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スキルが美味しいなんて知らなかったよ⁉︎  作者: テルボン
第4章 魔王と呼ばれているなんて知らなかったよ⁈
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53話 説得

「…という街もあるんですよ。どうです?行ってみたくありませんか?」


夕食中になっても、ソーリンはアラヤの隣に座って、各地を旅する楽しさを訴えてくる。


「そりゃあ、行ってみたい気はあるよ?でも、刺激的な旅より、のんびりと過ごしたいんだよね」


「のんびりですか。私にはあまり理解できませんね。ドワーフにとって、時間はとても貴重だと思っていますので、今できる事は今やるべきと考えて、のんびり過ごすのは抵抗があります」


「それは、その時間が有意義と感じるかで変わると思うけど。それよりも、ソイ豆の発酵ペーストを使った料理、とても美味しいよ。ソーリンも食べてみてよ」


「…確かに美味しいですね。デピッケルでは定番の調味料なんですけど、この村の料理にも合って良かったです」


「だよね。サナエさん、おかわりをお願い」


アラヤの食べっぷりには、ソーリンも感心してしまう。既に5回目のおかわりである。この小さな体にはいくらでも入るのだろうか?野営の時もだったが、討伐した魔物の肉を美味しそうに食べていた。食べる時のアラヤは、とても幸せそうに食べている。


「…あ!」


何かを閃いたソーリンはニヤッと笑った。


夕食が終わり、アラヤ達の自宅にソーリンも来ていた。今夜はアラヤ宅に泊まる事になっている為だ。


「このトイレ、水が溜まっているのは何故です⁈」


「ああ、匂いが逆流しないようにせき止めてるんだよ。このレバーを回せば、汚物が流れて再び水が溜まる仕組みになっているんだ」


ソーリンが、早速トイレが違う事に気付いて興奮している。


「デピッケルのトイレは、水で流すだけでしたから、匂い戻りは便座蓋のみで塞いでいました。どの家庭も香草の香りで誤魔化していましたが、この便器なら助かりますね。しかも、この美しく強度もある陶磁器の便座、メリダさんが作ったんですか?」


「そうだよ。メリダさんじゃないと、そう簡単には作れない作品なんだよね」


「これは一つしかないんですか?」


「これは試作品だよ。完成品は来月、ガルムさんが来た時に見せる予定だったんだけどね」


「そうですか。父に出品して頂けるなら安心ですね。アラヤさん、流石は共同開発者ですね。これは間違いなく売れますよ」


「でも、生産性が低いよ?メリダさんと同等の陶芸家を確保できるの?」


「同等である必要は有りませんよ。量産するのは機能性だけが再現できた作品で大丈夫です。メリダさんが作った作品は芸術性が高いので高級品として取り扱います。貴族達相手用に販売したいと考えてます」


