表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキルが美味しいなんて知らなかったよ⁉︎  作者: テルボン
第3章 スキルが美味しいなんて知らなかったよ⁉︎
41/414

41話 3日ぶりのヤブネカ村

3日ぶりに帰ってきたヤブネカ村。雑貨屋の手前で荷馬車を止めると、さっそく帰って来たのに気付いた村人達がやって来る。


「お帰り、モドコさん。あの子達は無事に帰り着いたんだね」


「もちろんだよ」


「店長、早く店を開けておくれよ。昨日からランプ用油と広葉樹の葉が切れそうなんだ」


「あ、私にも頼む」


「ああ、今出すとも」


バタバタと、店長は忙しく店の準備を始める。3日居ないだけで、いろいろと仕事が溜まっているようだ。アラヤとザックスもそのまま手伝いに入る事にした。


「そういえば店長、あの卵はどうするんですか?」


全ての人達に品を渡し終え、陳列棚に品を補充しながら尋ねる。


「あの卵はね、中身は私が瓶詰めにしてガルム氏が来るまで保管する。殻の方は、メリダ村長に渡す手筈になってるよ」


「ガルムさんが来るのって、確か来月の黄竜月ですよね?」


「それはガルム氏の息子の成人式の件だろう?取り引きに来るのは再来月の紫竜月だよ」


そうだった。自分達がレニナオ鉱山の街に招待されてたんだったな。


「ガルム氏の息子って言ったら、王都にも出店してるバルグ商会の時期社長だろ?やっぱり、バリバリの商人気質なのかね?」


「ん~、私は何度かレニナオに赴いた時に拝見したが、まだ二、三歳だったからね。まぁ、あの木箱の積み木を見た時は、立派なドワーフになるだろうと思ったけどね」


思い出して微笑む店長。ああ、想像できますよ、店長。ドワーフの事だから木箱の積み木って、普通の小さな空箱じゃなくて、荷物の入った大きい木箱だったんですね?


