07話 足りない物と初仕事
久しぶりの賑やかな食事(前世界も含む)を済ませた後、三人は家に帰って来た。真っ暗なので、ランプを一つ持たされた。そのランプを部屋の中央に置く。
「言葉は分からないけど、楽しかったね」
「フフフ、お酒だったのはびっくりしちゃったけど」
「…二人共、ちょっといいかな?」
「ん?どうした、あらたまって…」
「実は……布団が無いんだよね。寝る時の事を考えてなかった…」
うっかり過ぎる。はぁ…頼られる身でありながら、俺はダメダメだね。
「まぁ、足りない物は増やして行けばいいでしょ?私もアヤも気付いてなかったし、今日は仕方ないよ」
「そうだよ。それに、足りない物がどれだけあるか、今からお話ししましょう?」
「そうだね。じゃあ、皆んなで取り上げてみようか」
必要な物リスト (優先順)
トイレ ベッド 毛布 お風呂 服 タンス 食器類(水筒類も含む) 身嗜み道具 武器 通貨 etc…
おおぉぉ……早速、トイレの問題を忘れていた事に気付く。女性にとっては最重要ではないかぁぁぁっ⁈
「ごめん、本当にごめん」
「だからいいって。私達は、さっきの食堂らしき家ので済ませたからさ。明日の最重要案件として、扱ってくれればね」
はい。必ずどうにかします。
「そういえば、明日からは仕事もしなきゃいけませんよ?確か村長さんは、私には村長宅の掃除で、サナエちゃんには村長さんの助手、アラヤ君にはライナスさんの手伝いって言ってたね」
「そうだったね。村長さんの助手も、部屋の片付けも…大変そうだね。ライナスさんの手伝いって、あの人は守衛だったよね?手伝いって何するんだろ…」
「とにかく、頑張らないとですね。ふぁぁっ…ちょっと眠くなってきました」
アヤコさんの欠伸に釣られて俺も欠伸をする。
「そうですね。そろそろ寝ましょうか」
ランプの灯りを消して、今日はもう寝る事にした。とは言っても、今日は座った状態で机に突っ伏して寝る形になるんだけど。いわゆる授業中の居眠りスタイルだね。これでも何とか寝られるものだ。ただし、起きた時にはどちらかの腕が痛くなっている事が多いけど。
次の朝。目をゆっくりと開けると、目の前にはサナエさんの顔があった。
「ふふ、ヨダレ出てんぞ」
「わわっ⁈びっくりした…」
二日連続で、サナエさんに寝起きを見られてるな。急いで口元のヨダレ跡を腕でゴシゴシと拭く。
「おはよう、チビ」
「うん、おはよう。何とか眠れた?」
「まぁ、ね。熟睡では無いけれど。昨日よりは不安は、少しは和らいだかな…」
その言葉と表情には悲しさがある。確かに、そう簡単にあの光景は克服出来ないよね。悪夢となっても仕方ない。
向かい側で、気持ち良さそうに寝ているこの人の場合は分からないけど。
「なんか、印象変わったよなぁ」
アヤコさんの寝顔、やっぱり可愛いな。
「それを言ったら、チビもだろ。なぁ、チビ。あんたは………やっぱり、いいや」
「へ?何?」
何か言い掛けて止めるなんて、モヤっとするよ?
「いや、アヤもいい加減、狸寝入りやめなきゃ、初仕事に遅れると思っただけさ」
「ふ、ふぁぁっ…あ、二人共、おはよう」
うわぁ、凄いわざとらしい。本当に狸寝入りしてたのか。
「おはよう。村長のところに行くんだろ?私だけ先に行っても良かったけど、言葉分からない上に、あの人苦手なタイプなんだよね」
「置いて行こうなんて思わないでよ~」
「はい、とりあえず洗面用の水を用意したよ」
じゃれ合う二人に、新しい水を入れたバケツを差し出す。
「ありがとうございます」
二人は洗面を終えて顔を拭くと、さっぱりしたと喜んでくれた。
「ああ、アヤコさん。今日も村の情報を聴けるだけ聴いてもらえる?早く、ここの生活に慣れる為にも色々知りたいからさ」
「分かりました。お昼も昨日の食堂で食べるらしいので、その時にお話ししますね」
二人が向かうのを見送って、俺は部屋へと舞い戻る。目の前には、二人が使用した使用済みの洗面水。
良し、じゃあ俺も顔を洗ってみようかな?決して変態的な行為じゃないよ?これはあくまでも、捕食の実験だからね?
バシャバシャと顔を洗って、皮膚に浸透させてみる。しばらくしても、あの声は聞こえない。ならば…一掬いして飲んでみる。
やはり声は聞こえない。薄まり過ぎて効果は無いようだ。やはり、血肉を捕食した方が効率良く吸収されるらしい。
「はぁ…そろそろ行くか」
気持ちを切り替えて、アラヤは村の入り口へと向かった。入り口には既にライナスが、他の守衛と待っていた。
「おう、おはよう!今日はよろしくな!」
相変わらず何と言ってるかは分からないけど、大体の予想で挨拶だろうと思い一礼する。
「良し!じゃあ、今日の予定を言うぞ?先ずは、村の各所を俺と二人で見回りをする。その先で困っている者には手を貸す事。次は村の防御壁の確認に回る。傷んだ場所は直ちに修復だ。これを午前と午後に一回ずつ行う予定だ。大体伝わったかな?」
もの凄いジェスチャーと、地面に描きながらの説明で何となく理解できた。
頷いたアラヤを分かったものと決めて、ライナスは付いて来いと歩き出した。
一方で、アヤコとサナエは、村長宅の一室で苦笑いをしていた。
「昨日の今日で、更に散らかるってどうなの?」
唯一の聖域だった客間も、今は見るも無残な状態だ。
「あ~、来たね~二人共。おはようさん」
メリダは崩れた書物の中から、ヌッと頭だけを出している。頭には開いた本が乗ったままだ。
「お、おはようございます。どうやったらそんな所で寝るんです?」
「ん~。お酒飲み過ぎた次の日は、いつもこんな感じかな~?」
のそのそと這い出して来ると、サナエの手を掴んだ。
「君は私と作業場に行こうか。んじゃ、片付けよろしくね~?」
「へ?あ、ちょっと!」
サナエは、村長に引っ張られながら、裏口へと消えて行った。一人残されたアヤコは、辺りを見回して溜め息をつく。
「……やるか!」
パン!と手を叩き、自分に気合いを入れ直すと、手前の本の山から作業に取り掛かった。