「そういえば気になったんだけど、俺の作った作品って、何が一番売れてるの?」


銀行に入っていた金額、将棋であそこまで稼げるとは思えないし。


「数で一番売れてるのは将棋ですけど、売り上げが高いのはカヌーですね。湿地帯の多いペンゲル湿原などで、物流や移動に便利だと多く売り上げてますよ」


なるほどカヌーか。利用価値のある場所があったんだね。やっと納得できたよ。


「トイレの前でいつまでも話してないで、お風呂に入ったらどう?」


サナエさんが、気を利かせてお風呂を沸かしてくれたらしい。家に大浴場があるソーリンには、五右衛門風呂を見せるのは少し恥ずかしいけどね。


「自分達でここまで作るなんて、充分凄いですよ」


狭い五右衛門風呂でも、ソーリンは堪能してくれたようだ。

全員がお風呂を済ませ、後は寝るわけだけど、ソーリンはアラヤと同じ部屋で当然寝る。ただ、ベッドは一つしかないからアラヤは床に布団を敷いて寝る。


「なんか、すみません」


「お客さんに、床に寝させるわけにはいかないよ。気にしなくていい」


「おやすみなさい」


「うん、おやすみ」


二人は明かりを消して眠りについた。

翌朝、目が覚めるとソーリンの姿が無い。起きて居間に行くと、既にアヤコさんとサナエさんが居て椅子に座っている。その二人の前には料理が並べてあった。


「おはよう、アラヤ」


「アラヤ君、おはようございます。これ、ソーリン君が作ったんですよ」


「これって…」


香りが強い、黄土色に近いソースが野菜に掛けられている。前世界のカレーを彷彿とさせる料理だ。若干、匂いは山椒やレモンに似た香りがする。


「ああ、起きましたね、アラヤさん。おはようございます!」


「うん、おはよう」


ソーリンが、同じ料理を二皿持って居間に現れた。食堂で調理して持ってきたらしい。

アラヤも椅子に座ると、目の前にその料理を置いてくれる。寝起きだってのに、ヤバイ、よだれが落ちそうだ。


「どうぞ、お召し上がって下さい」


「「「いただきます」」」


三人は木のスプーンですくって食べてみる。


「「「‼︎⁉︎」」」


やっぱりカレーに近い味だ!ただ、山椒に似た痺れが特徴的だけど、充分に美味しい。アラヤはすくうスプーンが止まらない。


「これは、インガス領で手に入る香辛料を使用した料理です。癖になる味ですよね?」


「うん、カレーみたいで美味いよ!」


「かれい?は何なのか分かりませんが、気に入っていただけたのなら良かったです」


「おかわりできる?」


あっという間に食べてしまったアラヤは、久々のカレーに食欲が止まらなくなっている。


「すみません、手持ちの香辛料では四人分がやっとでした。私の分でよろしければどうぞ」


ソーリンが自分の分をアラヤに差し出す。しかし、それをいただくのは流石に気が引けるよ。アラヤは食べたい気持ちをグッと我慢する。


「この香辛料は中々流通していない商品でして、手に入っても、直ぐに売り切れるんですよね」


「へ、へぇ~。そうなんだ」


「一般の方が買いに行っても、まず買えないでしょうね」


「……」


其処に直接買いに行こうと考えたが、見透かされている。人間は、古来よりグルメ家だ。一度美味い肉を味わってしまうと、それ未満の肉には満足できなくなってしまう。

これはソーリンにしてやられた。三人は、この世界でもカレーを味わえる事を知ってしまったのだ。今から先、絶対に食べたくなる時が来てしまうだろう。


「世界には、まだまだ沢山の食材や調味料があります。アラヤさん、私と来ていただければ優先的に手に入るんですよ?」


「う~ん…でも、二人を置いては行けないし…」


「一緒で構いませんよ?荷馬車も大きい幌馬車を改造して、快適に過ごせるようにしましょう」


「私はアラヤが良いなら大丈夫だよ?」


サナエさんは、反対ではなくむしろ乗り気みたいだ。しかし、アヤコさんは勉強会がある。流石に無理じゃないだろうか。


「アヤコさんには、勉強会があるからね。代わりになる人は居ないし…」


「アラヤ君、それは大丈夫です。私の後続はメリダさんとペトラが引き継いでくれる予定ですので」


まさかの既に手配済みだった。二人共、全然乗り気だったんじゃないか。迷ってたのは俺だけだったのか。


「たまには帰ってくるんだよね?」


「もちろんですよ。しばらくはデピッケルを拠点にしますけど、ポスカーナ領にも当然来ますので、その際にはヤブネカ村にしばらく滞在しましょう」


う~ん、そこまでしてくれるなら仕方ない。この世界を知る為にも、ソーリンと同行しよう。美味しい食べ物を新たに見つける可能性もあるからね。


「分かった。君に同行しようと思う。よろしく頼むよ」


「ありがとうございます!良かった~!早速私は、一度デピッケルに戻って馬車を用意してきます。父にもいろいろと報告しないといけませんね」


行くと決めたら、ソーリンの行動は早かった。直ぐに身支度を済ませて、直ぐに帰って来ますと言い残し、デピッケルへと帰って行った。


「どうやら初めから、アラヤ君狙いだったみたいですね」


「へ?」


「おそらく、ガルムさんからアラヤ君が鑑定持ちだと聞かされていたのでしょう。ガルムさんには、メリダさんが既に教えているでしょうし」


そうか、メリダさんもグルだったのか。どうりで、メリダさんの勧誘を直ぐに諦めたわけだ。まぁ、今更どうこう言っても仕方ない。


「大丈夫、もう決めたよ。今の俺達は来たばかりの時とは違う。せっかくだから、この世界を楽しんでみようよ」


「そうだね」


「はい。何処へでも付いて行きますよ」


三人は決意を新たに、村でのんびり生活を止め、世界を知る生活を送ることに決めた。乾杯とは違うけど、同じ様な気持ちで、三人は残された料理を分け合い食べるのだった。

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