前もって準備してあった気がするんだけどね。気のせいかな?」
今はともかく、出来る修復工事をやっちゃおう。二人にも手伝ってもらい、何とか夕方までに終わった。まぁ、出来はお世辞にも上手いとは言えないけどね。今回は応急処置って事で我慢してもらおう。
「そういえば、村長さんが夕食は村の中央に来なさいって言ってました」
「村の中央に?」
「はい。そこで食べるらしいですよ」
とりあえず、俺達は頂いた服に着替えた。三人とも、色は違えど薄い綿製の半袖と長ズボンだ。
「ちょっと胸が窮屈ですね」
「そ、そう?」
「俺のはちょっと、ぶかぶかだなぁ」
「それなら子供用「これでピッタリだよ!」…」
さぁ、着替えた事だし向かうとしよう。
言われたとおりに村の中央に向かうと、何やら賑やかな家がある。窓から三人の姿に気付いた村長が、こっちを手招いてる。どうやらあの家で食べるらしい。
「こんばんわ~」
「やっと来たね。さぁ、早く座りな?この村では、ご飯はこの家で皆んなと食べるのが決まりだよ!」
室内は長机と長椅子が沢山並び、机の上には沢山のサラダとスープとパンが並べてある。その前で、木のコップを片手にこちらを見つめる村人達。ライナスも、あの強面の男もいる。三人は、空いている村長の隣に座る。
村長が目の前のコップに水らしき液体を注いでくれる。
「それじゃあ、新しい住人に!今夜の命の恵みに!乾杯‼︎」
村人全員が、コップを上に掲げて村長に続く。アラヤ達も真似て掲げた。軽くコップ同士で打ち鳴らす。これは万国共通なのかね?
「今日から君達はこの村の家族だ。よろしくな?」
村長の優しい笑顔に、この人は格好良い大人だなと三人は感心した。この人柄に、村人達は信頼してるんだろうなと。
三人も村人同様にコップの水を飲む。
ブーーッ‼︎
三人揃って吹き出した!思いっきりお酒じゃん‼︎匂いがしないから分からなかったよ!目の前の人、ごめんなさい!悪いのは、未成年者に酒を注いで大笑いしてるこの人です。