ガチャ‼︎


荒々しく入り口の扉が開かれ、一人の女性が駆け込んで来た。


「アラヤが帰って来たって⁈」


「サナエさん、ただいま」


「ああ…おかえり。って、帰ったんなら、直ぐに逢いに来てくれても良いじゃないか。こっちは心配してたんだぞ?」


「うん、そうだね。心配してくれてありがとう。俺は見ての通り大丈夫だよ。二人の方は変わりない?」


「ああ。アヤと二人だと、やっぱり寂しく感じたよ。あと、火起こしで風呂を沸かすのが少し上手くなった。今日は私が沸かしてあげようか?」


ああ、魔法で今まで火起こししてたからね。水や明かりでさえも、俺の魔法で賄っていたからなぁ。ちょっと不便だったかもね。


「良いなぁ、新婚さんは楽しそうで」


ザックスさんが、受付棚に頬杖をつきながらぼやく。


「店長とザックスさんも、お帰りなさい」


「俺と店長はついでだろうけど、おかえりって言われるのは嬉しいな。ありがとうよ」


「ハルちゃんね、ザックスさんの姪っ子だったんだよ」


「えっ、そうなの?」


「ああ、向こうで知ったんだけど、妹の娘だった。妹に似て可愛くなるだろうよ」


「ザックスさんにも、良い人が早く見つかれば良いのに…ベスさんに誰か紹介…」


「ごめん、それはほっといてくれ」


そこからは、サナエさんも何も言えなくなる。ここに居ても居心地が悪いので、アラヤはサナエを連れ出した。


「アヤコさんにも、ただいまを言わないとね」


「そうだね。今は午後の勉強会をしてる筈だよ」


二人して村長宅に訪れると、室内から元気な子供達の声が聞こえる。邪魔しちゃ悪い気がするな。


「授業中だし、先に村長に挨拶するか」


裏手に回り、工房へと顔を出してみる。村長は、ろくろを使っての作業中だった。


「おや?帰って来たんだね、おかえり」


「はい、ただいま帰りました」


「フユラ村はどうだった?この村とはだいぶ違うだろう?」


「そうですね。全てに協力的なこの村とは、村人達の意識が違いましたね。俺はこの村の方が好きですよ」


「ハハッ、そう言われると、村長冥利につきるね」


村長は、素直に照れた表情を見せる。そして何かを思い出しのか、ろくろを止めて手を洗い出した。


「ちょっとこれを、見てもらおうと思ってたんだ」


これと言った物には布が被せてあって、その布をゆっくりと退かしていく。


「あ、陶磁器の便器じゃない!」


頼んでいた陶磁器の便器が完成したらしい。貯水タンクも要望通りである。


「完成したんですね、ありがとうございます」


「便座部分は木製で、着色した後に釉薬仕上げしてあるよ。せきや排水路に苦労したよ」


「すみません。せきで水たまりを作らないと、匂いが逆流するので仕方ないんです」


「これを作るのは、素材調整・整形・焼成の全てが熟練した職人じゃなきゃ、とてもできないよ?」


「ええ、流石はメリダ村長です。陶芸家の腕は王国一ですね!」


「いやいや、褒め過ぎだって!」


とても上機嫌で、まんざらでもないようだ。村長って、褒め言葉に弱いかもしれない。


「アラヤ、でも下水道はどうするの?」


「今は、配管を作る技術が無いからね。とりあえずは、スライム浄化槽で水に変えて、汲み取る形だね」


「下水道ね。王都や大きな街に行けば、水路は整備されてるから、そういう場ならこの便器の需要も伸びるかもね」


まぁ、試験的なものだから、製造販売はまだ先だね。とりあえず、便器を亜空間収納へと納めておく。


「ちょっ、アラヤ⁈何、今の黒い渦は⁈」


二人して驚いている。あれ?そういえば見せた事無かったっけ?


「そんな希少技能(レアスキル)、いつから持ってたのよ?それがあれば発掘の際には荷車さえ要らないじゃないの」


これは、知られたらマズい種の技能だったな。今から先、村長の荷物持ちになりそうな予感がする。


「人前では使わないようにします」


「まぁ、その方が良いわね。どの国内でも超が付くほどの重要技能だからね」


「うわ…マジですか」


「考えてもみてごらん?まぁ、レベルによって量は違うだろうけど、武器や食糧の移動が人一人で済むのよ?軍事利用はもちろんのこと、物資運搬も簡単に済むわ。それにアラヤの場合、鑑定も持っているから引っ張りだこになるでしょうね」


流石に、国に利用されるのは勘弁したいな。便利過ぎる技能は、人前では極力控えよう。


「あ、話は変わるんですけど、ガルムさんの息子さんの成人式には、村長も同席するんですよね?必要な物ってありますか?ご祝儀はお金が無いので…」


「そうだね、祝儀は私の方で準備するから、心配いらないよ。後は礼服と、外出用の普段着が必要だね。貴方達はしばらく滞在するかもしれないからね」


「礼服と普段着ですか、織物屋にまた依頼しないとですね」


二人は村長にお礼を言って、教室へと向かった。もうそろそろ終わる時間だろうから、声をかけても大丈夫だろうと思う。


扉を開けて中を覗くと、丁度教材を片付けているところだった。


「あ!アラヤだー!」


「あ、ホントだー!」


子供達に先に気付かれて、周りを囲まれてしまう。


「お土産はー?」


ああ、そういうのを何一つ用意してなかった!コボルトの耳とか?ロック鳥の羽根とかを回収しとけば良かったな。


「ご、ごめんな。今回は用意できなかったんだ」


「えーっ!」


ブーイングの嵐である。3日しか離れてないし、そんな状況じゃなかったからね。


「ちょっと皆んな、アラヤ君を困らせないの!早く、お片づけを終わらせましょう」


「「「はーい」」」


アヤコさんの一声で、子供達は再び片付けに向かった。先生には従う良い子供達になったね。


「アラヤ君…おかえりなさい」


「うん、ただいまアヤコさん」


しかし、見つめ合う時間は短く終わる。子供達とサナエさんの視線があるからね。すると、ダンがやってきてアラヤにしがみつく。


「ん?どうした、ダン?」


「タオとハル、二人は元気になった?」


「ああ、元気になったよ。村でも両親と会えたからな。もう大丈夫さ」


「そっか、良かった!」


嬉しそうに他の友達に教えに戻る。子供達も、二人の事を心配してたんだな。


「じゃあ、そろそろ行くねって、どうしたのアヤコさん⁈」


アヤコさんは、「眼福…」と何故か口を抑えてハァハァと高揚している。うん、ほっといた方が良さそうだな。


「サナエさん、行こうか」


「う、うん…」


彼女をそのまま置いて、礼服の依頼をする為に二人は織物屋へと向かったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